ディア・ハンター ~ tilt The authentics/ Fine Wool Beaver Hunting Jacket

健全で良識的な印象の裡、シーズンを重ねるごと徐々に狂気の淵へと向かっているtilt The authentics。

もっと、もっと良い服を、もっと、もっとだ、そんなデザイナーである中津さんの飽くなき求道心はいったいどこまで進むのか、怖くもあり楽しみでもあります。

思い起こせば当初から素晴らしく高次元の完成度を見せつけてきたブランドですが、あらためて最新作と比べてみれば、当時はまだ正気を保っていたことが理解できます。

このジャケットがそれをよく表していました。

画像から見て取れるほど艶めかしい光沢を湛えた、上等なウールビーバーで仕立てられたハンティングジャケット。
ちなみにビーバーは縮絨・起毛処理された柔らかく肉厚な毛織物の呼称で、その毛足の長い質感や肌触りが同名の動物を彷彿させることから名付けられたと云われています。


かばん要らずなほどに豊富なポケットの、ユニークな配置。
この多さ、この数にも拘わらず、ポップに着地せず、きちんと大人の着用に堪えるものにまとめ上げているのは、流石の技巧です。

ハンティングジャケットですから、もちろん腰にはゲームポケットが設けられています。
ただ、当然ながら仕留めた獲物を収めるほどの大きさではありません。

裏にも左右内ポケットが。

この身頃裏には光沢が抑えられ耐久性の高いコットン×キュプラの生地を、袖裏には滑りのよいキュプラ100%の生地を当てています。

前立てはボタンとダブルファスナーの二重構え。

ボタンには水牛の角が採用されました。
前立てといいポケットといい、これだけ大量に使っていますから、ボタンだけでかなりのコストがかかったのではないでしょうか…

体の構造にあわせ計算された袖のカーブ。
袖に限らず、肩なども服の重さが点でかからず面で分散されるよう計算されており、その結果驚くほど軽い着心地となっています。

どこを見ても、ここまでやるかという徹底ぶり。
さらに輪をかけるように、一着一着出荷前にデザイナーご本人による検品、手入れが施されたうえで納品されています。
入魂の極みです。

なお、この原型となったのは、懐かしきtilt The authenticsファーストシーズン、2018AWに提案されたコーデュロイジャケットでした。

今回、ここから生地だけでなく、着丈を伸ばし全体のバランスを変えるなど、もとの佳さを残しながらバージョンアップが図られています。

その展示会で最初に足を運んだのが当店だったらしいのですが、予算上の都合でオーダーは絞ったものの、このブランドは近いうち必ず化けると確信。
のちの記念になると思い展示会資料を保管しておいたのが、今になって活用できました。

こうしてブランドが着実に大いなる階段を上るさまを間近で見られるのは、店をやっているなかでの大きな醍醐味の一つですし、それは当然自力でどうにかなるものでもなく、たとえ無名でも服自体を見てご判断いただける聡明なお客様方のお力添えあってこそ。
個人的な感慨ですが、そんないろいろな思いを喚起する、そんな一着でもあります。

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