巌となりて ~ sazaré

ミニマルとシンプル、似ているようで異なる概念です。

それは優劣でなく、ただの違いであり、店主個人としては、ミニマルにはシンプルにない禁欲的な冷たさ、裏返せばシンプルにはミニマルにない温かさが内包されているように感じます。

長らく当店で腕時計の代名詞的存在として君臨していたINSTRMNTは、まさにミニマルデザインそのものでした。

時計としての構造そのものを除く一切の要素を削ぎ落したストイックなデザインは多くのお客様の支持をいただき、それは他の時計ブランドが隣に並ぶことすら許されぬほど。

しかしその絶対王者の地位を脅かす新星が、ついに現れました。

それが2018年冬に世に出たばかりの気鋭ブランド、sazaré(さざれ)です。

INSTRMNTがミニマルならば、sazaréはシンプル。

アナログ時計の構造上、虚飾を排せば必然としてここに着地するのでしょう、ブランド名のない文字盤、小さなデイト表示はほぼ同様のデザインですが、触ってみるとその違いは歴然としています。

やわらかな円みを帯びたガラスはごくわずかに膨らんだ文字盤をふわっと包み、同じくまろやかな手触りに削り出されたケースとその境目が触ってもわからないほど自然に繋がっていて…。

裏面、そして竜頭にもほんのささやかな膨らみが設けられています。

この曲線構造が、ともすれば硬質的になりかねないこのデザインにかすかなぬくもりを与えました。

ケースは4種類、ミラー仕上げのシルバーと黒、

そして艶消し加工されたシルバーと黒です。

ケースと文字盤の色はこれらの組み合わせのみとなります。

ブランド名、スペック、そしてシリアルナンバーの刻印されたケースの裏盤は、通常傷が目立たないようヘアライン加工が施されているものですが、ミラー仕上げのモデルでは、この時計とともに過ごす時間を傷とともに楽しんでいただくべく、敢えて鏡の如く磨きこまれています(艶消し加工のモデルは本体に準じます)。

ベルトは柔らかな羊革を採用。
ばね棒外しがなくても脱着可能な仕様となっています。

オプションとして、それぞれのケースの色、仕上げに合わせた替えベルトも用意しています。
黒はもちろん、ブラウン、ベージュ(ともに牛革)などにも付け替え可能となっています。
今回はミラー仕上げのシルバー×ブラウンレザーのベルトのみ入荷しましたが、そのほかの組み合わせも今後ご要望に応じて増やしていくつもりです。

なお、画像のブラウンのものは店主私物でして、新品の替えベルトにはここにあるような皴は入っていませんのでご安心を。

さて、とても立ち上がったばかりのブランドと思えぬ研ぎ澄まされた美しさ、そしてプロダクトとしての完成度ですが、ブランドを発足してから製品が世に出るまでに、実に2年半もの月日を要したとか。

それほどまで妥協を許さぬ作りこみ、たとえばこのケースは、型に流し込むのではなく、金属の塊に熱を加えてはプレス加工、それを何度も繰り返して作られています。

こうすることで金属の構成組織の規則性を切断することなく成型でき、高い粘度を備え剛性に優れた部品となります。

この技術を持つ工場は日本ではほぼ壊滅状態で、ようやく巡り合えた福島の工場も多くの工員で賑わっていた全盛期の面影はなく、今や数名の職人さんを残すのみだそうです。

抜かれた丸い金属片が集積すればほら、まるでさざれ石のようですね。

先述のなめらかな曲線も、複合的であるがゆえ補助の型を用いることができず、完全に職人さんの感覚のみで研磨して生み出しています。
その作業を想像すると、気が狂いそうです。

そんな稀少な職人技(安易かつ陳腐に陥りがちな言葉ゆえ滅多にこのブログでは用いない表現ですが、敢えて使いましょう)を詰め込みながらも、47000円+税という拍子抜けするような価格を実現しました(替えベルトは7000円+税)。

サイズはINSTRMNTより若干小ぶりの38mm径で、男女問わずお使いいただけます。

なお、ブランド側の意向により通信販売は不可、店頭にて直接ご覧のうえでの販売となります。
そのため遠方のお客様には歯痒い思いをさせてしまいますが、何卒ご容赦ください。


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