やっと会えたね。 ~ Post Production

当店で革靴といえば、delightful tool。

華やかさはないものの、革靴を生活の道具としてとらえ、そこに対し真摯に向き合って生み出した靴は、着々と支持者を増やし続けています。

最近はまた新しい活動にもチャレンジされ、今後の展開にも期待が高まる一方ではありますが、実はひとつ弱点を抱えていました。

外羽のプレーントウを基本形とするこのブランドは、木型の特性上、スリップオンタイプの靴…たとえばローファーを展開できていません。

たしかにいまトレンドの型とはいえないものの、それでも需要の途切れないローファー。
これをdelightful toolと同等のレベルで、となると、なかなか見つからないものです。

かつて当店で販売していたOLD PORT MOCCASINは、メイン州の職人の減少によりブランド展開を休止してしまっています。

もうこれは諦めるしかないか…と思っていたところに、驚きの超新星が現れました。

それが今回ご紹介する、Post Productionです。

なんと革靴をスリップオンタイプしか展開していないという、この潔さ。

いったい何者なのか。
初めてのご紹介ですから、しっかりとご説明致しましょう。

Post Productionは、シューズデザイナー甲斐崇弘氏が2018年に発足させた新進ブランドです。

映像作品、映画の製作における撮影後の作業を意味するブランド名は、ただ靴を作るところで完結させるのではなく、その靴をどう伝えていくか、どう使ってもらうのかと、その先まで丁寧に考えていきたいという意思が込められています。
「こだわりの凄い靴」であることばかりに気が向きがちな靴業界への、ひとつのアンチテーゼと言えそうです。

その第一作にして、代表モデルなのが、この”Re-lux”。





“Relax & Luxury”と、相反するかのようなこの2つの要素を兼ね備えた一足として生まれました。

室内履きとして使われてきたベルジャンシューズを元にしたデザインですが、きちんと日々使える外履きとして再構築されています。

アッパーに用いられているのは、イタリア産のベビーカーフレザーです。

タンニン鞣しを施されたのち染料で色付けされたことで、透明度がとても高い仕上がりとなり、革そのものの肌理の細かさを引き立たせます。

この穏やかな、しかし目の離せない艶…

一方でベビーカーフは薄く繊細なため、通常あまり日常使いの靴には適さないとされますが、この靴には革の中でも厚みのある部位のみが用いられ、男性の体重にもしっかり耐えてくれます。

爪先のラインは円みを描きながらも、土臭さのない絶妙な匙加減。

甲をぐっと低くした木型で、コンパクトで立体的な踵と相まって、履き口の浅さから起こりがちな踵の抜けを防ぎます。

ヒールは一般的な革靴より若干高めの2.5cm。

下に向かって窄まるように緩やかな傾斜がとられており、このヒールによって靴にある種の女性的なニュアンスが付与されています。

店主もさっそく使っていますが、その名が示す通り、気楽さときゅっとした緊張感が心地好く、ついつい間を開けずに履いてしまいますね。

このRe-luxと並んでお薦めしたいのが、”Norm”。


こちらは「基準」をあらわすその名に相応しく、靴の基本形であるプレーントウを、Post Productionらしくスリップオンで表現した一足です。

Re-luxとは異なる木型が用いられ、着用感も違います。

履き口は狭く、また甲がやや高めに設定されました。

爪先は鋭角的(とがっているというのではなく、角の立った感じです)かつボリュームのある、力強いライン。

この程よい重厚感により、パワーのある服と合わせても足元が華奢になりません。

それでいてヒールをRe-lux同様に高く設定することで、不必要なマッチョさ、武骨さも削ぎ落されています。

実に絶妙なバランスの上に成り立っている靴です。

どちらのモデルとも、マッケイ製法にて接合されたレザーソールの前足部に、最初からハーフラバーが貼られています。

これは滑り止めの意味もありますが、修理が容易となるというメリットも見逃せません。
前足部がすり減ったら、糸を切らずにこのラバーのみを交換すればよく、費用の面でも助かります。

こうした部分に、あくまで実用靴であることが窺えますね。

先週の入荷から天候の回復を待ち、ようやく撮影ができたため本日のご紹介となりましたが、思っていた以上にローファーをお求めの方が多く、すでに少しずつ巣立ちはじめています。

オンラインストアでも販売はしているものの、紐で調整できないタイプであるうえに木型の特徴もそれぞれ異なるため、正直通販でのご購入はお薦めできません。
できれば店頭にて実際に足を入れてみて、ご納得の上でお買い上げいただきたい靴です。
(なお、通販でのご購入の場合、サイズが合わないという理由での返品・交換は基本的に承っておりません)

こうしたフィッティングの難しさもまた、世間にローファータイプの靴の展開が少ない理由の一つと言えます。
甲斐さんがPost Productionを立ち上げたときも、周囲の人々に「ローファーだけなんて絶対やめとけ」と忠告されたそうです。

そんな逆境を跳ねのけて現れた、静かなる猛者。
どうぞ一度お試しを。

オンラインストアはこちらです→
Re-lux ブラック/ ダークブラウン
Norm ブラック


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