くら闇おもく寝がえり忘れ たゆたいうづく雲こがね色 ~ Jens COMPOSITION

春は式典の季節。

だれかしら人生の節目を迎える、出会いと別れの時期です。

そんな場での装いというのもなかなか匙加減の難しいもので、お困りの方は多いのではないでしょうか。

Jensの新ラインである”COMPOSITION”は、そうした場へのひとつの回答です。

過去のアーカイブをベースに、基軸としてドレスを据え、そこにパーツの如く他のアイテムを組み合わせることでビジネスシーンから喪の場まで対応するコレクションとなっています。

ワンピースは光沢が少なく皺になりにくいポリエステルのマットスウェード素材とドライタフタを組み合わせたもので、

抑制的でつつましやかな印象でありつつも、背面の裾のスリットが鋭く肉体性を覗かせます。

ジャケットも同じくマットスウェードで仕立てられ、諸要素を削ぎ落としたJensらしい鋭角的デザインとなっています。

背面のスリットからまっすぐ斜めに走るラインが、単なるフォーマルウェアと文字通り一線を画します。

両脇のみならず左内側にもポケットが設けられ、意外なほどに実用的なつくりとなっています。

右内側にはブランドネーム代わりの三角タブ。

通常ラインの青タブと異なり、COMPOSITIONシリーズにはすべてこの黒タブがつけられています。

アーティスティックな面がやや強い通常ラインの世界観はもちろん魅力的ですが、Jensの服自体の美しさを存分に活かせるのは実はこちらのCOMPOSITIONなのかも知れません。

初Jensとしてもお薦めですよ。

オンラインストアはこちらです→
マットスウェード+ドライタフタ ドレス ブラック
マットスウェードジャケット ブラック/ ネイビー


アイム・ノット・イン・ラヴ ~ FLISTFIA/ Piping Cardigan

ひと月ほど前の話ですが、なかなか興味深いニュースが報道されていました。

魚も鏡に映る自分の姿を認識か、大阪市大などが研究(ロイター)
https://jp.reuters.com/article/us-science-mirror-idJPKCN1PX0DL

一般的に、人間であったり、チンパンジーやボノボなどの高等霊長類はともかく、ほとんどの種族はごく一部の例外を除き自己意識(自己の存在を認識する意識)を持たないため、鏡に映った自身の姿を自分だと認識できないとされています。
況や魚類、と考えられていたところに。

それが見事覆った実験なわけで、自己意識とは何かと改めて考えさせられました。

当店初の展開となるFLISTFIA(フリストフィア)の服もまた、自己意識について問いかけてきます。

兎にも角にも己を主張してこないブランドです。
あまりに自己主張、自我が削ぎ落とされているゆえに、却って作り手の意識が浮かび上がるくらいに。

そもそもデザイナーの倉本さんの造語である”FLISTFIA”自体が、まったく意味やメッセージ性を持ちません(キプロスの前大統領フリストフィアス氏と直接の関係はないそうです)。

フリストフィアの服だから買う、欲しい、ではなく、たまたま手に取った服がフリストフィアであり、特別感はないのに何となく頻繁に着てしまうことを、理想として掲げています。

その方針は徹底しており、ブランド公式サイトには取扱店舗一覧がありません。
これもまた、フリストフィアというブランドを求めて店舗へ向かうことより、お客様それぞれが利用する店舗にフリストフィアがあって、そこで服そのものを評価して手に取られることをよしとしているから。

そんな意固地なまでに自己主張を拒むフリストフィアの代表作であり長らく定番として作り続けているのが、このカットソー素材のカーディガンです。

シーズンによって異なるようではありますが、こちらの素材は化繊にウールを混紡したもので、もっちりとした肉厚な質感、さらさらの肌触り、適度な保温性、のびやかな伸縮性を備えています。

そこにパイピングが施されることで、カジュアルさが抑制され、上品な印象に。

構造は単純なようでよく練られており、身に纏うことで前身頃から生地が後方に流れ、前が少し開くように設計されています。

この動的な形状もあって、いわゆる一般的に云われるところのカーディガンの枠には収まりきらない服となりました。

中に着るのはシャツでもTシャツでも構いません。
適当に羽織るだけで装いが完成してしまいます。

CURLY同様カットソーの技術を駆使した服作りを得意とするブランドですから(余談ですが、偶然にも両者ともに2009年にブランドを設立しています)、このカーディガンのみならず魅力的なアイテムが以後続々と登場します。

あまりこんなことを言うと先述のブランド哲学に反してしまいそうですが、是非ともこれからの展開にご注目ください。

オンラインストアはこちらです→ バーガンディ/ ネイビー


ノーベルやんちゃDE賞 ~ EEL Products/ アワードシャツ

ごくシンプルなストライプシャツなのに、どこかしら華やぎを感じさせます。

EEL Productsの新作”アワードシャツ”は、以前展開していたQシャツ同様、ドレスシャツ工場製ならではの技巧が光るシャツです。

Qシャツ同様ステッチの出ない袋状の襟によって、EELらしく仄かに甘い雰囲気が加味されています。

この端を攻めた細かな運針はドレスシャツさながら。
シャツの表情は、こうした部分に大きく左右されます。

しっとりとした質感のきめ細かいブロード素材は、素肌に触れても優しく、また着用時に美しいドレープ、流麗なシルエットを生み出します。

美麗で且つ派手過ぎないストライプ柄も目に嬉しく、前述の諸要素と相まって、かしこまった場面より寧ろラフな装いでこそ絶妙なバランス感を発揮するシャツとなりました。

春の麗らかな気候に、最高の一枚ではないでしょうか。

オンラインストアはこちらです→ ベージュ×ホワイトストライプ/ サックス×ピンクストライプ


ただ鉄の塊にまたがって揺らしてるだけ 自分の命 揺らしてるだけ ~ ASEEDONCLOUD/ Bike coat

主人公の移動手段はバイクです。

今季のASEEDONCLOUDの主題である”老異苑(おいことえん)”、その背景については以前のブログでおさらいいただくとして、そこでも触れられているように、デザイナーの玉井さんが上海の地で聯想した『AKIRA』のイメージが少なからず設定に影響を及ぼしています。

『AKIRA』といえば金田(さん)のバイクが実に印象的ですね。

ということで冒頭の話に戻ります。

老異苑を運営する貴族に売るべく、世界を駆け巡って珍品を探し求める主人公の冒険者。
彼が旅の相棒である鉄の馬に跨るにあたって着用するのはこんなコートでした。

機動性の高さの一方で積載量に限りがあるバイクを使う以上、ある程度の獲物は彼自身が身に着ける必要に迫られます。

ゆえに、そこから羽織る上着にはじゅうぶんなゆとりがなくてはなりません。

1940年代のバイクコートと軍物のスノーコートのディテール、シルエットを引用、咀嚼、混成、再構築することで生まれたこのボリューミーなコートは、そんな要求にしっかりと応えてくれます。

くわえて胸には大きなポケット。
ボタンで留まるフラップも設けられ、バイクの移動時でも中身が飛ぶ心配は無用です。

立体的なフードはその役割をしっかりと務め、そして出番のないときは取り外すこともできます。

フードがない状態だととてもすっきりとした印象となりますね。

長い着丈はバイクに跨るには煩わしいのでは?そんな疑問もごもっとも。
裾の紐を左右ごとに前後合わせて結び、脚を挟み込むように固定することで解決します。

素材も見ていきましょう。

生地はオリジナルの千鳥格子柄、その名も”Oykotoen gun club check”の先染めコットンツイル。
印象以上にやわらかな手触りで、肌に心地好い素材感です。
これを一枚仕立てで用いています。

“ガンクラブ”は単なる銃火器愛好家の集いではなく、狩猟クラブのことです。
英国では害獣であった狐を狩ることがいつしかゲームと化し、その行為がエスカレートした果てに狐を絶滅危機まで追いやったとか。

そうした退廃的な享楽性が”老異苑”の世界観と近しいことからこの柄が生まれました。
なお、ここで用いられている煤けた緑色は、『AKIRA』の鉄雄の印象とも繋がります。

ところで、先ほどからチラチラと登場するボタン、お気づきでしょうか。

実は大のボタン好きである玉井さん、このコートに選ばれたのは木製のものです。

素地をそのまま活かした朴訥な質感で、これが使い込むとどうなるのか、想像を喚起してくれます。

最後にタグのお話を。

ASEEDONCLOUD=A SEED ON CLOUD、すなわち『くもにのったたね』。
玉井さんが我孫子幼稚園在園時に著した素敵な絵本の題名です。

着る際には外してしまう商品タグにも、種にまつわる玉井さんの思いが込められていまして…よくご覧くださいませ。

このタグの中には植物の種が仕込まれており、実際に植えて育てることができます。

何の種かは、開けてのお楽しみとのことです。

と、付属品に至るまで何かと魅力の詰まった豊潤なコートですから、バイクに乗るのらないを別にしてもきっと存分に楽しめるはず。

秋にも問題なく着られるとはいえ、ご紹介する季節も季節ですから、数は積んでいません。
スプリングコートの本格的な出番がいよいよ目前に迫るこのタイミング、是非お見逃しなく。

オンラインストアはこちらです


OUT OF OUR HAIR ~ HAVERSACK/ ヘアラインストライプシャツ

昨日は急な店休、失礼致しました。
本日からまた通常営業に戻ります(ただし、3/7木曜日のみ、営業時間変更あるいは店休となります。こちらについてはまた追って告知致します)。

さて、このところ雨も多く、気温がなかなかはっきりしませんね。
そういう曖昧で厄介な時期といえば時期ですが、今買うべきは羽織りものか、それともシャツなどか、店頭で悩まれるお客様は割合として少なくないようです。

そこで、羽織りものにもなるシャツ、という第三の選択肢は如何でしょう。

このスタンドカラーシャツは、随所にブルゾン的な要素が加えられたハイブリッドなデザインが魅力であり、見るほどにHAVERSACKらしさを感じて止みません。

やや大振りのボタン、

低い位置に設けられた、ややどころでなく大振りの胸ポケット。

これらのディテールと、やや厚みとハリのある生地の特性が合わさって、いかようにも着られる変幻自在な一枚に仕上がりました。

特にジャンルは決めてないけど何かいい春物はないかしらん…といったご要望をお持ちの方もそうでない方も、是非ご検討ください。

オンラインストアはこちらです→ グレー/ サックス


終りのない傾き ~ tilt The authentics/ チルトガジェットプルオーバーシャツ

tilt The authenticsの服は「オーセンティックなものを傾ける」というブランド名の通り、デザインの匙加減が実に絶妙です。

況や、ディテールを表すとともにブランド名を冠したこのシャツに於いてをや。

ごくシンプルな比翼フロントのプルオーバーバンドカラーシャツ、しかし細部を見やればそこには丹念な仕事が施されています。

上品なムラ感とほどよく肩の力の抜けた風合いを備えた生地は、コットンリネンの強撚スラブ糸を織り上げたもの。
目に涼しく着て涼しく、来たる太陽の季節を予感させてくれますね。

袖はカフを省略した軽快な仕様です。

背面ヨークのプリーツは左右二本ずつ設けられ、運動性の確保と同時にドレッシーな印象を生み出しました。

裾は前面カーブ背面ストレート、コントラストがまた美しい。
長めに取られた背面へ流れるように斜めにあてられ、一種のガジェット的なニュアンスを内包した(tilt gadget)三角ガセットにも唸らされます。

意外とジャケット(KESTINのSTAC BLAZERなど)との相性も好く、装い次第では今の時期から、そして盛夏まで活躍してくれそうです。

今季のtiltの勢いは目を見張るものがあり、先日ご紹介したカバーオールは瞬く間に完売、そしてこのシャツもすでに残り僅かな状況となりました。

気になる方はどうぞお早めに!

オンラインストアはこちら→ ホワイト/ オレンジブラウン


今年ももちろん!ORDER BORDER!

ついに三月に突入。

三月といえば、そう、お馴染みG.F.G.S.さんのORDER BORDERです。

ORDER BORDERはその名の通りボーダーシャツのオーダー。
お客様ひとりひとりお好みの柄配置、配色、袖丈、サイズを選択していただき、それにあわせて生地を編むところから製作するというパターンオーダーシステムで、当店では春の風物詩として、毎年多くのお客様方にたいへんご好評いただいています。

今年は春の新色のみならず、新型NAVAL(肩の部分が白く抜かれた柄)や暑い時期にも着られるモデル、子供用の新サイズ140cmなども登場し、毎度のことながら新規の方もリピーターの方も存分にお楽しみいただける陣容となっています。

また、今回のイベントでは、新たに素敵な仲間が加わりました。

デザイン文具や製本の業界では知らぬものなし、美篶堂(みすずどう)。

1983年に製本職人上島松男氏により創業、長野県伊那市の自社工場にて(余談ですが、「美篶」は上島氏が少年期を過ごした伊那の一地名です。佳い名前ですね)特装本など高度な技術を要するものを手仕事にて作り続ける職人集団です。

その洗練された美的感覚、卓越した技術を活かした美しいノートやブロックメモ等オリジナル商品の評価もきわめて高く、今回はこちらをORDER BORDERイベント期間中ずらりと取り揃えることとなりました。

たとえば定番”みすずノート”をベースに、最初と最後のページに谷川俊太郎の詩の一篇を活版印刷した”コトノハノート”。

計算された色の重ねにより、ぞっとするほど美麗なグラデーションで今回のイベントにぴったりなマルチボーダーを描くブロックメモ。

これ、手作業で一枚一枚重ねて作られてるんですよ…

上記二種は事前のご紹介として現在店頭にご用意していますので、是非ご来店の際はご覧ください。
イベントではもっともっと多くの種類をご用意しております。

なお、美篶堂さんは、以前より当店斜向かいのコミュニティカフェ”いのちの木”さんで本づくり教室を開催されていました。

そのご縁で、当店のみならず今回仲町台で同期間に開催されるミモザフェストにもご参加され、若き工場長小泉翔さんが下記のスケジュールにてイベントを行いますので、ご興味あればあわせてこちらもどうぞ!

3/16 13:00-14:00 仲町台地区センターロビーにて
「本って、どうやってつくるの?」
誰でもできる本づくりを職人が実演します。

3/16 13:30-17:30 いのちの木さんにて
・本づくり体験(ブロックメモを使ったノートづくり/参加費1000円)
・工場長個人のオリジナルブランドKOIZUMIKE商品販売、展示
・美篶堂伊那製本所材料販売会


ザ・プレジデンツ・オブ・ザ・ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ ~ EEL Products/ ワシントンB.D.

ちょっと気の早いことを申し上げますと、あとひと月もすれば桜も咲くころ。

桜といえば、米国初代大統領ジョージ・ワシントンの逸話をご存知でしょうか。

父親の大切にしていた桜の木を自分の手斧で切ってしまったワシントン少年、それを正直に申告したことで「その行為は銀を咲かせ金を実らせる千本の桜より値打ちがある」と褒められました、めでたしめでたし…

フム、正直であることは実に素晴らしいことです。

でもこれ、後世の創作だとか。

正直さを礼賛する寓話自体が嘘だったということで、なんとも狐につままれたような気持ちになります。

ところで、かつてEEL Productsのラインナップにはかの偉大なる第16代大統領の名を冠したボタンダウンシャツ、”リンカーン”が存在していました。

ラグジュアリーストリートファッションが隆盛を誇るこの時代へのアンチテーゼのように、その後継モデルがこの春登場しています。

その名も”ワシントンB.D.”。

エイブラハム・リンカーンの後継であれば当然アンドリュー・ジョンソンの流れになると思いきや、急に初代まで遡りました。裏付けはとっていませんが、タイミングから見て、春→桜→ワシントンかと推測されます。

そういえば、同じ韻を踏んだワシントンD.C.は桜祭り(National Cherry Blossom Festival)も有名ですね。

さてそんなワシントンB.D.、コンパクトなフィッティングだったリンカーンに較べ若干ゆとりが生まれ、よりオーソドックスなアメリカンスタイルへ回帰しました。

台襟も低すぎず、襟は綺麗なロールを描き、

スポーティーなホームベース型胸ポケットが、何となくアイビーリーグ生協を彷彿させます。

生地には光沢のある上質なオックスフォードを、ボタンは品の佳い艶と自然な透明感が持ち味の貝製を採用することで、ただの安易なアメリカントラッドのコピーに収まらず、きちんと次のステージへと進んでいます。

デザイン自体はお馴染みのものですから、どう着た方がいいといった提案は余計なお世話でしょう。

清潔なサックスブルーに優しいピンク、どちらもきっと春の装いの友となってくれるはずです。

オンラインストアはこちらです→ サックス/ ピンク