私を背中から抱きしめて囁く貴方の国の言葉は

「これ日本製ですか」「**製のものを中心に選んでいるのですか」
しばしばお客様から頂くご質問です。

実は当店では基本的にどこ製最高、という意識はありません。
生産国ありきでなくまずはその品が良いか悪いかをフラットに見ています。
ただ、その生産国に必然性を求めているだけです。

残念ながら日本製イコールすべてが高品質、というわけではありませんし、逆に中国製イコール粗悪品ということもありません。
大切なのはなぜそこで作ったのか、という部分だと考えています。

一般的なイメージの中国製品の劣悪な品質は、愚かしいまでの価格訴求の結果に過ぎません。
勿論当店では低価格低品質のゴミ予備軍など置く気は毛頭ありませんが、それが中国製品排除には繋がらないということもまた申し上げたい点です。

たとえばalk phenixやMONTANEは中国製ですが、どれも驚くほど高い縫製技術の賜物といえます。

実際アウトドアやスポーツのギアは中国をはじめとしたアジア各地の設備が整った工場で生産されているものばかりで、そこで多数の熟練の職人が欧米各国や日本企業の厳しい品質基準をクリアするものづくりを真摯に行っています。
特にアウトドアギアに関しては品質が生命に直結するため、粗悪品の存在できる余地などありません。

そしてそうしたギア類に限らず、今や中国には日本製を上回る縫製能力を持つ工場は珍しくない状況です。

では日本製とか欧米製の商品は中国製と同じ品質で値段が高いだけなのか。

そこがほかの工業製品と衣料品の違う、面白いところです。

当然工場や工員によって違いはありますが、ざっくりとした傾向として日本製品は機械のようにきっちり丁寧に作られます。
手というより品質管理基準に起因するところでしょう。
縫製が綺麗であったり、型崩れがしにくかったり、というプロダクトとして受け入れられやすい長所です。
ホールガーメント編み機のような機器類の開発技術も高いので、テクニカルな面白さを持つものづくりも得意とします。

アメリカ製品は総じて雑ですね。
縫製にしても何にしても、左右非対称が当たり前の世界です。
ただしそれなのに異常に高い耐久性、またそれが実現する使い込む喜びを備えているところが比類ない魅力となっています。
男性用に不朽の名品が多く、女性用ではぱっとしないのもそのせいです。

欧州は一概には言えず、国や地域によってまちまちです。
たとえばイギリス周辺では古くから羊織物産業が盛んですので、その歴史の分ニットや毛織物関係では素晴らしいものづくりを行うメーカーは多く、感性(色であったり質感であったり)の点でも世界トップクラスです。

といくつか簡単な例を挙げましたが(繰り返しますが、以上の特徴はあくまでおおまかな傾向です)、こうしたそれぞれの特性を踏まえつつ当店では扱う品を選んでいます。

他の選択基準として、高価格帯の非ギア衣料(たとえばインバーティアのダッフルコートのような)では極力ブランドの自国生産品をピックアップするようにしています。
冒頭でのご質問からも窺えるようにこうした衣料は嗜好品としての側面も持っていますし、ブランドの歴史背景などが生み出すエッセンスは小手先で再現できるものではなく、たとえ同じ品質であったとしても中国製である必要がないと考えています。
あるとしたらメーカー側のコストの都合だけでしょう。
第三国製である以上、そこはある程度提供価格に反映されるのが望ましいと考えます。

長々と書きましたが、結局は最初に述べた必然性の問題です。

この10年でアジア各国での生産がほとんどを占めるようになり、一部の方以外は、食品は別にしても今買うものがどこ製であるか意識すらしない時代になりました。

それはそれで悪いことだとは思いません。
貧しい国に仕事が生まれて歪な経済格差が縮まること自体も望ましいことでしょう。
しかし過剰なコスト意識で単価を下げるべく地球の限りある資源を無駄にするような低品質のゴミを濫造したり、格差につけこんで奴隷のように工員さんをこき使って先進国のために安価なものを作ったり、というモラルなき業者を儲けさせているのは無自覚な消費者であることは忘れずにいたいものです。

どこ製というポイントだけでなく複合的な視点を持って正しく人生を豊かにしてくれるものを手に入れる、という健全な買い物ができる場所としても、当店は在りたいと考えています。


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