いやはやこのブランドを仲町台の地で紹介することになるとは、夢にも思いませんでした。
奇才・山縣良和氏の手掛けるwrittenafterwards(リトゥンアフターワーズ)は、「装う事のいとおしさを伝え、流行の成り立ちや本質を伝えること、創造性を持って今を表現していくこと、そして心に届けること」を掲げ、教育、社会、文化、環境的観点を持つコミュニケーションツールとしての衣服の役割を提案する、単なるアパレルの枠に収まらぬレーベルです。
もともとセントマーティンズの同窓生2人で立ち上げたブランドですが、もうひとりは発足数年後に脱退し自らのブランドを始動、それが当店ではすっかりおなじみとなったASEEDONCLOUDデザイナーの玉井さんだったりします。
山縣さんの活動は幅広く、彼が設立したファッション専門学校「ここのがっこう」は洋裁というよりもクリエーションに特化したユニークな学校で、講評会のゲストなどにも内田樹氏や会田誠氏、養老孟司氏などファッションの分野にとらわれない人選が光ります。
すでにお気づきの方もいらっしゃるかも知れませんが、リトゥンの服は、きわめて先鋭的です。
モードという便利な言葉でさえも窮屈なほど、それは「服」なのかと疑念すら生じる作品も少なくありません。
そんなリトゥンからある日想定外のお声がけをいただき、展示会に伺いますと、
今季のリトゥンは”Who is the witches? Who are the witch”、魔女裁判がテーマです。
魔女を裁く側も、本質的には魔女そのものではないか、場合によっては魔女として裁かれるのではないか、相反する価値観の反転によってすべての人が魔女たりうることを提示しています。
ちょうど先日あいちトリエンナーレ騒動もあり(まだ継続中の事案ですが)、こうした視座の違いについて考えさせられました。
名古屋市長や多くの日本国民にとってはガソリン脅迫はよいことではないけれど共感はできる範囲で、とにかく悪いのは少女像やその他の作品でありそれを税金を使って展示した主催者であるとしたわけですね。
実質的に、政権の主義主張に反する表現に対してのテロ行為、恫喝は公権力が支持しますよと表明されたのだとしか認識できませんが、客観的事実はひとつでありながらも多角的なもの、それもまたどこからものごとを見るかによるひとつの景色に過ぎないのかも知れません。
すべて、後世から振り返ったときに歴史の結果が示してくれることでしょう。
それはさておき、リトゥンならではのこうした魔女のインスタレーションや美しい新作の展示に感銘は受けたものの、さすがに当店で取り扱っているほかの商品との整合性があまりにもとれず、ウムムどうしたものかと考えていたのですが、そのとき山縣さんの着ていたジャケットがふと目に留まりました。
絶妙なバランスのデザイン、饒舌な素材感、気になって仕方ありません。
素敵なジャケットですね、それオーダーできますか、と、初対面なのに思い切り不躾なお願いを駄目もとでしてみると、まさかの快諾。
本来19SSに提案されていた商品だったようですが、生地が残っているので生産可能とのことでした。
ついでに、近くにいた魔女が着ていた服が色違いの同素材だったため、二色作っていただけることとなりまして。
そんな次第で、このマンダリンジャケットが当店に登場することになったのです。
まず目を引くのが深く陰影の刻まれた、表情豊かなコットンリネンの生地。
肉厚で、剛性が高く、一枚仕立てながらしっかりした着心地です。
特徴的なチャイナボタンはやや大ぶりで、愛らしい存在感を放ちます。
もともと春物としてデザインされてはいるものの、秋にもじゅうぶん活用できる一着に仕上がっています。
レディース中心のブランドなのに男性用のジャケット(身長173cmの店主が袖を折り返すとちょうどよく着られるサイズ感です)、しかも過去の品番というトリッキーな仕入れ方をしていますが、服そのものが佳いのでそれはもう仕方のない話です。
店/ブランド間のテイストやジャンルの境界を越えたその魔術的魅力、是非一度お試しを。