ブランド発足10年目を迎えるにあたり感謝の気持ちと愛情表現をコレクションテーマの裡に込めた今季のASEEDONCLOUDを象徴するような2着、お父さん用のコートとお母さん用のコートです。
何を言っているのかよくわからない方が大半だと思いますので、順を追って説明していきましょう。
まずお父さん用のコートであるFather’s Coatから。
馬布にパラフィンを含侵させた”Mogamibana Saddle cloth”を用いて仕立てられた、強靭な一着です。
一枚仕立てと言え防風性は高く、チンストラップを使うことで首元をしっかりガードしてくれます。
また、内側にたすき掛けのように配置されたストラップに腕を通しながらコートを纏えば、コートを脱いだ時にもここで背負うような状態になり、両手を自由に使うことができます。
その機能を使わないときには、腰のループに通すことでウェストベルトとしても使用可能です。
この機能的なミリタリー調のデザインに、あたたかな愛が隠されています。
ハンドウォーマーポケットは貫通式で、ポケットとしての役割のみならず中に着ているジャケットやパンツのポケットにも手が入れられるようになっているのですが、
このポケットの左側に、ラブの秘密が。
一概には言えないまでも、人間には護りたい人を左後方に配置した状態にする心理的傾向があるようで(これはおそらく右利きの人が多く、護りやすいからではと推察されます)、その左後方に、もうひとつのポケットが設けられています。
この入り口が左側のハンドウォーマーポケットに至り、ここから子供が手を入れると、ポケットに入れた着用者の手と手をつなぐことができるというわけです。
コートと愛の邂逅が、ここに成されました。
今季のテーマである「雲上花」から、雲海をイメージした乳白色のメルトン”Peasant Melton”で仕立てられています。
英国海軍のダッフルコートを思わせる粗野な印象にしっとりとした質感を両立させた、実にアシードンらしい生地です。
手触りがやさしく凍てつく日でも冷たくなりにくいという実用面のみならず、そのぬくもりある表情も魅力的ですね。
このコートはゆったりとしたつくりとなっていて、寒さのあまり潜り込んできた子供を着たまま包み込むことができます。
この”HOLD FIRST”は昔ワークウェアに用いられていたであろうものに由来しているのですが、ここにも素敵な逸話が秘められています。
ボタン大好きなデザイナーの玉井さん。
ロンドンに住んでいた時は、古いワークウェアやユニフォームに使われていたジャンク品のようなボタンを狂ったように蒐集していたとのことです。
そのなかでとくに気に入っていたのが”HOLD FAST”と刻印されていたボタンでした。
これは単に「(ボタンを)しっかり留めましょう」という意味の刻印なのですが、とあるマーケットで玉井さんが出会ったおばあさん曰く
「本当は”HOLD FAST”ではなく”HOLD FIRST”というボタン。子供のユニフォームの一番上に付けられていて、一番最初にこのボタンから留めましょうと言う意味だったのよ」。
実際それから”HOLD FIRST”ボタンを見つけることはできなかったようで、おばあさんの話が本当なのか作り話なのかはわかりません。
と言っても、その真偽はさして重要ではないでしょう。
のちにASEEDONCLOUDを発足した玉井さんは間もなく”HOLD FIRST”ボタンを作成、とても大切なものとして、現在に至るまで断続的に使い続けています。
そして、まさしくこのコートではエピソード通り子供用のボタンとして機能するわけです。
ボタンを全部留めても、埋もれません。
この隙間から顔が出せますから。
ポケットはFather’s Coat同様貫通式ですので、中の子供に触れることもできますよ。
もちろんどちらも一人で着ることが多いでしょうし、べつに子供と一緒に使わなければいけないはずはありませんが、デザインに込められた作り手の思いくらいは知っても無駄ではないと思います。
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