長らく流行の表舞台に立つことなく、多くの人々の頭の中からその存在も消えつつあるピーコート。
そうでなくとも、中学生や高校生のとき制服の上に着ていたよ、重いよね、硬いよね、などと、郷愁を伴いながらもややネガティブな印象で語られたりと、いずれにしても「過去のもの」として扱われがちではあります。
しかしながら、あらゆる先入観や固定観念を除いてまじまじと見てみれば、その基本設計の完成度は頗る高く、決して軽んじることのできないものと解ります。
であるにも拘らず人気が上がらないのだとしたら、デザイン以外の部分に要因があるのだと、店主は以前よりずっと考えていました。
ところが、トレンドから外れた服の宿命、いざ探してみようとしてもなかなか出てきません。
実は開店時より毎冬提案を試みながらも、無念それが叶わずにいたわけです。
ならば、もう直接お願いして作ってもらうしかないのでは、そう思い昨年Itheに投げかけてみたところ、「実は今気になっていて、作ろうと思っている」との返答が。
そうしてついに登場しました、当店待望のピーコート、ItheのNo.41-USPです。
1960年代に米海軍で使用されていたものをベースにItheのフィルターを通し再構築、元来の佳さはそのまま残しながら、キナ臭さも男臭さもない、洗練された街着へと生まれ変わらせました。
甲板で纏う服ならではの、立てれば集音効果を発揮する大ぶりの襟、
歩哨が直立したまま手を暖められるよう設計されたマフポケット、
裏地には濡れたような艶となめらかな肌触りを備えたキュプラを使用しています。
この上品な素材が、やわらかく、軽く、ストレスのない着心地を実現しています。
一般的にピーコートのボタンといえば錨の刻印が入ったプラスティック製のものですが、率直に申し上げて大人が都市で着る服にはまったく不要なディテールです。
そこで、光沢を抑えたナットボタンに変更。
これによりカジュアルさ、スポーティーさが抑制され、コート自体の品位が高まりました。
当店がピーコートに求める要素のすべてを満たした、完璧な一着です。
しかし…人の欲求は尽きないもの。
Itheの服はネイビー、ブラック、ホワイトの3色を基調とし、またブランド哲学としてトレースをデザインの工程に組み込む以上、このブランドとしてやれることには(それがまた魅力なのですが)限りがあります。
そこでわがままついでに、店主がデザイン画を描き、もう一型特別に製作してもらうこととなりました。
No.41-USP-Eはこうした経緯で誕生したEuphonica別注モデルです。
襟やボタンの配置、サイズ寸法は基本的にインラインのNo.41-USPと同じですが、まずこのキャメル色によって印象ががらりと変わりました。
こちらで使用している生地は、繊細なヴァージンウールに腰の強さをもたらすナイロンを入れ織り上げた、イタリア製のメルトンです。
美しい発色のみならず、ふっくらとした質感、なめらかな肌触り、そして軽さと柔らかさを備えています。
裏地には店主個人の好みで、艶を抑えたコットン×ベンベルグ(コットンの種子から作った再生セルロース繊維)の薄手ツイルを採用しました。
袖裏はキュプラですので、袖通しはすっとなめらかなままです。
インラインで用いているものより素材本来の表情が出たナットボタンが、温かみのあるメルトンの質感、色目と調和しています。
もちろん、素材だけを変えたわけではありません。
袖付けは背面のみラグランのスプリットラグランスリーブに変更。
運動性のみならず、肩のラインがまろやかな円みを描き、柔和な印象を与えます。
また、マフポケットの位置をやや高く上げ、腰にフラップつきのパッチポケットを追加しました。
手前味噌ながら、どこに出しても胸を張れる素晴らしい一着となったと自負しております。
いよいよ目前に迫る冬本番。
今年のコートの候補として、ご検討いただければ幸いです。
オンラインストアはこちらです→ No.41-USP/ No.41-USP-E