ポケットに手をつっこんで歩く いつかの電車に乗って ~ beta post/ idle hands jacket

「観る人の思考を促す」を目的とし、プロダクトをただファッションとしてのみならず、問題提起をする媒介としてもとらえ、発信するbeta post。

決して万人好みではないかも知れません、しかしそのオンリーワンの着眼点と、単なるネタに終わらないものづくりは、ゆっくりと、けれど確実に理解者を増やし続けています。

「戦争」をテーマとした昨年秋冬のコレクションは、当店のお客様方からも絶賛を浴び、このブランドがさらなる高みへ進んだことを感じさせるものでしたが、春夏・秋冬の2期に区切った一般的な年間スケジュールでの制作に一度区切りをつけるポイントでもありました。

もちろんそれはブランドの終了を意味しません。
より丁寧に時間をかけて、いわゆる「シーズン」やトレンドに大きく左右されないデザインを追求すべく、このたび”Issue 1″として新たなテンポでリスタートします。

今回のテーマは「サボる」。

いろいろ言いたいことはあるものの、手始めにブランド公式の文章を引用します。

「サボる」とは、仕事や義務から意図的に離れて、自分の時間を確保する行動を指します。
この言葉は、怠けたり、真面目に取り組まない行為としてネガティブに捉えられることが多いですが、その背景には、休息やリフレッシュ、あるいは自己充足のための時間を意図的に確保しようとする積極的な動機が存在することもあります。

サボることで得られる「暇」は、ただの無為な時間ではなく、創造性をはぐくむための大切な時間をなり得ます。忙しい日常から意識的に離れることで、新しい視点を得たり、深く考える余裕を持つことができ、結果的に自己のバランスを取り戻し、長期的な生産性や創造性を向上させるための重要な行動を捉えることができます。

……ポジティブ!

豆知識的な話をすれば、「サボる」の語源であるSabotageはフランス語で「破壊活動」を意味し、労働争議の一環として行われる機械設備の破壊行為をサボタージュと称したことから、だんだんと意味が拡がり、「怠ける」行為も含むようになって、いまに至ります。

というわけで原義的には少々物騒なニュアンスを内包した言葉ではあるのですが、言葉とは変わっていくもの。

ひとまず我々はbeta postによって再定義された「サボる」を念頭に置いたうえで、このジャケットを見ていくことにしましょう。


いかにも「サボり」そうな、とろん、としたジャケットです。

リネンを混ぜたレーヨンの生地は、きちんとアウターたり得る適度な厚みとともに、軽さと柔らかさも備えています。

付属のウェストベルトは、しっかり腰に巻くもよし、背面でそのままにするもよし、どう使うかは着用者の裁量に任されます。

ボタンは、アルミの削り出し。
beta postではおなじみですね。

袖口にはスナプボタンが設けられ、締まり具合を調節することができます。

さて、ここまでの説明に留まれば、「サボる」雰囲気のジャケットなのですが、もちろんbeta postがここで完結させるはずもありません。

問題はこの両脇のポケットにあります。

不思議な形のフラップです。

まるでミトンのような…。

……。

……!

そう、このフラップはミトン状のハンドポケットでもあります。

ここで、先日ご紹介したHandwerkerのHW handsfree jacketを思い出してみてください。

HW handsfree jacketは、脱いでいる状態での「手ぶら」の実現のため、内側には肩掛け用の紐を設けています。

つまり、ワークジャケットとして両手が自由に使える状態を保つのはとても重要であるということです。

言い換えれば、ポケットに手を突っ込む行為は手を使えなくさせ、「ワーク」からの離脱を意味します。

というわけで、ポケットに手を突っ込んで「サボる」べく、この仕様が生まれました。

残念ながら、我が国の労働生産性の低さはよく指摘されるところ。
それは末端の労働者が怠惰だからというより、付加価値の軽視、不適切な評価制度、現場の長時間労働に頼る人員配置など、マネジメントや組織の構造に因るところが大きいと云われています。

システムにしたって人間にしたって、冗長性がないと不測の事態には対応できないものですし、ギチギチと言われたことをまじめにこなすばかりが正しいとは限りません。

ほんとうに望ましい結果を得るためには、ひとりひとりが適切なタイミングで適切にサボることだって必要かも知れませんよ。

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