心の鍵を壊されても 失くせないものがある ~ ORGUEIL/ OR-1001 “Tailor Jeans”

惜しくも3sixteenが日本市場から撤退してしまって以来、当店ではジーンズの類を一切取り扱ってきませんでした。

有難いことにその間も複数の著名ブランドさんからお声がけはいただいており、どれも製品自体は素晴らしいものばかりではあったのですが、仕入れるには至らず…。

それほど独特な基準を設けているつもりはありませんが、こうしてなかなかご縁の繋がらない時期が続いていました。

現在、ハイグレードなデニムのトレンドは大雑把に言って2つに分かれています。

欧州のブランドなどの都会的で洗練されたタイプ、もう片方が501XXをベースとした原理主義タイプおよびその派生。

前者はだいたいに於いて品質と価格のバランスに優れているとは言い難く、後者は品質の高さには唸らされるもののそれ以上心を動かされるようなポイントが見当たらず、今更XX云々と喧伝するのも気分ではありません。
XXを目指すというとはその時点でXXの代替品であるという宿命から逃れることはできないわけで、その点も気になりました。

高い品質に適正な価格、且つオリジナリティのあるもの。
現在の装いに於いて、コスプレにならず大人の着用に堪え得るもの。

そうした諸条件を軽々とクリアするジーンズをようやく紹介できることは、当店にとっても大きな喜びです。

ORGUEIL(オルゲイユ)、フランス語で”誇り”を意味するこのブランド名は、20世紀初頭の欧州に実在「しなかった」架空の仕立て職人であるエルムウッド氏の営むお店の屋号であり、Tailor Jeansと名づけられたこのパンツは氏がジーンズを作ったならば…という想像の下にデザインされました。

ゆえに、アメリカの炭鉱夫のために設計されたリーバイスとはまったく異なる仕上がりとなっています。

まず目を惹く特徴はフロントのデザインとボタンの選定。

テーラーならではの曲線的な前開き部分。
そしてそこに当然ジーンズに用いられるはずのメタルボタンは、一切使われていません。

ナットの殻を削り出したボタンを手でひとつひとつ縫い留めています。

よく見るとそれぞれの糸の通し方が異なりますが、これはもちろん適当に済ませたのはなく、開閉時に力のかかる方向を考慮し、糸に負荷がかからないようにするための仕様です。

腰の裏にはサスペンダーボタンが並びます。

ベルトはもともとパンツを固定するためのものではなく、かつてその役割はブレイシーズ(サスペンダー)が果たしていました。

そんな往時のトラウザーズのコインポケットは、今よりもずっと高い位置に設定されていたそうです。
このパンツではそのディテールを採り入れています。

リベットは旧き良き打ち抜き型。
股やバックポケットにも打たれています。

旧いディテールといえば背面の尾錠も忘れてはなりません。

ネクタイの大剣と小剣を模した左右非対称の形状が、ただの復刻に収まらないのだと微笑みながら教えてくれるようです。

これらの画像をご覧いただくとお判りになるように、ステッチも一般的なジーンズに較べピッチが細かく、また色もオレンジやイエローでなく落ち着いたグレーベージュのもの使っています。

生地はジンバブエコットンを用いた13オンスのセルヴィッジデニム。
ピュアインディゴでしっかりと染められ、時間をかけて奥行きのある色落ちを楽しめます。
白い部分がやや茶色がかっており、真っ青にならないのもこの生地の特徴です。

その経年変化サンプルとして、実は店主が半年ほど穿きこんだものがございます。
洗濯回数は比較的頻繁に、洗剤も(LIVRERを)毎回使ったものと並べたのがこちら。

向かって左がその私物、右が新品です。

あまり変わらない…

細部をよく見れば多少は判りますが…(なお、見出し画像も店主が着用した私物です)

それほどまでに染めが深いということです。

見た目の変化は少なくとも、手触りはとても柔らかくなり、穿きこむごとに着心地が増していきます。

腰の鹿革パッチには先述のエルムウッド氏が。
意外と可愛いですね。

ディテールばかりでなく、形状、着用感にも触れましょう。

前側の股上が浅く、背面側はしっかり深さを取っているため、腰回りがすっきりしながらも屈んだときにお尻がぺろんとこんにちはしないようになっています。

脚のラインは腿の幅がやや細く、テーパードがほぼかからないストレートシルエットです。
ワイドでもスキニーでもなく、テーパードでもない、これが意外と今見つからないもので。
汎用性が高く、また大人が穿いても無理して頑張った感を出しません。

ところで、革パッチにも書かれている通り、実はこちらのブランドは、かのレプリカの雄ステュディオ・ダ・ルチザンが手掛けています。

あのゴリッとしたハードな持ち味を抑え、世界的に評価の高い圧倒的品質はそのままにまったく新しいジーンズを生み出す旧くて新しいブランドORGUEIL、どうぞ末永くお付き合いくださいませ。

オンラインストアはこちらです


コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA