はいからさんが通る ~ EEL/ ランカラサン

このシャツ、ランカラサンといいます。

ラウンドカラーのシャツを繰り返しマイナーチェンジして完成度を高め、
その3番目の形、として名づけられました。
ランカラサンになってから数シーズン、ランカラヨンには進んでいませんので、
今のところの最終進化形です。

その新柄が入荷しました。
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春にも展開していたのですが、ブログでご紹介したつもりがしていなかったようで、
今更になって改まったご紹介となります。

その名の通り襟が円いのですが、
円いといっても少々角が取れている程度で、甘すぎません。
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そのためか当店では女性や若い方だけでなく、
大人の男性にもご支持いただいている型となっています。

胸ポケットも特徴のひとつで、一般的なパッチポケットでなく、
ペン挿しと見紛いかねないほど幅の狭い玉縁ポケットです。
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この2つの仕様により、カジュアル仕様のデザインシャツでありながら
過度にくだけすぎず、クリーンな印象を保持しています。

今回の新柄もサックスのドビーストライプと白×サックスのストライプ、
どちらも清潔感に溢れていますので、
入荷のタイミングは秋冬物とはいえどオールシーズン対応可能です。

ちなみに、写真では判りづらいのですが、
今回の2柄は襟とカフスの白い部分もドビーでストライプが織り込まれています。
これにより若干ドレッシーさが強まり、ウールのジャケットやニットとの相性も増しました。

秋冬は割合としてアウター、ニット中心の入荷となりますので、
シャツをお探しの方はお早めにどうぞ!

オンラインストアはこちら→
ホワイト×サックス/ ホワイト×サックスストライプ


ただこのまま 冷たい頬をあたためたいけど ~ alk phenix/ kai parka

実際の気温はそんなに低くないはずなのに、
猛暑続きから急に涼しくなると、体感としてぐっと冷え込んだように感じますね。
お日様もここ数日姿を隠し空がなんとも陰気で、まだ8月だなんて気がしません。

それに伴っていよいよ来たるべき秋の気分も高まり、
暖かな質感の衣類にも手が伸びるというものです。

展示会で東京に出る(といっても片道一時間程度の距離ですが)と
すでに大手さんや高感度なセレクトショップさんでは
カナダグースの極寒仕様のダウンジャケットなどを陳列し始めていますが、
いくら大人気ブランドで争奪戦になるといってもさすがに早すぎでは…
と、この仕事をしていてもつい思ってしまいます。

例年の横浜だと、9月末くらいから朝晩が冷え込むようになり、
10月中旬ごろから秋本番、11月下旬になれば厚手の外套登場、といったところですかね。
となるとしばらくはこんなスウェットパーカで対応できそうです。
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alk phenixの新作kai parka。
今まで当店では同ブランドを「ame」と「shu」のみ扱ってきましたが、
それも7シリーズ中の2種のみ、今季からは「kai」も展開することとなります。
kaiは”快”、つまり快適さを追求したシリーズです。

一般的にスウェットはコットンもしくはコットンベースの混紡で、
吸汗性や風合いには優れているものの、重く、乾きが遅いという欠点があります。
このパーカに使用されているウール混のポリエステル生地は
ふんわりした軽快な質感と保温性だけでなく、速乾性まで備えているのが有難いところです。

ポケットはshu pantsと同様のスナップとジッパーを併用した構造で、
運動時に中のものが落ちるのを防いでくれます。
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右袖やフード、フードのドローコードにはリフレクタープリントが施されていますので
夜間も安心です。
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また、静電気中和糸が縫い目等に使用されているため、
化繊に起こりがちな冬の「バチッ!」の心配も軽減されます。
これからの時期、嬉しいですね。

alk phenixらしく、ハイテクを前面に出しすぎず生活に溶け込むデザインですので
老若男女問わずお勧めできます。
というわけでLサイズと女性でも着られるSサイズをご用意しました。

オンラインストアはこちら→ グレー/ ネイビー


悲しみのベアー・クロー ~ KARHU/ ARIA

満を持して6月20日に世界同時展開となったKARHUのARIAですが、
一部有名ショップでごく少量リリースされた限定モデルを除き
実社会でもネット上でもほとんど話題になっていない状況です。
ムムム!

当店では扱っていないもので
カルフにはアルバトロスというさらにレトロなモデルがあり、
こちらはブランドの代名詞として一定の人気を得ていますが、
未だにその地位を脅かす気配すら見せません。

ググってみたところ、
弊ブログより熱量の高いレビューは少なくとも日本語では見当たりませんでした。
それどころかInstagramにしても何にしても、公式サイトや関係者を除けば
こんなに執拗にアリアのレギュラーカラーを推しているのは
どうも地球上で当店くらいなのではないかという気にもなります。

そもそも、代理店の直営オンラインストアにすらアップされていないのは
どうしたことでしょう。

そんな逆境ではありますが、
最初から流行とか人気を前提に仕入れている靴ではありません。
だって惚れちゃったんだもん、なればその魅力を可能な限り伝えるのが仕事です。

店主自身この靴のネイビー×グレーのモデルを入荷日から2ヶ月程履いていますので、
恐らく本邦初の、使用感も含めたレビューを書き記すことに致します。
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ケイブ×フロラージュと両方試してみましたが、
意外とケイブの方が服に合わせやすく、
特にネイビーのパンツとの相性は抜群でした。
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一見すると派手ですが、トーンが落ち着いていますので
悪目立ちはしません。
特にこれからのシーズンにはとても使い勝手はいいと思います
(蓋しそんな色のスウェードを盛夏直前に入れてくるあたりがカルフです)。

ではなぜネイビーを選んだのかといいますと、アウトソールの赤が決め手でした。
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トリコロール配色でもあるということですね。
これを履いてマリノス観戦に行きたかっただけです。
実際、これを着用して7/29の清水エスパルス戦に繰り出しました
試合は見事に逆転負けを喫しましたが、本稿では深くは触れません。

さてこれもこれで勿論使いづらい配色ではなく、
ネイビー、グレー、黒などとの相性は良好です。
特にコットンシルクやウールなど、上品な素材感のカジュアル過ぎないものならば
この靴の運動靴感を中和して、よりいい塩梅となります。
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ちなみに、デニムだけは絶対に合わせてはなりません。
そのジーンズがどんなに見事なものであっても、
あっという間に’90年代のオタク青年になり果ててしまうことでしょう。
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さて、ギアとして肝心の履き心地ですが、
足を入れたときに感じるちょっとした硬さが歩行時にほぼ気にならず、
寧ろ心地よいクッションと反発力でぐいぐい進めます。

カルフ独自の走行サポートシステムで”フルクラム”という構造がありまして、
ミッドフットを接地しやすくすることで踵から前足部に向かう移動を促進し、
テコの原理で蹴り出しをサポートするという仕組みです。
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このシステムは’90年代に設計されたアリアだけでなく、
現行のハイパフォーマンスモデル(当店では取り扱っていませんが)にも
採用されているほど息が長く、それだけ完成度が高いということです。
たしかにアリアを履いて歩いてみればそれも宜なるかなでした。
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なお、サイドのMマークや踵の格子の内側など
全体の所々にリフレクター素材が用いられており、
夜間のランニングに効果を発揮します。
もともとは純潔のスポーツシューズであるという出自がここにも窺えますね。
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スポーツ用品専業メーカーとしての独自理論に基づいたテクノロジー、
北欧ならではの味わいのある色遣い、
本質的にはなかなか完成度の高いシューズです。
ただしそのユニークさがゆえにおそらくは万人に評価されづらいのかも知れません。
メディアにもほとんど取り上げられませんし。

まだもう暫し時間はかかることでしょうが
ひとりでも多くの方がその魅力に気づけるよう、
仲町台の片隅から声を上げ続けていきます。

オンラインストアはこちら→ ケイブ×フロラージュ/ グレー×ダークネイビー


蒼く眠る水の星にそっと ~ EEL/ 陶器釦のシャツ

EELからの秋物第一弾として、陶器釦のシャツが入荷しました。
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オープン間もないころにも一度展開しています
お陰様で早い段階で完売致しましたので、
初めてご覧になるお客様も少なくないと思われます。
ということで改めてご紹介を。

今回は白のピンポイントオックスフォード、
グレーギンガムとブルーギンガムの3色が入ってきています。
ブルーは当店では初入荷ですね。

夏にご好評いただいた陶器釦のポケTと同じボタンを、
贅沢にも前立て、カフスにあしらったシャツです。
ひとつひとつ手で練って生まれた、俳味ある蒼いボタンの魅力は
まさしく百聞は一見に如かず。
陶器といえど強度の高い土を使っていますので家庭での洗濯も可能
(裏返してネットに入れればベターです)で、
貝ボタンより丈夫とも云われています。

袋縫いの襟、舟形の胸ポケット、
台襟と剣ボロのみに使用されているシャツ共生地のくるみボタンなど、
陶器釦だけでなくシャツ自体も細部に亘るまでデザインされており、
非常に完成度の高い逸品です。
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全色XSを揃え、白に限っては全サイズご用意していますが、
おそらく今回も、特にXSはすぐに無くなってしまうことが予測されます。

気になる方はお早めに!

オンラインストアはこちら→ ホワイト/ グレーギンガム/ ブルーギンガム


買物ブギー ~ mannine

ご好評につき欠品中だったmannineのミニポーチが追加入荷しました。
そしてそれと同時に、ハンカチの新作も入ってきています。

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40cm角のサイズの新柄は
ワラオ君のおばあちゃんと魔法使いボエスの2柄です。
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ワラオ君のおばあちゃん柄には
幼少期のワラオBros.長男次男も登場しています。
それにしてもワラオ形状のまま子供の二人、
彼らのおばあちゃんが果たして人間なのか何なのか
考えれば考えるほどモヤモヤしますが、
そんな思索を促されるのもこのブランドの魅力のひとつです。

50cm大判サイズは買い物袋をぶらさげた
夫柄と妻柄(たぶん夫婦だと思うのですが…)、こちらも2柄です。
それぞれ自分のバッグだけを持った配偶者がセットで描かれています。
(8/30追記:ワラオ君のご両親でした!!)
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どの柄もmannineらしいポップな絵柄でありながら、
しっとりとして落ち着いた配色です。

着用するもの以外にこういうちょっとした小物で
季節感を出すのも、なかなか粋なことではないでしょうか。


山が萌え 鳥が舞い 雲は流れ 波はしぶく ~ RHYTHMOS

一昨日お盆の出先から戻ってきた家内と娘が、
息つく間もなく本日鹿児島の家内の実家へ発ちました。
今度は一週間のやもめ暮らしです。

考えてみると、娘が飛行機代が必要な年齢になって以来、
店主は薩摩の地を踏めていません。
たまには行きたい…

鹿児島、実にいいところです。
どことなく異国情緒があって、ご飯も焼酎も美味しく、
そして薩摩剣士隼人がいます。
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さて、そんな鹿児島といえば当店ではカタルタRHYTHMの革小物がお馴染みですね。
どちらもたいへんご好評いただいており、Euphonicaには欠かせない存在です。

そのRHYTHMですが、
9月よりRHYTHMOS(リュトモス)とブランド名も新たに再始動することとなりました。
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“リュトモス”とは”リズム”の語源となった古代ギリシャ語で、
物の姿や形を示す意の言葉とのことです。

銘が変わるといっても商品が全替わりするなどの方向転換ではなく
ブランドとして次のステージに進むにあたっての区切りとしたようですのでご安心を。
とは言いつつも店主もまだその新しい姿を直接見てはおらず、
一ファンとしても次の展示会を楽しみにしている状態ですが。

というわけで、現行の”RHYTHM”ブランドが手に入るのは今だけです。

人気の長財布Zip(L)も完売後の追加入荷分が
ネイビーとレッド一点ずつのみになる(8/18時点在庫)など、
もう型によっては在庫もそれほど残ってはいません。

今後もRHYTHMOSは継続して取り扱う予定ですが、
次回の入荷は来年になる可能性が高いと思われます。
お早めにどうぞ!

オンラインストアはこちら→
長財布 Zip(L) ネイビー/ レッド
財布 Zip(S) ブラウン/ キャメル/ ネイビー/ レッド
カードケース Visit(W) レッド
ペンケース Penna ブラウン/ キャメル/ ネイビー/ レッド
キーホルダー Tag ブラック/ ブラウン/ キャメル


きみになりたい ~ TAGE/ ビッグプリーツタイトスカート

当店の品揃えは基本的にトレンドではなく店主の気分で構成されています。
特にメンズにはその傾向が顕著
(自分が着たいかどうかを重点に選定しています)なのですが、
言い換えればレディスはまだ現段階ではさほどでもないということです。

特に今回の春夏がファーストシーズンで
お客様の嗜好が発注時には未知であったため、
意図的にテイストを散らしていました。
それでもセレクトが偏っていると評されることがしばしばありますが…

秋冬はもう少し店主の趣味性を強く盛り込みます。
女性にこんな服を着て欲しいな、というよりは
自分が女性だったら着てみたい、の方向です。

今回ご紹介のTAGEのスカートもまた然りです。
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以前ご紹介のパンツと同じダブルスポンジクロスという
ポリエステルベースのふわっとした生地を用いており、
フロントの大きな襞がデザイン上の際立った特徴となります。
タイトスカートはタイトスカートなのですが、
どことなく中性的な雰囲気です。

空想してみます、
自分がおじさんでなく女性であったなら。
これに合わせるのはブランドストーンの#558でしょう。
ソックスはLOCAL ROOTSの白で。
トップには薄手のニットなどがいいですね。
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余談ですが、店主にとってはベル&セバスチャン時代のイザベル・キャンベルが
永遠の女性ファッションアイコンです。
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彼女のテイストをそのまま店頭に持ち込むことはしないまでも、
レディスに関しては常にどこかしら品揃えの基準の一つになっています。

皆さんにも、装いの規範となるような憧れの存在はいますか?

オンラインストアはこちら→ ブラック/ ホワイト


夏の終わりの水平線と甘い潮風 ~ YOUR UNIFORM/ スウェットパーカ

いよいよお盆本番、我が家も揃って店主の父親の故郷に
お墓参りに出かけました。
今年は店がありますので横浜で留守番です。

仲町台も皆さん帰省でしょうか、
人気少なく、しみじみと孤独を噛みしめています。
咳をしても一人。

娘は毎年このタイミングで海で遊ぶのを楽しみにしておりまして、
くれぐれも事故には気を付けつつ
今年も思い切り満喫してもらいたいものです。

海といえば、ここ最近朝など海からの涼しい風が
横浜にも吹いて来るようになりました。

もう少しすれば朝晩はより気温が下がってきますし、
そうでなくても指が変色しそうなほどエアコンの過度にきつい場所が
この節電の時代にもまだ残っています。

そんなときにひょいと軽く羽織れるものがあればいいのですが、
こんなパーカは如何でしょうか。

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最近あまり見かけなくなった薄手のスウェット地は
裏起毛でもなく、温暖な気候に最適です。
洗いをかけることでやれた古着のような雰囲気が出ています。

UNIVERSALのダブルジップがアメカジ色を出しながら、
ジッパーのテープが白いため、極端な西海岸テイストにならず
着る人を選びません。

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今年の春夏ものとしてリリースされ、しかも殆どが売れてしまったため
実は現在はもうネイビーが一枚のみという寂しい在庫状況ですが、
避暑地での行楽、夏の名残の夜の海、
盛夏ものでないだけにまだしばらく色々なシチュエーションで活躍可能なひと品です。


あゝ嘘でもいいから ほほえむふりをして ~ DESIGN AGAINST TREND/ パペットソックス

そろそろ晩夏の足音が聞こえだしています。
ご来店のお客様も、秋物をお探しの方が増えてきました。

実際はまだしばらく暑い日が続きますが、
気分的には素足に履物という装いにも別れの予感です。

秋冬も靴下は何種類か入荷予定ですが、
先日こんな一風変わったものが入ってきていますのでご紹介します。

基本的にはシンプルなローゲージの靴下です。
オフホワイトがどこか素朴で、柔和な表情を見せます。
締め付けもそれほど強くなく、履き心地も良好です。

靴下というものとしてはオーソドックスな良品といえます。

つま先に赤い丸が並んでいなければ。
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この赤丸により、ただの良質な靴下に命が宿りました。
手を入れれば謎の生物に早変わり、
そんなパペットとして遊ぶことができます。
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足に履いてもTRIOPなどに合わせればストラップの先からちょこんと覗く瞳が愛らしく、
殺伐とした人間関係も改善されるかも知れません。

ちなみにこちら、メンズ、レディースともにサイズ展開しています。


夏文庫

世間様より2テンポくらい遅れて話題にしますが、『火花』、売れに売れているようですね。
“売れに売れている”、素晴らしく甘美な響きです。
羨ましい。
閑話休題、しばらく目立った話題の無かった出版業界にとって久しぶりの明るい話になっているようで、喜ばしいことだと思います。

とは云うものの、恥ずかしながら実はまだ件の作品は読んでいません。
又吉氏の本は以前共著で出ていた『カキフライが無ければ来なかった』は持っていてなかなかの良作だと思いましたし、
『火花』のレベルも水準以上は期待できるとは思っていますが、なぜか手が出なくて。

読書家とは名乗れないまでも別段本が苦手なわけではなく、話題の小説や話題の映画、特に理由もなくなんとなく後回しにしてしまう接客業の人間にあるまじき懶惰な性分なのです。
大ヒット作品を毛嫌いしているとか、そういうことはありません。
ジブリ作品もバックトゥザフューチャーも好きですよ。
ただ、どうにもだいたいがタイミングが合わないと言いますか…

さてそんな体たらくなのですが折角の『火花』ブームに便乗して、Euphonica的に夏向けの本をご紹介するのも一興かというのが本稿の主旨です。

衣類に限らず、聴きたい音楽など季節ごとに気分が変わることはないでしょうか。
店主は毎年その時期が来ると読み直したくなる本というものがありまして、茹だるような蒸し暑さ、耳に響く蝉時雨、蚊遣り線香の煙の匂い、そんな時候にぴったりと思われる読み物を厳選してご紹介します。

ここで張り切りすぎて斎藤緑雨や岩野泡鳴を挙げても誰も喜びませんし、入手が容易なものでないととも思いますので、
一般的な認知度の低過ぎる作品は選考から外し、且つ文庫本のみで選定致しました。

1.谷崎潤一郎/ 陰翳礼賛(中公文庫)
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言わずと知れた美の聖典です。
闇、翳というものが日本的な美意識にどれほど大きな意味を成しているのかがきわめて易しい言葉で述べられています。
決して格調高い文体ではないのですが、それもこの名著が幅広く読まれる一つの理由かと。
観念的な話をだれもが解かるように伝えるには高次元の文章構成能力が必要で、そんな文豪谷崎の技巧を手軽に美味しく味わうには最適の書ではないでしょうか。
所謂美術についてのみならず食や生活様式に亘って言及されながらスノビッシュな嫌味を感じさせることなく読者を心地好い暗黒の世界に誘ないます。
当店内の薄暗さは、店主が若い時分にこれを読んで感化されてしまった所為かも知れません。
私は、吸い物椀を前にして、椀が微かに耳の奥へ沁むようにジイと鳴っている、あの遠い虫の音のようなおとを聴きつゝこれから食べる物の味わいに思いをひそめる時、いつも自分が三昧境に惹き入れられるのを覚える。茶人が湯のたぎるおとに尾上の松風を連想しながら無我の境に入ると云うのも、恐らくそれに似た心持なのであろう。日本の料理は食うものではなくて見るものだと云われるが、こう云う場合、私は見るものである以上に瞑想するものであると云おう

2.永井荷風/ 日和下駄(岩波文庫『荷風随筆集 上』より)
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荷風といえば『つゆのあとさき』『濹東綺譚』ですが、これらは真夏というよりは梅雨時向けのため除外しました。
都市開発に伴いどんどん破壊されていく江戸の名残を路地裏の目線で追い綴った随筆集です。
熱い怒りではなく平熱の諦観で、散り行くからこそより募る別れ難さを丹念に描いています。
荷風は文章の構築力という点では今一つなのですが(特に一人称の主語の置き方が若干引っかかることがあります)、高い教養に裏打ちされた圧倒的な語彙力と情感豊かな描写力で、実にじっくりと読ませます。
それにしても新国立競技場を例に挙げるまでもなく景観破壊も顧みぬ無軌道な乱開発は、この時代からずっと変わらない近現代日本の宿痾なのですね。
ついこの間も麻布網代町辺の裏町を通った時、私は活動写真や国技館や寄席などのビラが崖地の上から吹いて来る夏の風に飜っている氷屋の店先、表から一目に見通される奥の間で十五、六になる娘が清元をさらっているのを見て、いつものようにそっと歩を止めた

3.樋口一葉/ たけくらべ(岩波文庫『にごりえ・たけくらべ』より)
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5000円札でお馴染み一葉の代表作であるにも拘らず、雅俗折衷体のためかその知名度の割に現代はさほど読まれていない作品でもあります。
姉同様遊女になる予定の勝気な少女、その同級生である内気な僧侶の息子、少女と仲の良い質屋の腕白少年たちが、子供の社会から巣立ちそれぞれの社会構造に属する大人になり、やがて完全に別れてしまうであろうその第一歩の時間を清冽且つ瀟洒な文章で書き綴っています。
現代の説明過多な小説の作り方からは考えられないほど抑制された描写は、読み手にも高みからの見物を許しません。
待つ身につらき夜半の置炬燵、それは恋ぞかし、吹風すゞしき夏の夕ぐれ、ひるの暑さを風呂に流して、身じまいの姿見、母親が手づからそゝけ髪つくろひて、我が子ながら美しきを立ちて見、居て見、首筋が薄かつたと猶ぞいひける、単衣は水色友禅の涼しげに、白茶金らんの丸帯少し幅の狭いを結ばせて、庭石に下駄直すまで時は移りぬ

4.織田作之助/ 夫婦善哉(講談社学芸文庫)
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妻子持ちのダメ男と、彼と駆け落ちした若い芸者のふたりが、次々と事業に失敗し喧嘩を繰り返しつつも結局別れられずに寄り添って逞しく生きていく…とあらすじだけ書くとどうにも陳腐なのですが、戯作朝のリズミカルな文体がこの類の話につきまとう生臭さやドロドロ感をかき消して、妙に爽やかな読後に導きます。
年中借金取が出はいりした。節季はむろんまるで毎日のことで、醤油屋、油屋、八百屋、鰯屋、乾物屋、炭屋、米屋、家主その他、いずれも厳しい催促だった。路地の裏で牛蒡、蓮根、芋、三ツ葉、蒟蒻、紅生姜、鯣、鰯など一銭天婦羅を揚げて商っている種吉は借金取の姿が見えると、下向いてにわかに饂飩粉をこねる真似をした

5.フアン・ルルフォ/ ペドロ・パラモ(岩波文庫)
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日本文学ばかりなのも芸がないので、メキシコ文学を一点。
ペドロ・パラモという名しか分からない父親を捜しに彼が住んでいるという町に辿り着いた主人公でしたが、父親はすでに死んでおり、さらにこの町は生者と死者の境がなく…という幻想的な小説です。
登場人物の人間性、舞台の描写、すべてが徹底的に乾いており、命の尊さ云々といったウェットな概念が前提として存在していません。
さらに物語の構造も現在進行形かと思いきやそうでもなかったりと、時系列すら交錯しています。
こんな特殊な小説でありながら、読者に不思議と負担を与えません。
あっという間に読みきってしまうことでしょう。
物語も短いため、何度も何度も繰り返して読むことをお勧めします。
きっと読むたびに発見がある筈です。
『おれたちのすぐ上を誰かが歩いてるみたいだ』『もう恐がらないでいいよ。もう誰もおまえさんを恐がらせることはできないさ。楽しいことを考えるようにした方がいいんだよ。うんと長いあいだ土の中にいなくちゃならんのだからね』

思いついた順から5作挙げてみましたが、
この中の一冊だけでもどなたかの読むきっかけになれば幸いです。

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