古来より、美食家の辿り着く先は精進料理と云われています。
もともと独創性の強い服作りを得意としてキャリアを積み重ねていったデザイナーの吉﨑さんが2016年に立ち上げたIthe(イザ)は、まさに服に於ける精進料理のようなブランドです。
デザイナー自身(I)がまさに今着たいもの(the)、それは言わば「日常の制服」。
普段の生活の中で、当たり前のように着る服-そのために何が必要なので何が必要でないかを極限まで突き詰めて導き出した解答は、デザインをしないことでした。
時代の流れに研磨され、それでも現代まで残った服は、おおよそ見た目ありきで創られたものではなく、ある目的を達成するための合理的な理由があってその形となったものです。
だからこそそのデザインには普遍性があり、広まり、残ったとも言えます。
そうした過去のアーカイブが内包する結果としての「普通」に最大の敬意を払い、その「普通」を新しく再構築する、それがItheのデザインです。
サンプルとなる服が製造された年代、背景、流行、パターン、縫製、生地、付属品、サイズといった諸要素を解析し、現代の素材、技術に乗せ換える…そうしてItheの服は生まれます。
それは一種のコピーでもありますが、驚くことにその着地点はまったく非なるものになります。
まずはそう、何はともあれItheの服をご覧いただきましょう。
80年代に米国で製造されたブルックス・ブラザーズのブレザーを基に、しっとりしたとろみのあるコットンの平織り生地で仕立てたジャケットです。
またオリジナルで使われていたメタルボタンを艶の少ないナットのものへ変更、
縫製のグレードを上げることで、普遍性はそのままに、現代の服へと生まれ変わっています。
これとセットアップで組み合わせられるのがこちら、No.15-DK。
なんとあのディッキーズの定番ワークパンツである#874の90年代製品がトレースされました。
ブレザーと同じまろやかな生地を用いて、当然本家とは較べるべくもないほど綺麗な縫製が施されてはいますが、
なお、オリジナルに倣って、ウェストサイズが(縫い直すことで)調節可能な仕様となっています。
ザ・ワークパンツなのにブレザーと合わせれば不思議とまとまってしまうのは、それぞれの構造をあらわす描線以外の肉を徹底的に削ぎ落とすことで、残されたエッセンシャルな要素のみを同一の次元に落とし込めているからでしょう。
基となったのは、往年の和製アイビーブランドVANです。
しかもブレザーやボタンダウン、スパニッシュコート等ほど語られることのないコーチジャケットですから、その選球眼には恐れ入ります。
こちらは光沢が抑えられ、しなやかな柔らかさと程よく乾いた質感を備えたコットンナイロンの生地で仕立てられています。
形状はたしかにコーチジャケットですが、スポーティーな印象はあまりなく、こうした服を着慣れていない方でも抵抗なくお召しいただけるはずです。
それぞれの元ネタは以下の写真にまとまっていますので、その違いがお判りいただけるかと思います(Poloベースのシャツは今回入荷していません)。
あまりにも大胆な手法で服の本質を追求するIthe、どうぞ今後ともご注目を。
オンラインストアはこちらです→ No.14-BB/ No.15-DK/ No.16-VA