魔人に問う

先日、THE CIRCA BRAND(以下CIRCA)およびOlde H & Dauter(以下OH&D)の新作を拝見がてら、あつかましくもルックの撮影現場にまでお邪魔致しました。

ディレクター福原さんの快諾をいただき、店主も脇からパシャリパシャリ。

なかなか新鮮な体験でした。

さて、撮影がひと段落し、新作をチェックしながら、Olde Homesteader(以下OH)も含めたOLDE THINGSの3ブランドの今までの軌跡を思い返していました。

トランクスだけのブランドとしてOHが始まり、やがてアンダーシャツ、靴下、スウェットと、肌着の域を超えた成長を遂げ、それに並走するようにOH&D発足、そして福原さん曰く「モード」であるCIRCAの登場…

店主はこれらすべてを立ち上がりから見てきてはいますが、現在この3ブランドが作り手側から見てどのような存在なのか、どんな思いが込められているのか、せっかくなので改めて訊いてみることにしました。

福原さんと、OH&Dを手掛け、かつCIRACA共同ディレクターである藤林さん、お二人への雑談的なインタビューです。
ファンは必読。
どうぞたっぷりとお楽しみください。

Euphonica(以下E) 今OLDE THINGSが展開している3ブランドの中で、CIRCAが一番特殊と言いますか、肌着から離れていますよね。作り手視線ではどのようなブランドとしてイメージをされていますか?

福原 CIRCAはOHの活動を通して考えを共有し、お付き合いいただいているお店さんに、よりパーソナルな、僕にとってとても大事なものを提供したいと考え、始めることにしました。
当初はもっとユニセックスを意識して考えていたんですけど、OH&Dをふまえたうえでメンズ寄りに。
今後はよりユニフォーム、ワークウェアといった要素が強まっていく感じに向かっていくと思います。
ただ、男性は意識していますけど、CIRCAの服を女性のお客様が取り入れていただくのはうれしいです。

E デザインの発想、時代感としてはOHとは違うということでしょうか?

福原 はい、OHはもっと過去を見ていて…。
CIRCAは「今」、「モード」をやってるつもりなので。
OHの商品は40年代以前の作り方、もののありかた…これは『サザエさん』なんですよ。

E 『サザエさん』!??(笑)

福原 実はOHは、1949年をずっと生きているんです。
アメリカ在住の日系人…ヨーロッパのものを蒐集していて、これから未来に向けてものを作ろうともがいている日本人の設定なんです。
それに対し、CIRCAは1959年。
OHから10年経った状態で…CIRCAもまた『サザエさん』なんです。
ものの作り方も、手作業だけでなくて、工業的な、大量生産のいいところもブレンドしながら…それも今では失われた作り方だったりするわけです。
50年代の人から見て親世代が着ていた年代の服をふまえながら、生地に関しての考え方などはその先の60年代を意識しています。

E 1959年の実際というよりも、当時の目線で、そのときに「これから」だった60年代も意識しているということでしょうか?

福原 そうです。そこを通して「今」の服にしています。

E CIRCAの展望としては今後どのように拡がっていくのでしょう?カットソーを作るとか?

福原 それは考えてないですね。
OHは現在肌着の枠から拡がって”knitwear”を称しているわけですけど…実はぼくのなかでは1949年の中で半年進んだんです(笑)。

E 半年(笑)。

福原 これから50年代を迎えようとしてます(笑)。

E 拡がってはいても、あくまでOHは編みの世界だけで完結させる、と。

福原 そうですね。過去の下着メーカーって、布帛とカットソーの境目が曖昧だったりして、布帛のパンツがあってパジャマがあって、といった感じだったわけなんですけど、そっちのほうはOH&Dのほうでやるべきだと考えていて、そこは役割を分けようと思ってるんですよ。
OHはあくまで肌着をベースとしながら、編みもの…スウェットから、セーター側に進んでいこうかなと。
それと、今までは綿がいい綿がいいってずっと言ってきましたけど、そこはもっと柔軟になろうかなと思っています。

E ナイロンとかポリエステルを使うわけではないんですね?

福原 そこには行きません。
一方でOH&Dはあくまで室内着を前提に、でもスリーピングウェアというわけでもなく。

藤林 そもそもOH&Dのコンセプトが「ラウンジウェア&タウンウェア」で、そこからはみ出ないようにしています。
でもカットソーにはこだわっていなくて、あくまでルームウェアでありながらも、自然に外へも着ていける服というのを前提に。
ガウンだけどコートとしても外で着られるとか、そういう考え方ですね。

福原 現代のパジャマそのものを外で着るとかでなく、過去にパジャマとして作られたものを今の人が古着で買って、好きなように解釈して外で着る、そんな感覚に近いです。
たとえばオープンカラーシャツ、あくまでパジャマとして存在していたものをパジャマとして受け入れ、その素材だったりディテールだったりを考察したうえで、それぞれが好きなように工夫して外着として使ってもらえるように作っています。
OH&Dも、どのブランドにも共通しているのは、ぼくらはレプリカを作ろうとは思っていません。
過去を向いて、過去ならではのいい部分は取り入れますが、再現をするわけではないんです。
単純に過去が一番いいとしてしまうと、過去を超えられない…というか、それをやる意味がないと思っています。
服の具体的な時代設定もしていません。

E 客観的には、3ブランドのなかでOH&Dが一番「今」の服のように見えます。

藤林 そうかも知れませんね。
それでも、「ただのファッションにはなりたくないな」というのは軸としてあります。

E そこは一貫してますよね。

藤林 CIRCAに関しても、いろいろ組み合わせて楽しんでいただくのはもちろん、あくまで前提としてはプロダクトとして伝えられるものを作りたい。

福原 感覚的なよさはもちろん大事で、でもそれだけじゃなく、ものとして…ストーリーだったり、ロマンを大事にしています。
そこはディアゴスティーニ的な感じと言いましょうか。
ひとつひとつ増えていって、楽しみながらひとつのシリーズができあがるような感覚です。

藤林 お気づきかと思うんですけど、下げタグにもパンチ穴が開いていて、ファイリングできるんです(笑)。

福原 最終的にどんなファイルができるのかは乞うご期待(笑)。
万人でなく、少しでも響く人にものすごく刺さればいいなと。
そういう感覚そのものは、トランクスだけから始まったころと何も変わっていません。

E 狭く深くというのはずっとブレませんよね。

福原 30歳半ばを超えて、それまで服に携わってきましたが、これから自分のどのような活動が一番社会に貢献するのだろうと考え、トランクスを作らないといけないと思い込むようになって。
で、それを誰に渡すべきかとなったときに、幅広く、じゃなくて「この人から買いたい」って思われるような人に預けたい、そしてぼく自身もそういう買い物をしていきたい、人とそういうコミュニケーションをとりたいと考えたんです。

E とくにここを見てほしいという部分はありますか?

福原 CIRCAにとっていちばん大事なのはファブリック、まずは生地を面白がってもらいたいです。
ただ単に貴重な原料を使うとか、背景の特殊さをアピールしていくとかでない、素材、生地を扱う感覚そのもの…そこを出していきたいですね。

E 可能性を提示するってことですね。

福原 そうですそうです!
技術選手権をしているわけでもないし、高いものがいいってわけでもない。
それぞれの考え方、役割ってあると思うんですよ。
たとえば靴下、肌着にはスーピマ綿を価格面、品質面でも普遍性が高いものとしてぼくは大事にしています。
でも一方で布帛では、カッサカサでもいい場合がある。
たとえばデニムがいい例ですけど、たまたま時代の、設備や原料の調達具合の都合から、偶然の産物としてできたものにあとから価値をつけただけで。
でもその硬い不揃いな綿が、10年20年着倒して、繊細な風合いになる。
時代を通過して辿り着いたものがあるんですよね。
だからそこに対し高級綿でアップデートとか、そういうのは自分のなかで響かないんです。

E OHを始めたときからその後のヴィジョンは見えてました?

福原 実は見えてました。

E では、最初からトランクスだけで終わらせるつもりはなかった?

福原 そのつもりはありませんでした。
トランクスを作ったきっかけとしては1900年代のある通販カタログの存在が大きかったんですが、服だけを作っているときは、ぼくはそのカタログのなかの服しか見えていなかった。
でもいったん服から離れて見返したら、当時こういう暮らしがあったんだなというのが見えてきて。
服だけじゃなくて、それこそ肌着とか、そこに生活のすべてがある。
ぼくは「こういった存在になりたい!」と思ったんですよ。
洗剤を始めたのもそういうことです。

E 一人百貨店みたいな?

福原 そうですね。自分の役割として、それが世の中に必要なのであれば、やるべきだなと。
でもトランクスだけのOHから始まったからこそ、布帛もの、洋服を作るにあたり今の場所に辿り着けたと思います。

E たしかに、最初からCIRCA、服から始めたところからOHを始めたら、片手間でトランクス作っているように受け取られたかも知れないですね。
よりによってこの時代にトランクスだけでブランド立ち上げちゃうような人が始めた服だからこそ、余計伝わるものがある。

福原 最初、ぼくに対して免疫のない状態でいきなり突撃して話訊いてもらっちゃって、ほんとすみません(笑)。

E オファーいただいたときトランクス穿かないからって断ったのに、来ましたからね(笑)。
でも結果ぼくはもう福原さんのトランクスしか穿けない体にされて、完全にしつけられてしまった(笑)。

福原 とはいえぼく自身が、OHも、CIRCAも、誰よりも一番好きなんです(笑)

E ぼくもそうですよ。ぼくが自分の店のこと一番好きですもん。でもそうじゃなきゃ伝わらないですよね。

福原 「この感覚って、体験したことあります?」って共感してもらえるものを作ってきたつもりですが、そこは何よりもお店さんの言葉でお客さんに伝えていただきたいんです。
それをすっ飛ばして直接メーカー側で何もかもわかりやすく伝え、完結させるというのは何か違う気がします。
その部分、間に入ってくれる人の言葉って大事なんですよ。

E ポジティブな意味での未完成品でありたい、ということでしょうかね。

福原 そういう感じです。余白を設けて、あとは着る人が好きなように、工夫したり。
そのアウトプットの手法が、モードなんだと思っています。
今って何もかも用意されすぎというか、親切すぎる。
デパート基準なんて、だれのためなんだろうって思いますよ。
たとえば、パンツ(S201A)の針シンチバックに対して、10年くらい前に危ないからとデニム界隈でNGになって。一方でこの針刺しのアンティークやヴィンテージの魅力も評価されていて、その乖離が気持ち悪い。
だから、そのよさをきちんと伝えられるお店さんと一緒になって提案したいんです。

E 作り手、売り手、買い手、みんなが共同で楽しんでいくって感覚ですよね。なんでもお膳立てするんじゃなくて。

福原 すり寄るという感覚でなく、一緒に、それぞれの考え方で楽しんでいきたいですよね。

E とくにCIRCAがその傾向強めですよね(笑)。

福原 それぞれの役割を大事にして、揺るぎない部分は大事にしつつも、いい意味で裏切って…「あれ、今週の『サザエさん』、ちょっと時間進んでる?」みたいな感じで(笑)。


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