2018AWから、”Handwerker laboratory”と称して特定の個人のための特定職業を主題にしたコンセプチュアルなワークウェアを発表しているHandwerker。
当店では初回より継続的に紹介してきましたが、このシリーズ、いままで同じ人を連続して取り上げることはありませんでした。
しかし今季は昨年の秋冬に引き続き、ダイアログ・イン・ザ・ダークのアテンドを務めていた”盲点ハンター”檜山晃氏と再びタッグを組むことに。
それでいて前回とは異なるアプローチで、ユニークなシャツを生み出しています。
ダイアログ・イン・ザ・ダークおよび檜山さん、そしてそのとき発表したパンツについては、あらためて説明すると長くなりすぎるので昨年のブログをお読みいただくとして、「目の見えない人にとって使いやすい服」だった前回のある種ユニバーサルデザイン的な手法とは真逆に、「目の見えない人が服に感じる不便さ」をテーマにしたのがこのシャツです。
ブログでは説明しませんでしたが、昨年のHW blind hunter trousersには、フロントの開きが設けられていません。
視覚的に気づけないため、用を足したときなどに閉め忘れてしまった際、そのままになってしまうことが多いというのがその理由だそうですが、その開きっぱなしになった事実以上に、それに対する晴眼者からの「かわいそう」という憐憫の情が寧ろ堪えるとのことです。
シャツにしても、きっとボタンの掛け違いや何かしらのエラーは着用時に発生しますし、となればそうした余計な「善意」が発生しかねません。
そこで。
この開きのあるほうが、背面です。
いくら何でも、目が見えないからと言ってシャツを前後逆に着るなんてことはありませんよね。
ゆえにこのシャツを着ていても「ナニ!?」と驚かれることはあっても、「(目が見えないから間違えてしまうなんて)かわいそう」とはならないわけです。
もちろんちゃんと人体の骨格を計算して仕立てられていますので、前後逆に見えても実際はちゃんと着られます。
が、それでも前立て(いやこの場合は”後立て”?)の構造は一般的なシャツと同じです。
ですから着用感には問題がありませんが、そう、お察しの通り、とても脱ぎ着しづらい。
しかも比翼仕立てですから、開閉しづらさがさらに増しています。
ですから、頭が入る程度に上のボタンを外して、すぽっと被るように着るのがよいでしょう。
この不便さもまた、目の見えない人が「ふつうの服」を着るときに感じるのとまったく同じでないにしても、類似のストレスと言えます。
画像だとちょっと判りにくいかも知れませんが、斜めにステッチを入れることで内部が仕切られ、ポケット自体の大きさのわりにものが入れづらく、また融通があまり利きません。
使いようによっては便利な形であっても、やはり独特の不便さがそこにはあります。
なお、ここまで着づらくした形状と対照的に、生地はとてもなめらかで心地好いものを採用しています。数値で表すと、なんと200双。
これは目が見えぬゆえ触感から得る情報が多いからこそ、一層重要なポイントです。
自らのモデルでありながら檜山さんご自身をして「着替えながら『やっぱり不思議だ』と言ってしまいました」「毎日、この形を着るとなったらきっと大変だと思う」と言わしめた不便なデザイン。
しかし一方で、日常的ゆえ「慣れ」きってしまっている服を着る行為そのものをあらためて意識する面白さがここにはあり、それは我々晴眼者がダイアログ・イ・ザ・ダークで感じるであろう感覚と通じるものなのでしょう。
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