作り手から知るその価値 ~ delightful tool 寺田太郎氏×holo shirts. 窪田健吾氏 対談

来たる1月12日から始まるイベント『靴とYシャツと私』、ここで中心となるdelightful toolとholo shirts.は、靴/シャツと扱うものは違えど、その価値観やスタンスがとてもよく似ています。

そこで今回、各ブランドを手掛けるお二方にお集まりいただき、その哲学やなぜこの道に至ったのかなどを対話の中から導き出してみることにしました。

ブランドや製品以上に作り手さん個人にフォーカスした対談、どうぞお楽しみください。

寺田 太郎(見出し画像・右)
1982年6月5日新潟県新潟市生まれ。
中高生の頃から革靴に興味を持ち始め大学卒業後、mogeworkshopにて2年間靴作りを学ぶ。
教育関連の会社に勤務した後、革靴のメンテナンス用品を扱う会社を経て、2016年にdelightful toolを開業。

窪田 健吾(見出し画像・左)
1986年8月15日長崎県島原市生まれ東京育ち。
高校を卒業する頃よりミシンを使いはじめ、古着の解体・リメイクなどをはじめる。
その後、大学時代も独学で服作りを続け卒業後、繊研新聞に入社。
まだまだ独学を続け、サラリーマン最終年度にエスモードジャポン大阪校の夜間に通って独学との答え合わせを試みる。
退社後、準備期間を経て2014年11月にholo shirts.として開業。

なぜ靴なのか、なぜシャツなのか。

Euphonica そもそも、なぜお二人がシャツや靴を手掛けるようになったのか、生い立ちから遡って教えていただけますか?

寺田 靴自体に興味を持ち始めたのは、たぶんぼくらの同世代のほとんどがそうだったように、90年代スニーカーブームあたりですね。
そこで靴って面白いなと思って。
ハイテクスニーカー、ナイキのバスケットボールシューズを買ったのが、自分で靴を選んだきっかけです。

窪田 最初はスニーカーからだったんですね。
そこからどのようにして革靴に?

寺田 『Boon』でクラークスやレッドウィングを知って。
当時ビルケンシュトックのパサディナが人気があってそれを買ってみたりとか。
地元の新潟から東京に出てきて三原康裕さんの靴を買ったのが高校生くらいですかね。
それからだんだんとヨーロッパの靴に興味を持って、これも高校生のとき、トリッカーズを手に入れて、そのあたりから好きなものが固まってきました。
革靴ってシンプルに不思議なもので、平面が立体になるってどういうことかなと、だんだん作る方向に興味が出てきたんですね。
ただ高校を出てすぐに職人になるとかは考えていませんでした。
大学は建築とか工学を専攻しようと思ったんですけど、数学にも興味もあったので、理工系の中から数学科を選んで。
そこから周りの8~9割が選んだように教職課程を取って学校の先生になるのではなく、大学を出た後は靴の専門学校に通って、それから学生時代にアルバイトしていたこともあって塾講師として働いていました。
でもやっぱり革靴の世界に戻ってきたいなと。
働きながら革靴を触ってきて、結局自分の欲しいものがありそうでない、だったら自分でやってみようと思って。

窪田 それで言うとぼくはシャツに行き着くまで、小さい頃からのルーツを思い返すと、あんまりないんですよ(笑)。
もちろん服は好きでしたし、いろいろ買ったんですけど、洋服ジャンキーというほどではない。
たぶん本格的に興味を持ったのも中学生の終わりとか高校生の始まりとか。
高校時代はバイトもしていなくてお金がなかったから、身の回りにあるものや現実的に手に入るものから選んだり。
それと家に母親のミシンがあったのは大きくて、もともと工作が得意だったから、父親や母親が着なくなった服なんかを改造していました。
大学も専門学校ではなく普通の四年制で英語学科に進んで、わりかし緩めの学部といいますか、きつい課題も多くなかったので、もてあました時間で服を見に行ったり美術館に行ったりとか。
そんななかどんどん服が好きになり、将来服で何か仕事したいんだ、くらいの気持ちになっていって。
『王様の仕立て屋』とかの影響もあって自分で何かやりたいなというのも。

寺田 テーラーを主題にしたまんがですね。

窪田 そう、だからテーラーに憧れたこともあったんです。
いずれにしてもまだこのときはシャツで、といった気持ちはありませんでした。
ぼくは当時ユニクロでバイトしてたんですが、そこで繊研新聞の存在を知って。
店長が読み終わったのを休憩室に置いていて、アルバイトが読むか読まないかをどう考えていたのかは知りませんが、とにかくそれを読む小僧がいて(笑)。
その後運よく繊研新聞に入社することになりました。
ひとつのメーカーにいたら知り得ないことなど、たくさんの情報を得ることができたのはよかったですね。
4年間の会社勤めのときも、学生の時ほど頻繁でないにしても自分で服を作ったりして、だんだんと、やっぱりそれを形にしたいなと思ったんです。
でもいろいろ業界の表裏を見て、これはもう、大儲けは無理だなと(笑)。
編集とかメディアの仕事を選んだだけあって人と会ったりするのは好きだったので、対面で販売できる仕事がしたかった。
それとさっき話したまんがの影響が重なって。
そこでテーラーに行かなかったというのは、普段使うものがよかったから。
スーツとなると、どうしても男性のハイクラスな方々だけのもの、となってしまって、着てもらう機会が減るなと。

寺田 すごいなって思うのは、ぼくとか井本さんがそうだったように、普通はまずこれを着てみたいという衝動があってお金を貯めて買って、やっぱり違うなってところから深みに嵌っていくものなんですけど、窪田さんの場合は洋服が好き、だから作ってみようと(笑)。

窪田 家にミシンもあるし、金もないし、作るか、じゃあ!って(笑)。
シャツだけでなく、パンツなんかも。アウターはあんまり作りませんでしたけど、裏がぼろぼろの古着のブルゾンを、なんとなく見様見真似でパターンを抜いて、生地屋さんでキュプラを買って張り換えるとか、そういうトライはしたかな。
学生の時はいろいろと万遍なく作りました。

Euphonica シャツに絞ったきっかけは何だったのでしょうか?

窪田 はっきりとは覚えていないんですけど、よく着てたからというのはありますね。
それと普通の人では面倒くさいと思われる、シャツのパーツの多さも面白いなって。
作るの好きだから(笑)。
寺田さんが自分で作る方にいかなかったのは?

寺田 比較的手を動かすのは好きで、実際得意な方でもあるものの、靴を作り続けてそれを生業とするにあたり、求められている能力が違う気がして。
専門学校のときに気づいたんですが、靴職人として大切なのは、作り続けて、自分で納得できないところを常に修正して、それを続けていく根気なんです。
でも、ぼくは単純に飽きっぽい(笑)。
ただやっぱり靴は好きだし、自分の欲しいものを形にしたかったので、環境を整えながら今のスタイルになっていきました。

窪田 型を決めてブランドとして販売するのではなく、オーダーにしたのはどういう経緯があったんですか?

寺田 既製品だと、完全に満足できるものがなかなか見つからないんです。
いい素材、つくりでとなると価格は最低でも5~6万するのに、さらに履き心地、足との相性などの要素があって、それが自分にとって当たりとは限らない。
で、合うものを探しているうちに3足目となったら15万、手頃な価格のオーダーが見えます。
そんななか注文靴を作っているブランドは増えてきていたんですが、それも自分の中でイメージする靴とずれがある。
また、自分自身の足がそこまで難しいタイプではないので、靴を作るにあたり木型を一から起こす必要も感じませんでした。
金沢にKOKONさんという、工場を動かしてパターンオーダーよりももうちょっと踏み込んだ調整ができる靴屋さんがあって、その手法がヒントになりました。
実際フルオーダーであれば何でもできるかといえば、価格的な問題もあるし、意外と完成形とイメージとのずれも起こりやすい。
仕組みを簡略化することで実は逆にできることがあると気づいたんですよね。
革靴って、ちょっとのめり込むと「こうでなければいけない」がたくさん増えてきて、それを超えると「これでもいいんじゃないかな」と落としどころが見えてくる。
既製品でもなくフルオーダーでもなく、ただのパーツを組み合わせるパターンオーダーでもない、工場を動かすだけじゃなくて自分の手も携わっているからできる範囲はもうちょっと広い。
というのがぼくのなかでは丁度いいと思ったんです。

高級品を目指さない理由。

Euphonica シャツにしても靴にしても、オーダーなんて特にそうだと思うんですが、もっと高級な路線もあるなかで、敢えてそこを目指してはいないんですよね。

寺田 でも、簡略化、簡素化しすぎるのもよくなくて、となると日常使いと言いながら、実は価格帯としては決して安くできないんですよ。

窪田 そうなんです。自分たちでも日常で使う道具、と言いつつも、高いよね、って(笑)。

寺田 素材や作りを考えれば妥当な価格設定にしているはずなんですが、絶対的には安くない。

窪田 ただ、それこそ超高級な200番手300番手といったすごく細い糸を作ったドレッシーな、一回着たら剣先どうなるのって心配になるような(笑)生地を使う方向もあったかも知れない。
でも、そもそもぼく自身が服を着るときの扱い方に沿っていくと、あんまり毎回クリーニングに出してっていうのも生活スタイルに合わないし、洗って綺麗に干したら着られる、ちょっとスチーマーを当てて整える、くらいがいいので。
だから自分としては超高級な5万も6万もするシャツを着る生活が想像できなくて。
高いかも知れないけど、まだ2万くらいなら洗濯機ネットに入れて干して着る、というのが気持ち的に追いつくかなと。

寺田 日常使いのための身体性は意識して、ストレスなく使えるようにしています。
オーダーの世界って、シャツにしても靴にしても、スーツのときとか、ドレスシューズが中心で、日常生活に落とし込むと、意外にやっている方が少ないんですよね。

窪田 やっている方がいないというのは気づいていて、なぜだろうかと考えると、オーダーのシャツって、カジュアルに落とすと、解釈が拡がり過ぎて面倒くさくなるんですよ。
決まった型をベースにして、というパターン化がしづらい。
しかも男女も着られて普段着、となると可能性が無限となっちゃうんです。
だから効率化がすごく難しくなってビジネス的に楽じゃない(笑)。
「ああ、やる人いないのはこういうことか」ってやりながら納得してます(笑)。
でもやっていくなかでお客様の傾向とか体のデータとかを蓄積できたので、今回パターンオーダー、形を決めてサイズや生地を選んでというのを始められたんです。
こっちはどちらかといえば体に合わせるというよりは着こなしてもらう、となるんですが、でもひとつの提案として、お客様にとってよいたたき台になるかも知れないと期待しています。

寺田 フルオーダーのいいところって自由度が際限なく拡がることですが、それゆえに収拾がつかなくなりがちで。
革靴をたくさん履いてきて、知識もあって、ほかでもオーダーをしてきた方ならできても、逆に言えばそれくらいオーダーする側に知識や経験が必要になってしまう。
だからそこまで範囲を拡げず、でも最初から足が当たって痛いところとかはあまりコストに跳ね返りすぎない程度に調整できたほうがいい。
型はある程度絞って、完成形をイメージしやすく、フィッティングに関しては可能な範囲で対応する、そうやって拡げられるところと狭めるところを意識しながら探っているところです。

窪田 今ぼくが履いている靴をお願いした時、けっこういろんなことができるなと思いました。
フィッティングは寺田さんに漠然とした感覚を伝えながら基本お任せして、見た目に関してはステッチを大きくしてカジュアルに寄せたりとか、そうした求めるものをイメージしながら相談したり。

寺田 現状オーダーいただいている方は、もちろん靴好きな方もいらっしゃるのですが、意外と初めて買うちょっと高価な靴がうち、という方も多く、それだと当然何もわからないわけです。
そのなかで出来る限り長く履いていただける一足を作るために、こちらの持っている知識を伝えながら、ご自身の好きなものやこうしたいというポイントを引き出して形にしていきます。

窪田 シャツのフルオーダーでも、慣れている人はいるにはいますが基本的にはお客様はオーダーするのが初めてという方が多いので、選択肢を絞りつつ、ハイ決めてください、ではなくて、これならこう見えますよとこちらも意見を出して、一緒に決めていく方法をとっています。

寺田 価格だけでなくそういう部分を理解していただけているのは有難いですよね。
敷居を下げるのはすごくオーダーに於いては大事なんですけど、下げ過ぎるわけにもいかず。
窪田さんのなかで、オーダーの敷居を上げすぎず下げすぎず適度なところで抑えるために意識していることはありますか?

窪田 うーん…雰囲気作り(笑)。
それはウェブサイトもそうだし、お店を構えているわけではないので、入り口として、オーダーだけどこんな雰囲気というのを伝えられればなと。
いかつく、技術を前面にゴリゴリ押し出して、にはしたくないですね。
オーダーは難しくて怖いものではないんですよ、と言葉で伝えていくというのは常に意識しています。

寺田 窪田さんはtwitterでもふだんの生活をつぶやかれていますし、一緒に活動されている仲間も飲食だったりイラストレーターさんだったりと、そういうところが一消費者の目からすると親しみやすいですね。

窪田 だれかと一緒にやるのも、結局オーダーしてくれなくてもこういうことやっている人がいるよと知ってもらうためで、次に偶然近くで受注会があれば思い出して行ってみようかなと思ってくれればくらいに思っています。

寺田 計測とかフィッティングだけでOKですよと言っても、どうしても頼んだ以上はオーダーしないといけないと思われがちですので、そのハードルは下げたいですね。
まずは活動を知ってもらうのが大事なことだと思います。

窪田 やっていることがニッチなのは自覚しているので(笑)。
知ってもらうことの大変さは常に常に感じています。
しっかりした店構えがあるわけでもないし、ロールモデルはいないし、やってること自体一般的に理解してもらいづらいですからね。
このスタイルであるからには地道にやっていかないといけない。だからいろんな入り口を設けています。

Euphonica 知らないものにお金を出すのが怖いという方は多いですしね。

寺田 知らないものにお金を出す、しかも安くない、さらにオーダーで。
だから活動を始める前に有名なところできちんと研鑽を積んできました、というのはお客
様を納得させる、安心していただくためのやり方として理に適っている、でもぼくらはそ
ういったやり方ではない。
同じオーダーでありながら、少し世界が違うのかも知れません。

窪田 オーダーの靴の世界で横の繋がりってあるんですか?

寺田 繋がりはありますね。
狭い業界ですから、一人くらい介せばだいたいだれかしらには繋がるんです(笑)。

窪田 いやあ、自分には全然いないなと思って(笑)。
ファッションの世界にも知り合いいないし、オーダーの世界にも繋がりがなくて。
活動の仕方も特殊なので、同業者からも「何やってるのかちょっと理解できない」と思われたりしてるんだろうなと(笑)。
でもやっていることに関しては自信がある、というか、信じられる。こういうのが存在していて、悪いことはないんじゃないかなと。それを求めてきてくださる方はいるし、だから続けたい、続けようと思っています。

サンプルの役割。

窪田 ところで、靴だと、初めてオーダーされるお客様ってやっぱり緊張される方が多いんですか?

寺田 自分のアトリエに来ていただける方はある程度知識があって、かつ下調べされているので、実はお互い身構えることはそんなにないんです。
ユーフォニカさんのイベントだと、なんとなくオーダーってどんなのかなと興味があって、あとはたいていの方は井本さんから話を聞いているので、それで事前にある程度情報は持っているようですね。

Euphonica いつも置いている既成ラインの黒いプレーントウで履き心地のよさを知って、それでオーダーにご興味を持っていただける方は割合として少なくないんですよ。

寺田 見た目がよくても履いて歩いて、からスタートですから、足に合わない、硬い、それで買うなんて選択はよっぽどのブランド力がないとあり得ません。
まずは履き心地で納得していただくために、フルサイズのサンプルシューズを用意しています。商品のご試着だと、やっぱりお客様の方でも気を遣ってしまいますので。

窪田 ぼくはサンプル的なものがない状態で4年くらいやってきましたが(笑)、それでやってきたという自負のある反面、今まで皆さん不安だったんだろうなとも思います。
服屋さんで受注会がほとんどなかったのも、そういうところに理由があるのかなと。

寺田 完成形の見える安心感というのはありますね。

窪田 お薦めしやすいですしね。

Euphonica 実際、フラッと来て採寸するというのも勇気が要りますよね。

窪田 「これから一時間いただきますよ」って (笑)。
だからちょっと試着してみようかな、くらいのノリが、さっき話したように知ってもらうために大切なのかなと。それから「こういうのが欲しいんだよね」とフルオーダーに繋がるかも知れない。
やっと準備できたので、今回皆さんに試していただけるのが楽しみです。


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