ハイスクール・ララバイ ~ Ithe/ No.42-RL

早いもので、混沌の2020年も残すところあと2週間。

表に出ればすっかり冬本番。
いろいろな意味で、いつもより厳しく長い季節となりそうですね。

であるならせめて着るもので気持ちを穏やかにしていきたいもの。

たとえば、地味ながらやさしくあたたかなこの一枚を身に纏って。

Itheの新作No.42-RLは、1990年代に日本の高校生、とくに女子高生に絶大な支持を得ていたカーディガンをサンプリングして作られました。
アメリカの某ファッションブランドの、あれです。
拙文をお読みいただいているお客様のなかにも、当時愛用していた方は少なくないのではないでしょうか。

タグの位置、形も再現しています。

しかし、形状は踏襲しながら全く別物に仕上がっていまして、素材はニットではなく撥水性の高いナイロンタフタを採用。

それにポリエステル中綿をキルティングし、保温性を高めています。

裾と袖口のリブは廃され、中にゴムを仕込む仕様へ変更されました。

これにより、着用を繰り返してもよれることなく、ぴったりとしたフィット感を維持してくれます。

両脇にはポケットが設けられ、

左胸内側にもポケットが追加されました。

と、しっかりとアウター機能を備えてはいるのですが、実は最大限に真価を発揮するのはミッドレイヤーとして使用したとき。

軽く、薄手で、風を通さないだけでなく、着丈を短めに設定し、全体的にコンパクトなサイズ感でまとめています(サイズ表記よりも1サイズ分ほど小さめの大きさです)ので、コートなどの下に重ねるには最適です。
厳寒期のみならず、秋、そして春にもスプリングコートの下に重ねたりと、かなり長い季節を通して重宝するのは間違いありません。

丈夫で、もちろん洗濯も可能ですから、幅広いシチュエーションで気兼ねなく使い倒していけます。

主役の華やかさはないかも知れませんが、いつしか決して欠かせぬ存在となっている、そんな隠れた実力派です。
この一枚とともに、嘆きの冬を乗りきっていきましょう。

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本の色彩をゴチャゴチャに積みあげて、一度この檸檬で試してみたら ~ niuhans werkstatt/ Pigskin Suede Book Cover

本屋さんで文庫本を買うときの愉しみのひとつとして、お店ごとに趣向を凝らしたブックカバーをいただくことを挙げる方は少なくありますまい。

わが横浜ですと、有隣堂が代表格でしょうか。

とはいえ、包装削減のさけばれる昨今のご時勢、毎度ブックカバーをつけてもらうことにためらいを感じる方もいらっしゃることでしょう。

しかし世の中には、別段はばかられるような内容ではないのに、なぜだかたとえば電車の中などで表紙を剥き出しにすることに躊躇してしまう本もございます。

niuhansの新ライン、niuhans werkstatt(ニュアンス ウェルクシュタット)から届いたブックカバーなら、そんな毎日の読書生活がより楽しくなるに違いありません。

ドイツ語で「工房」を意味する”werkstatt”の名を掲げるだけあって、これらの品は工場生産ではなく、アトリエ内にてデザイナー濱田さんの手で一点ずつ作られます。
素材も均一性より個々の特性を重視し、結果としてどこか素朴で温もりのある、しかしニュアンスならではの清潔感に溢れた、ユニークな提案となりました。

このブックカバーに用いられているのは、国産のピッグスキンスウェード。

しっとりと肌に吸い付くような質感と穏やかな色目が、なんとも魅力的です。

オリジナルの箱に収められていますので、ちょっとした贈り物にもよいのではないでしょうか。

なお、たとえば岩波文庫といった標準サイズ(A6/ 高さ148mm)の文庫本がぴったり収まる大きさに作られているため、若干背丈のある中公文庫や早川文庫などには対応していません。
この点はご注意ください。

現在店頭のみにて販売しております。
価格は各5,000円+消費税です。


Хардкор ~ SHU/ WARM JACKET

天気予報によると、来週からついに最低気温が氷点下となるようです。
これはもう冬の到来と言っていいのではないでしょうか。

ただでさえ厳冬と予測されている今年、1月2月と冬本番となれば、いったいどこまで寒くなるやら。
まさかマイナス25℃…?

もしそうなったとしても、この外套があれば恐れることはありません。

ロシアはサンクトペテルブルグから、今季も横浜を暖めにやって参りました。

彼の地のブランドにしてその名を”WARM JACKET”と称すだけあって、徹底的に極寒地での使用を想定したデザインとなっています。

表地の高密度ナイロンクロスは、耐水圧10000mm、蒸気透過性も24時間で3000g/m²。
これはアウトドア用の本格レインウェアに匹敵する数値です。

中綿として、ぎっしりと、これでもかと、デュポン社の植物性由来PTT樹脂ソロナファイバーを用いた人工ダウン”SUSTANS”が詰め込まれています。

中綿はフードにもたっぷりと仕込まれており、

被って口元をマグネットで留めれば、凍てつく北風から顔をしっかりと保護してくれます。

なお、このフードは脱着可能で、外せばすっきりとしたスタンドカラージャケットとなります。

襟周りの内側にはマイクロフリース。

ハンドポケットの中もフリースですから、ぬくぬくです。

袖口にはリブが配され、ここからも冷気を通しません。

ファスナーは凍結しづらい樹脂製。
SHUを率いるデザイナーであるアンドレイが絶大な信頼を置く中国SBS社製を採用しています。

表面の4つのポケットに加え内ポケットも完備と、収納面も抜かりありません。

重厚な面構えに恥じぬ、作り手の意思が詰め込まれたハードコアな一着、これさえあればどんなところでも寒さに怯えずに済みそうです。

寒くなるにつれ店頭やオンラインストアでご覧になる方が急増していますので、気になる方はお早めにどうぞ。

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コタツよりあたたかい 僕好みのマフラーを キミ ありがとう ~ JENNIFER KENT/ SCARVES

晩秋は漸うその匂いを変え、昼の麗らかなあたたかさも空気そのものは冬の顔つきをしてきました。

朝晩などもうだいぶ冷え込み、店頭でもマフラーをご覧になる方が増えています。

当店でマフラーといえば、JENNIFER KENT。
ブランドが立ち上がった2017AWから毎冬の標の如く欠かさず店頭に並び続け、今年で4期目を迎えました。

グラスゴーにスタジオを構え同ブランドを手掛けるデザイナー、ジェニファー・ケントをあらためてご紹介致しますと、グラスゴー美術学校(GSA)でテキスタイルデザインを学び、NYやロンドンでアレクサンダー・マックイーン、ライル&スコット、コム・デ・ギャルソンの仕事に関わるなどキャリアを重ねて2013年に帰国、2013年より自身のクリエーションを行っている才媛です。

建築やアートなどに着想し生まれるそのデザインは、モダンにして時間の経過に堪え得る強度をもち、伝統的な柄と同様、古びることがありません。

今季店頭に並ぶのは3柄。

硬質なビルディングを聯想させるSURFACE SCARF、

その名の通り階段のようなジグザグが並ぶSTEP SCARF、

そしてアメリカの抽象画家フランク・ステラ(Frank Stella)の作品にインスパイアされ生まれたSIGNAL SCARF。

どれも色調、柄の配置のバランスが見事で、新鮮な印象でありながら卑陋に陥ることなく、むしろ気品すら感じさせる佇まいです。

ニットマフラーとしての品質の高さも唸るべきレベルにあり、高級ニットの産地として名高いスコットランドのホーウィックの工場(公開はされていませんが、察するに当店でもおなじみの某所ではないかと…)で編み立てられ、その柔らかさ、のびやかさ、そして抜群の保温性に、病みつきになる方が続出しています。

過去の作品も若干在庫がございますので、是非あわせてお選びください。
その普遍的永続性をあらためて感じさせてくれますよ。

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SURFACE グリーン
STEP チャコール/ ブルー
SIGNAL オレンジ/ ブルー


ハロートゥモロー ~ Jens/ レイヤーメルトンリバーカーコート

今年の冬は寒くなると聞いていましたが、それを実証するかのようにここ数日はきりりと冷え込んできましたね。
あたたかなウールの外套の出番が増えてきたのではないでしょうか。

男性用衣料のボリュームが大きな当店ですが、この冬も少ないながら女性用のコートをご用意していまして、すでに店頭では動きを見せています。

これも気がつけばラスト一点となってしまいました。

鋭角的で禁欲的な、緊張感ひりつく服作りを得意とするJensにしては珍しい、円い柔和なシルエットとデザイン。

ぬくもりのあるキャメルとオフホワイトのウールカシミアメルトンを用いて仕立てられ、”バンビ”と名付けられた嫌味のない2トーンを愉しめます。

ほんの少し濃い色目のくるみボタンがまた可愛いですね。

やや短めに設定された袖は袖口をつまんで絞られ、袖のふわっとした曲線を引き立てます。

腰のベルトはいわゆるベルトループではなくコート本体に切り込まれた4ヶ所の穴に通します。
この通し方に決まりはありませんので、自由な発想でお使いください。

全体的にとてもチャーミングでありながらも、要所要所はJensらしく引き締められ、不思議な調和のとれたコートとなりました。

単品で見たときよりも実際お召しいただいたほうがより魅力的ですので、是非一度お試しを。

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寒い夜だから… ~ EEL Products/ ノルディックハイネック

毎回ブログで紹介しているわけではないのですが、実は数シーズンにわたり、EEL Productsのノルディックシリーズは冬の定番として欠かすことなく当店に並んでいます。

EELディレクターである澁谷さんの地元でもある新潟県見附市、彼の地の高い技術をもつニット工場から生まれるこの肉厚なセーター。
そのもっちりとした質感と圧倒的な暖かさは、駄文を介さずともすっと伝わるほど、実に魅力的です。

どうやら厳しい寒さとなるらしい今年は、ハイネックを3色ご用意しました。

中庸なグレーに

深いオリーブ、

饒舌なバーガンディ。

冬のセーターとして特化したこの豊かな肉感は、来たる氷の季節など恐るるに足らずと力強く鼓舞してくれるようです。

ざっくりした乾いた肌触りながら不思議とチクチク感は少なく、ハイネックといえど安心してお召しいただけます。

理由は定かではないらしいのですが毛玉ができにくいのも特徴で、これは何年も愛用している店主自身も実感しています。

控えめな存在感にして、たしかな仕事っぷり。
いざというときに頼りになるのは、こうした一枚だったりします。

オンラインストアはこちらです→ グレー/ オリーブ/ バーガンディ


あなたが私にくれたもの アメリカ生まれのピーコート ~ Ithe/ No.41-USP & No.41-USP-E

長らく流行の表舞台に立つことなく、多くの人々の頭の中からその存在も消えつつあるピーコート。

そうでなくとも、中学生や高校生のとき制服の上に着ていたよ、重いよね、硬いよね、などと、郷愁を伴いながらもややネガティブな印象で語られたりと、いずれにしても「過去のもの」として扱われがちではあります。

しかしながら、あらゆる先入観や固定観念を除いてまじまじと見てみれば、その基本設計の完成度は頗る高く、決して軽んじることのできないものと解ります。

であるにも拘らず人気が上がらないのだとしたら、デザイン以外の部分に要因があるのだと、店主は以前よりずっと考えていました。

ところが、トレンドから外れた服の宿命、いざ探してみようとしてもなかなか出てきません。
実は開店時より毎冬提案を試みながらも、無念それが叶わずにいたわけです。

ならば、もう直接お願いして作ってもらうしかないのでは、そう思い昨年Itheに投げかけてみたところ、「実は今気になっていて、作ろうと思っている」との返答が。

そうしてついに登場しました、当店待望のピーコート、ItheのNo.41-USPです。

1960年代に米海軍で使用されていたものをベースにItheのフィルターを通し再構築、元来の佳さはそのまま残しながら、キナ臭さも男臭さもない、洗練された街着へと生まれ変わらせました。

甲板で纏う服ならではの、立てれば集音効果を発揮する大ぶりの襟、

歩哨が直立したまま手を暖められるよう設計されたマフポケット、

袖口のステッチなどはオリジナルのデザインをトレース。

一方で素材は、しっとりとしたウールのメルトンを、

裏地には濡れたような艶となめらかな肌触りを備えたキュプラを使用しています。

この上品な素材が、やわらかく、軽く、ストレスのない着心地を実現しています。

一般的にピーコートのボタンといえば錨の刻印が入ったプラスティック製のものですが、率直に申し上げて大人が都市で着る服にはまったく不要なディテールです。
そこで、光沢を抑えたナットボタンに変更。

これによりカジュアルさ、スポーティーさが抑制され、コート自体の品位が高まりました。

当店がピーコートに求める要素のすべてを満たした、完璧な一着です。

しかし…人の欲求は尽きないもの。

Itheの服はネイビー、ブラック、ホワイトの3色を基調とし、またブランド哲学としてトレースをデザインの工程に組み込む以上、このブランドとしてやれることには(それがまた魅力なのですが)限りがあります。

そこでわがままついでに、店主がデザイン画を描き、もう一型特別に製作してもらうこととなりました。

No.41-USP-Eはこうした経緯で誕生したEuphonica別注モデルです。

襟やボタンの配置、サイズ寸法は基本的にインラインのNo.41-USPと同じですが、まずこのキャメル色によって印象ががらりと変わりました。

こちらで使用している生地は、繊細なヴァージンウールに腰の強さをもたらすナイロンを入れ織り上げた、イタリア製のメルトンです。
美しい発色のみならず、ふっくらとした質感、なめらかな肌触り、そして軽さと柔らかさを備えています。

裏地には店主個人の好みで、艶を抑えたコットン×ベンベルグ(コットンの種子から作った再生セルロース繊維)の薄手ツイルを採用しました。

袖裏はキュプラですので、袖通しはすっとなめらかなままです。

インラインで用いているものより素材本来の表情が出たナットボタンが、温かみのあるメルトンの質感、色目と調和しています。

もちろん、素材だけを変えたわけではありません。

袖付けは背面のみラグランのスプリットラグランスリーブに変更。

運動性のみならず、肩のラインがまろやかな円みを描き、柔和な印象を与えます。

また、マフポケットの位置をやや高く上げ、腰にフラップつきのパッチポケットを追加しました。


手前味噌ながら、どこに出しても胸を張れる素晴らしい一着となったと自負しております。

いよいよ目前に迫る冬本番。
今年のコートの候補として、ご検討いただければ幸いです。

オンラインストアはこちらです→ No.41-USP/ No.41-USP-E


惜しみなく愛は奪ふ ~ THE CIRCA BRAND/ S204C

言葉の由来を調べるのは面白いもので、上品なイメージの単語が遡るとずいぶんと物騒な背景を持っていたなんてことが、往々にしてあります。

英語の”Rob(奪う)”、ドイツ語”Rauben(強奪する)”は、ともに言語として共通の祖であるゲルマン語の”Roub(略奪品)”から派生した動詞と云われています。

“Roub”はやがてフランク王国に於いてラテン語に転じ、対象の財産を剥ぐときにまず狙うのが衣類だったことから「衣服」を意味する名詞へと変わっていきます。

それが現代のフランス語”Robe(ドレス)”の語源です。
そしてこの”Robe”が英語に転じて、こんにち我々が「ローブ」と呼んでいる法衣状の衣服を指すようになりました。

さて、そんなローブの歴史にまた変化が起きようとしています。

THE CIRCA BRANDの新作ショートローブ”S204C”の登場です。

ローブとほぼ同義といえるほど近似した概念であるガウン(こちらは毛皮の服を意味するラテン語”gunna”に由来)を原型とするスモーキングジャケットを再構築したデザインで、紳士の室内着ならではの豪奢な装飾性を排し、形状そのものに主眼を置いています。

素材は、シェトランドウールを用いたブランケット素材。

シェトランドウールと聞くとチクチクするという印象をお持ちの方が少なくないようですが、上等なものならそんなことはありません。
ふわっとした暖かさ、軽さ、乾いた質感はそのままに、手触りは意外なほどなめらかです。

経糸にはさらにリネンの糸が巻き付けられ、生地の迫力を一層増しています。

そして着用と洗いを重ねると(そう、このショートローブは家庭で洗濯可能です!縮みもほぼ出ません)、ウールとリネンの特性が相互に作用し、ヘリンボーンの凹凸がより強調され、生地全体の嵩が増すように膨らみ、豊かに起毛していきます。
デザイナーの福原さん曰く、水を通した後こそがこの生地本来の風合いだそうです。

縁取り部分はしっとりとしたレーヨン。

強い存在感を放つ腰の紐状ベルトも同じ素材となっています。

丁寧な裏の始末に、一見粗野な風貌のこの服が実は繊細な仕事の上に成り立っていることが見て取れます。

美しい肩の曲線に、自然な袖のカーブ、

パターンワークも秀逸です。

どこから見ても愉しく、袖を通せば心地好く、素晴らしい一着が生まれました。

なお、福原さんはこのTHE CIRCA BRANDをご自身にとっての「モード」と位置付けています。
どうもわれわれの想像するモードとは様相を異にする気がしますが、知らずしらずまた言葉が変わる瞬間に立ち会っているのかも知れませんよ。

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