夏に読み物の紹介記事を書いたきり、なんとなく次は秋の読書に絡めてと考えていたまま気が付くと師走も半ば。
暖冬ですのでなんとなく晩秋のような気候ですが、さすがにそれでも秋と言い切るのは気が引けます。
ひとまず今季の入荷もひと段落しましたので、冬の夜の愉悦として本は本でも…なものをご紹介してみます。
ゲームブック。
甘く危険な響き。
今20代以下の方は恐らくご存知ないことでしょう。
本の文章が番号を振られて区切られており、シャッフルされたものをこう称します。
読者が登場人物として読み進め、分岐点があれば自ら選択していくという代物でして、80年代後半に一世を風靡しましたがあっという間にブームが過ぎ去った、まさに時代の徒花です。
おおざっぱな例を挙げれば
「1 道が二手に分かれている。右に進む場合は15へ、左へ進む場合は48へ」
というような形式で、店主、当時大いにヤラレたものです。
これをきっかけに本好きになり今の人格が形成されたようなものですから、
極論を言えばゲームブックなくしてEuphonicaはありません。
そんなゲームブック、店主が100冊近く所持している中から、冬の長い夜に相応しい名作たちを4シリーズばかりピックアップ致しました。
熱心なファンの方からは「鈴木直人作品がないぞ!」「なんでわざわざコレを選んだんだ!」等あることでしょうが、あくまで店主視点での冬用チョイスですので予めご了承願います。
1. イアン・リビングストン/ 雪の魔女の洞窟(現代教養文庫)
冬だけに筆頭として挙げさせていただきました。
所謂マニアからの評価はそれほど高くないのが不思議、個人的には類稀なる大傑作だと思っています。
成り行きでこの世に新たな氷河期をもたらして世界支配を企む雪の魔女を倒し野望を食い止めることになるという筋書きでありながら、この雪の魔女、物語中盤でサクっと倒せてしまいます。
それから…という二部構成となるわけです。
雪の魔女の野望とか世界がどうこうとかはこの作品の本質ではないんですね。
全編を通して重く暗く冷たいトーンで、実に陰鬱な気分になります。
版画調の挿絵も渋い。痺れます。
残念ながら絶版です(出版社すら現存していません)ので古書をお探しください。
2. スティーブ・ジャクソン/ ソーサリー!シリーズ全4巻(創元推理文庫)
『魔法使いの丘』『城塞都市カーレ』『七匹の大蛇』『王たちの冠』。
ゲームブック史上最高傑作と名高いシリーズです。
主人公は盗まれた魔法の力を持つ”王たちの冠”を奪還すべく単身長い旅を経て魔王の砦を攻略するという王道な構成でありながら、魅力溢れた舞台設定、様々な登場人物、簡潔にして高い完成度を誇るゲームシステムにより数多のファンを虜にしました。
戦士(まったく魔法使えず)か魔法使い(戦闘能力低め)どちらかを選んでプレイします。
「魔法の書を持ち歩いて旅をするなど、危険人物に奪われることを想定するととんでもない」
という理由により、魔法使いは巻末の呪文の書を読み込んで可能な限り暗記してからゲーム開始せねばならないのがユニークな点です。
なお、このシリーズは各巻のタイトルと翻訳を一新して創土社より復刊しています。
また旧版では各巻で翻訳者が異なっていましたが、新版は『雪の魔女』等多くのゲームブックを手掛けた浅羽莢子さんが全巻の翻訳を行っており、格調高い名文を楽しめるようです(旧版しか持っていないので確認できていませんが)。
3. 林友彦/ ウルフヘッドシリーズ全2巻(創元推理文庫)
この作者には『ネバーランド』シリーズという代表作があるのですが、個人的嗜好によりこちらを選びました。
『ウルフヘッドの誕生』『ウルフヘッドの逆襲』の二部構成です。
邪神復活を企てる呪術師が魔法の触媒として生き血を搾り取るため
大勢の幼子を誘拐し、彼らを救い出し企てを阻止すべく獣人”ウルフヘッド”となり旅に出るという筋書きとなっています。
これもストーリー展開とは別の部分に価値のある作品です。
主人公が狼と人間の姿を使い分けられること、進む道により異なる仲間を増やして彼らの力を借りながら物語を進めていくことがシステム上の大きな特徴となっています。
とはいえ正直色々と凝り過ぎてやや煩雑になってしまったかも知れません。
ともあれきわめて上品なトーンで綴られる、どこか神話のような世界観が何よりの魅力といえます。
ゲーム自体は特に『逆襲』からパズル的要素が増します。
今回ご紹介のものの中最も難易度の高い作品です。
余談ですが90年代末期に人気を集めたレザーブランド”ウルフズヘッド”の名を見るたびにこのゲームブックを思い出しました。
今は絶版の上中古にも若干プレミアがついてしまっています。
4. 森山安雄/ 展覧会の絵(創元推理文庫)
通常ゲームブックは主人公のパラメータをサイコロで設定するものですが、これは主人公にそもそもパラメータが設定されておらず、楽器一本を持って記憶喪失の状態から始まるという設定の異色作です。
さらにタイトルからお判りになるようにムソルグスキーの楽曲を下敷きにして10枚の絵の中を旅していきます。
異色作でありながらその評価はきわめて高く、これを国産最高峰として挙げる声は少なくありません。
この作品は『ソーサリー』同様創土社より復刊されており、入手は容易です。
ファンタジーものが苦手な方は少なくないと思います。
特にこの類、我が国では萌え絵や美少女ものに走りがちでそれがますます特殊な嗜好の世界としての面を助長させてしまっていますが、今回挙げたものは世に出た時代もあっていずれも格調高く大人の鑑賞に堪えうるものばかりです。
決してお洒落な趣味とは言えないでしょうが、もしご興味があれば是非お試しを。
店内読書コーナーにも『展覧会の絵』を置いてありますよ。