初夏から夏に路傍でよく見かける露草は、早朝に花を咲かせるも昼頃に萎んでしまいます。
咲く時間帯が朝露を想起させることからそう名付けられたと云われていますが、万葉の時代には月草または鴨跖草(ツキクサ)と呼ばれており、この音韻が転じたとも。
その性質から、命の儚さや心の移ろいやすさを仮託した歌がいくつも残っています。
月草之 借有命 在人乎 何知而鹿 後毛将相云
(月草の借れる命にある人を いかに知りてか後も逢はむと言ふ)
万葉集から一首。
月草の如く借りたような命の我々、どうして(将来のことなど知る由もないのに)後で逢いましょうなんて言うのだろう、という心情を詠んだ歌です。
さてこの露草、どうやらASEEDONCLOUDの世界でも親しまれているようです。
かつて英国の農夫が着ていたシャツに着想、再構築したPeasant Shirt。
さらりと乾いた質感のタイプライター生地に、可憐な露草の刺繍が施されています。
見づらいのですが、刺繍の脇にあるスタンプに記された”COMMELINA COMMUN”は、露草の学名ですね。
これは、17世紀に活躍したオランダの植物学者ヤン・コメリン(Jan Commelin/ Jan Commelijn/ Johannes Commelin/ Johannes Commelinus)と
その甥で同じく高名な植物学者カスパル(Caspar Commelin/ Caspar Commelijn)に由来します。
当時コメリン家には彼らを含め三人の植物学者がいたのですが、もう一人は世に出ることなく早逝してしまったとか。
このエピソードを二枚の青い花弁の下にひっそりと隠れる小さな白い花弁をもつ露草の花になぞらえ、フランスの植物学者シャルル・プリュミエが命名しました(なお、プリュミエは他にも多数の植物に著名な学者の名を与えています)。
露草の話ばかりになってしまいました。
もちろん、シャツ自体もアシードンクラウドならではの仕事が注ぎ込まれた、見事なものです。
ボタンの代わりには革鞄などによく使われる金具であるギボシを採用、
初めて出会うのになぜか懐かしい、不思議な郷愁が漂います。
こちらには刺繍はありません。
袖口のボタンも共生地くるみでなく通常の貝使いですが、生地の空気を含んだかろやかな織りを引き立てて、そうしたシンプリシティもまた実に魅力的。
甲乙つけがたい存在です。
くわえて、同じ生地使いのワンピースも登場。
『くもにのったたね』の花を育てる雲の上は風が強かろう、というわけで共生地のスカーフが付属しています。
シャツ同様グリーンのリネン版には刺繍がなく、素材の佳さを前面に出したデザインとなりました。
敢えて色のコントラストを強めたパイピングによって生地のやわらかさが引き締められていて、甘さと辛さの塩梅に唸らされます。
シャツ、ワンピース、どちらも来たる晴れやかな初夏から夏、まさしく露草の咲く季節に快く楽しめます。
不安になるような話ばかりで今後どうなるのかさっぱり見えないご時世ですから、初夏、まして夏の服の話なんてと思われる方も少なくないはず。
しかし先人の歌の通り、未来のことなぞ元よりだれにも見通せるはずがありません。
そんな我々の思いや社会構造の変化などお構いなしに、春は過ぎ、夏が近づいてきます。
であるならば、せめて前を向いて歩くしかないでしょう。
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