店主、’90年代に価値観が形成されたオールドタイプにつき、
ジーンズに関しては相当な原理主義者です。
言わずもがな生地にはセルビッジがなくてはなりませんし、
洗い加工には魅力は感じず、選ぶのは糊付もしくはワンウォッシュのみ。
ストレッチデニムなんて以ての外、デニムは堅くてごわつくものでしょうに。
生産地は日本もしくはアメリカ、それ以外は一切認めません。
旧い考え方なのはご指摘を受けずとも理解しています。
今年はデニムブームといくらメディアで喧伝しようとも
店主の望む世界観が流行っているのではありません。
巷ではデニムの「あの感じ」が注目されているだけで、
それが再現できていれば極端な話
ジャージにデニムの写真をプリントしたものでもいいわけです。
本物のデニムであっても濃色のものは濃色のまま変わらないことを望まれ、
色落ちは最初から加工してあるものがスタンダードのような扱いの状況です。
あくまでファッションだ、大事なのは薀蓄じゃなくてセンスだと
言い切られたら宜なるかなですが。
と、昨今のデニムという記号を取り巻く環境にいくら悪態をつこうとも、
それに終始していては生産的ではありません。
じゃあそんなに言うならお前が何を選ぶのか見せてみろよ、という話です。
これが実に難しい。
あちこち見てみましたが、当店とマッチするものとなかなか出会えませんでした。
品質的な部分での条件は前述の通りなのですが、
デザイン面でも、歴史ある3大ブランドを除いてヒップポケットのステッチや
ポケットに縫い付けるブランドタブ等の虚飾は不要とのスタンスですので、
さらに幅が狭いのです。
実際クオリティを見るだけならば岡山児島のブランドからいくらでも選べるものの、
店主の探し方に問題があるのか、
ごてごてとした和風テイスト、そうでなくとも過剰に”日本”を推したり、
あるいは凶悪なバイカーズテイストだったり。
かといって501のレプリカ、という方法論も今更な気がします。
EELのデニムはなかなか佳いのですが、散々うるさいことを言って
結局馴染みのEELを選んでは怠慢の誹りを免れません。
そんな中で候補に残っていたのが日米合わせて2ブランドあったのですが、
それらを押しのけるように突如伏兵として現れたのがこの3sixteenでした。
3sixteenはニューヨークに拠点を構えており、
2003年創業と新進ブランドというわけではないものの、
本格的な日本上陸は今シーズンが初となります。
生産は名立たる他ブランドも手掛けるサンフランシスコの工場で行っていて、
デニム生地は日本製ですがリベットなどの副資材にはアメリカ製に拘る、
そんな頑なな姿勢でありつつも旧態依然としたレプリカブランドではありません。
通常のデニムもとても佳いのですが、なんといっても最大の目玉は
シャドウセルヴィッジと名付けられたデニムのシリーズです。
パッと見はデニムとは判らないかも知れません。
同色ステッチを使用していることもあり、
新品の状態ではネイビーのツイルパンツのようです。
EELのアイアンパンツに似ていますね。
一般的にデニムというものは
経糸に合成インディゴの染色を施し、
緯糸に無染色の糸を用いてそれらを綾織にして作られるものです。
経糸が生地の表面の色を形成し、緯糸が裏面の色を形成します。
この経糸の染料の染色堅牢度がそれほど高くないために、
穿いていくうちに色が褪せ、濃い藍色からブルーに変化していきます。
またこの経糸は芯まで染まっていないため、
着用により表面の染まっている部分が剥がれ、白い芯が現れます。
これがいわゆるアタリやタテ落ちの理屈です。
一方岡山の名門工場クロキに特注されたこの生地は
緯糸になんと芯まで染まった黒い糸を使用しています。
ということは裏面が黒いということです。
当然表面に出るわずかな緯糸も黒いため、
最初はインディゴ色とのトーンが近すぎて
まったくの一色のようにすら見えます。
新品の生地にデニムらしい表情がないのはこのためです。
これを穿きこむことにより表面は
濃淡を伴っていわゆるジーンズらしくブルーに色落ちしますが、
生地が擦れて破れた部分は黒い、という状態になります。
また表面の色調も緯糸の効果でうっすらと黒がかり、
独特の陰影が浮かび上がります。
浅学ながら店主、こんな奇天烈なデニムは今まで見たことがありませんでした。
勿論そのプロダクトとしての完成度は生地のみに依存するものではなく、
過去を尊重しながらも高みへと進められています。
たとえばリベットが打ち抜きタイプであることからも
作り手のヴィンテージへの敬愛が感じられますね。
腰のレザーパッチは、
偶然にも当店でもベルト等を扱っているTANNER GOODS製でした。
経年によりコクのある深い艶めきが醸し出されること必至です。
この生地を使用したものも含め何型か作っているブランドですが、
当店ではスリムストレートのモデルのみを選びました(同型で生地違い2種です)。
これも本当に個人的な感覚ですが、
テーパードしたジーンズはドレスシューズに合わせる当世風な装いにはよくとも、
ブーツやスニーカーに合わない気がします。
かといってヴィンテージよろしく極太ストレートも現代の気分ではありません。
太腿部分を細めに、そのまま裾に向かって絞らずまっすぐに落ちるシルエットが
汎用性が高く、またジーンズの形としてとても綺麗だと考えています。
生地は防縮加工されているため、それほど縮みは出ません。
念のため店主私物(29インチ)を
お湯を張ったバスタブで糊落とし
→洗濯機で脱水、乾燥機発動
→生乾きのものを直射日光で乾燥
と強制的に縮むようにいじめてみたところ、
発生した縮みはウェスト4cm、レングス6cm程度でした。
ですので通常の洗い方であれば
買った当初のサイズの印象とあまり変わらないはずです
(洗った直後は多少は縮んでいても、穿けば伸びますので結果的にほぼ相殺されます)。
ただし店主の例もありますので、裾上げは必ず水を通してから行ってください。
ブランドとしてはジャストで穿くことを推奨していますが、
1インチ程度サイズアップして腰骨でひっかけてもいいと思います。
色落ちしたこちらの画像は
店主が2ヶ月弱ほど穿いたシャドウセルヴィッジです。
今回の記事作成のために、着用頻度も洗濯回数も若干多めにしています。
まだこのデニムの真髄は現れていないものの、
アタリの出方などにその前兆は窺えます。
これで多少はイメージも掴めるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
正直ジーンズとしては決して安価な部類ではありませんが、
今流通しているものに納得できない、でも野暮ったいのも厭だ、
そんな方に是非お試しいただきたい、デニムのネクストステージです。
オンラインストアはこちら→ SL-100x(通常デニム)/ SL-120x(シャドウセルヴィッジ)