Euphonica開店準備のときに初めて近所のワークマンに行った時のことを思い出しました。
店主、生来の骨皮筋右衛門ゆえに力仕事はからっきしだめでして、
じゃあ頭使う仕事なら人並み以上にできるのかよと問われたところで
残念ながらそうでもないのですが、
それは兎も角いわゆるガテン系の仕事に就かれている方のMACHOな世界には、
手が届かないが故か漠然とした憧憬を抱いています。
ワークマンには軍手を買いに行っただけだったのですが、
軍手というジャンルひとつでもこれほどのバリエーションがあるのかと腰を抜かしました。
まさにプロのニーズに応え続ける、プロの世界です。
シャラクサイ表現ですがファッション視点でしか見ていなかった
ワークウェアの世界が、いかに偏狭であったのか思い知らされた次第です。
そしてそのきめ細やかな多様性が、日本のリアルワークウェアが到達した
独自の世界なのだなと唸るばかりでした。
たとえばアメリカのワークウェアにも同じように国民性が存分に反映されているのは
言わずもがな、作業着に反映されるお国柄の違いというのも興味深いですね。
諸国のワークウェアを集めた資料館なんかができれば面白いのではと思います。
モノマガジンのムックでその名も『ワークウェア』という、
巻ごとにクオリティのムラはあるものの全体としては猛烈に濃いシリーズがあるのですが、
あのテンションでいつか具現化することを祈ります。
例によって冗長な前振りでした。
もともとは他社のOEM生産を請け負っていた
フランス中部サントル=ヴァル・ド・ロワール地方で営まれるワークウェア工場が
4年前に始めたオリジナルレーベルである
HERVIER PRODUCTIONS(エルヴィエ・プロダクションズ)、
それについての記述が本稿の主旨だったのを見失いかけていました。
ちなみにラベルには”HERVIER PRODUCTIONS S.A.”とありますが、
“S.A.”は株式会社の意ですので、当店では表記上略します。
ただでさえ長いブランド名ですし、代理店に怒られなければいいかなと。
まだそれほど世間一般的に著名なブランドとは言い難いものの、
その生産能力やセンスはすでに一部で高い評価を得ており、
かのジュンヤワタナベやアナトミカとのコラボレーションも経験しているほど。
日本で展開している自社レーベルはリアルな作業着ではなく、
あくまでワークウェア工場ならではの技術に基づいた都市生活向けの服ですので、
着用に及んだところでプロの職人気分はまったく味わえません。
冒頭のワークマンの話はなんなんだというご指摘は謹んで甘受致します。
今回入荷分からはまずはローブコートをご紹介しますが、
これからしてすでに作業着の世界から逸脱しています。
確かにディテールを見ればその要素は感じられなくはないのですが、
それにしてもあまりに美しすぎる服なのです。
写真の巧拙はさて置き、ご覧いただければ
些末な説明がなくともある程度伝わるとは思いますが、
それでも細部に目を向けてみることにしましょう。
まずフロントの合わせ、ボタンでなくフックが用いられています。
フランス古着のワークパンツなんかでしばしば見られる仕様ですね。
着込んでいくと金具のアタリが生地に出て、好い風合いになりそうです。
襟もテーラードやバルマカーンのそれでなく
ショールカラーになっているところが泣かせます。
ベルトはボタンで留める方式になっており、
巻いたときと巻かないとき、それぞれ異なる表情となります。
ベルト自体が背面腰で本体に縫いとめられていますので、
巻いていないときにするりと落ちてしまうことはありません。
見て判るほどの肉厚な生地はコットンのモールスキン、
「モグラの皮」の名の由来には諸説ありますが、
うっすらと起毛した、耐久性の高い素材です。
かつてフランスのワークウェアでよく使用されたこの生地を
当時のクオリティで復刻し、使用しました。
着込めば着込むほどヴィンテージさながらの味わいが生まれます。
生地の堅牢さゆえに襟の形や服のエッジが綺麗に出るのも嬉しいポイントです。
国は異なりますがアウグスト・ザンダーの写真が好きな方ならば
この服の20世紀初頭感といいますか、煤けたアンティーク感に
魅了されてしまうことでしょう。
情けない話ですが、予算の都合上サイズ2(M相当)一枚だけの入荷となっています。
これから本格的に訪れる秋に向け、ぜひ実物に触れてその魅力をお確かめください。
オンラインストアはこちら→ Robe Coat