出し抜けに個人的な話で恐縮ですが、実は店主はいままで一度もいわゆるGジャンを所持したことがありません。
小学校高学年のときにゆったりしたケミカルウォッシュのものがヤンチャな同級生を中心に人気で、なんとなくその粗暴な印象が強かったというのもありますが、単にそれほど好みでもなく、とにかく似合わない。
素敵に着こなしている方を見るとああいいなとは感じていたものの、常にnot for meだなと距離を置いた目で見てきました。
そうした個人的な理由もあって、当店での取扱いも過去一度のみ。
それもレディースで、上品なツイルを使用した”Gジャンタイプのブルゾン”でしたから、実質的には別物です。
たまに男性のお客さまからご要望を頂戴してはいましたから探してはみても、自分の好みや判断基準を超えるほどの一着には巡り合えませんでした。
しかし、それももう過去の話に。
好みを超えるどころか、自分でも着てみたい、欲しい、初めて心からそう思える逸品に出会ってしまったからです。
初のお披露目となります、新進ブランドJeanik(ジーニック)。
まあ初といっても当然の話で、2021AWにデビューしたばかりのホヤホヤです。
デザイナーは非公表となっておりまして、代理店さんから断片的に入る情報によると、どうやら二人組とのこと。
公式ウェブサイトもなければSNSのアカウントもない、おまけにデビューコレクションがデニムジャケット2型のみ。
奥ゆかしすぎて心配になります。
そんな商売っ気のなさに、果たしてやる気があるのかと疑念を抱かずにいられないかも知れませんが、心配ご無用です。
このジャケットには、たしかな気概が感じられます。
デザインはまったくのオリジナルではなく、LEVI’Sの#507xx、通称”2nd”と呼ばれる型を雛形にしています。
1953~1962年にかけて生産されたこのオリジナルモデルは、進化の過程ならではの完成されきっていない魅力に溢れ、多くのブランドによって引用され続けていますから、見覚えのある方も多いことでしょう。
とはいえ、ヴィンテージそのものを復元しました、とか、当時のクオリティを再現しました、とか、そんな切り口はここ30年でさんざん出尽くしました。
もうおなかいっぱいです。
このデザインのもつ普遍的な佳さを踏襲しながらも、現代の都市生活で着る服としてどこまで昇華できるのか、Jeanikのデニムジャケットはその先を見ています。
まず、何と言っても大きな違いはそのシルエット。
着用写真をご用意できないのが申し訳ないのですが、細すぎず太すぎず、着丈も短すぎず長すぎずと、トレンドから一歩距離を置いた、中庸なサイズバランスです。
アームホールも袖もいまどきの基準から言えばタイト気味で、とはいえピチピチというほどではありません。
このすっきりしたシルエットと着心地を両立させるのが前振り袖をはじめとした立体的な仕立てでして、ストレスなく、かつ着用時に一番服が綺麗に見えるよう設計されています。
もちろんそれだけではありません。
ステッチの配色使いも見事。
通常、メインの縫製糸の色がオレンジであれば、ダブルステッチはオレンジ1トーンだったり、あるいは黄色とのコンビにすることが多いのですが、このジャケットではオレンジ+ネイビーの組み合わせで施されています。
このネイビーが生地の色と同化するため、遠目からはシングルステッチのように見え、この視覚効果によってだいぶスマートな印象となるわけです。
この武骨さを軽減する工夫は胸ポケットのボタンを排したところにも窺えます。
胸ポケットといえば、ここもまた素晴らしい点として言及せずにいられないのが、ブランドロゴのタブの不在。
たしかにLEVI’Sではこの左胸部分に赤タブがついていますが、べつにほかのブランドがその意匠を再現すべき理由なんて、もっといえば外から見てどこのブランドだと他人が判別できる必要だってありませんよね。
ボタンにしてもそうです。わざわざLEVI’Sに倣ってロゴの刻印を入れるなんて、思考の放棄に他なりません。
このくらい徹底した匿名性こそが、求めるものです。
こうした洗練されたアレンジを施しながらも、安易にストレッチの効いたライトオンスのデニムで日和るのではなく、しっかりとした厚みの、ごわついた生地を採用するところに、このブランドがきちんと過去を学びリスペクトした結果いまの方法論に辿り着いたのだなというのが見て取れます。
ちなみに、一度洗いがかけられていますので(家庭用洗濯機の数回分のパワーで)、気になる縮みはほぼ出ません。そこはご安心を。
こうした絶妙な匙加減ゆえ、古着のスウェットや軍パンというよりも、シャツやウールのスラックスなどと組み合わせた方が、服の魅力をより引き出せそうです。
ようやく現れたデニムジャケット期待の新星。
どうぞその実力をお確かめください。
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