私たち労働者に必要なのは、
パンでも、バターでもなく、
美であり、詩であるシモーヌ・ヴェイユ
近年のAIの著しい進化は、まさに産業革命そのものです。
数字やデータを正しく処理し帰納的に解を導きだすことにかけては、もはや人間の及ぶところではなくなりつつあり、このままいくと多くの専門性をもった知的技能職がAIに取って代わられてしまいかねません。
かつてラッダイト運動が単なる破壊活動と見做され失敗に終わったように、いくらAIを否定し拒絶したところで、おそらくはもうこの流れを止めることはできないでしょう。
言うまでもなくAIは人の代わりに仕事をしても人の代わりに消費活動は行いませんから、場合によっては経済に甚大なる影響が出ることも考えられます。
となれば我々人間は、より意識的にAIでは代替できない仕事を模索していかねば。
たとえば、AIではなく人間だからこそできる、新しい価値の創造、そして(皮肉なことに18世紀の産業革命によって奪われたであろう)職人の手仕事の価値が一層高まるのではないかと予測しています。
ふりかえってみると、我々が幼いころのよくある未来予想図では、機械の発達が面倒な肉体労働から人類を解放し、人類は知的活動に専念できるという、古代ギリシアの奴隷制のようなイメージが描かれたものですが、そう単純な話でもなかったようですね。
といった次第で、いま働くことの意味、価値が、原点回帰的にシフトチェンジしはじめています。
そんななか、当店初登場となるブランドをご紹介しましょう。
その名もWorker’s Nobility(労働者の気高さ/尊さ)。
Worker’s Nobility は、スペインのナバラ州グエサラスの小さな村ムズキに拠点を置くインディーズブランドです。
デザイナーのZurineさんはスペインバスクで生まれ育った人で、アメリカのポートランドでの生活を経て、生まれ故郷に戻りこの活動を始めました。
大量生産を拒み、また在庫の蓄積を避けるため、主に民族衣装をつくる地元の工房で、注文を受けた数だけを生産しています。
服に付属するタグには、生産を担当した職人のイニシャル、つくられた日にち、生産に要した時間などが記され、「服は人の手が作るもの」という当たり前の事実を再認識させてくれます。
今回当店に届いたのは2型。
まずは直線的なカットが美しいシャツをご覧ください。
REGULAR SHIRTという名前ながら、「普通」なようで「普通」ではない形状…これこそがWorker’s Nobiltyのデザインの特徴です。
高い台襟に、フレンチシーム(袋縫い)で仕上げられたコンパクトな襟の組み合わせ、そして第一ボタンを外したときの開き具合は、上品な色気を放ちます。
まっすぐ一直線にカットされた裾に、カフスも剣ボロも省略された袖口。
平面的な裁断、ロックミシンによるステッチの表に出ない縫製は、たしかに簡素ではあるのですがこの服の目指す方向性に見事調和しています。
この鋭角的な冷たいデザインにペーパータッチの高密度素材があわさって生まれる凛とした緊張感、そこに素木のボタンを組み合わせることで、仄かな温もりが重なりました。
さてお次にご覧いただきますのは、先述のシャツと(色は違いますが)同素材をつかったジャケットです。
こちらもシャツ同様にステッチを極力表に出さぬよう設計されており、直線的なシルエットが着る人の余地を与えます。
BLAZERという品名ではあるものの、やや長めに設定された着丈と袖は、ごく軽快な春夏の羽織ものとしての要素を強めますね。
蒸し暑い日などは袖を捲ってもよさそうです。
素木ボタンは、使い込むとどんな風合いへ変わっていくのでしょうか。
老若男女を問わないデザインにつき、シャツ、ジャケットともに、男女サイズをご用意しました。
気軽で日常的に気兼ねなく使える、けれども決して「どうでもいい」とは思わせない、そんなつくり手のNobilityが、着る人ひとりひとりにきっと伝わるであろうと確信しています。
オンラインストアはこちらです→
REGULAR SHIRT オーカー
BLAZER コバルト