失った夢だけが 美しく見えるのは 何故かしら ~ ASEEDONCLOUD/ Handkerchief

記憶という概念は存外と曖昧なもので、知らずと自他が混ざり合ってしまうこともあります。

でもそれは決して一概に悪い現象でもなく、その混同は自分の記憶が他者の記憶によって補完されることとも言え、蓋し歴史の記録は多数の人間の記憶の重なりであるとも表現できるのではないでしょうか。

そして歴史の記録とは、大きな足跡を残した偉人の物語や、戦争、事件、改革などに限りません。
市政の人びとのつつましい生活だって、たいせつなピースです。

さて、ここではないどこか、とある地域には記憶の地図とやらを作る職人さんがいるとか。

そこでは多くの人は定まった住居を持たず、自由に移動しながら生活を送っています。
また物質的な豊かさよりも人の内面の価値に重きを置いているそうで、財産の所有に拘泥していません。

とはいえ、人間は完全に物質からもあらゆるしがらみからも逃れることは叶わぬ生き物です。
ふとときに過去を振り返りたくなることもあれば、思い出が詰まって捨てられない大切な品だって、一つや二つくらいあって然るべきでしょう。

特別な日、特別な記憶を呼び戻したいとき、彼らが向かう場所があります。
それが”記憶の保管庫”です。

そこでは人びとの思い出の品と共に、地図が保管されています。

人はそのなかで思い出の品を探し、そしてその地図を手掛かりとして、思い出の地を再び訪れます。

そうして過去に触れ、気持ちを新たにまた再び自由な移動生活に戻っていきます。

その地図を作っているのが、4人の”記憶士”。

それぞれ東西南北に分かれ、記憶の保管庫に残された品をもとに、馬に乗ってその場に向かい伊能忠敬の如く地図を埋めていく、そんな気の遠くなるような仕事に挑む職人たちです。

その地図は、おそらく永遠に完成しません。

ですのでそれを前提として、彼らは馬の引退と共に自らも引退し、仕事を次の新しい職人へと受け継いでいきます。
人びとの記憶と思い出の品と同じように、この地図も長い長い時間をかけて、記憶の集合体として積み重ねられていくというわけです。

そんな貴重な地図の図版をプリントしたハンカチが届きました。

中央の”ANEMOI STRAGE”、ここに記憶の保管庫があります。

東西南北それぞれが別の担当者ですので、埋まり方はばらばらです。

エリア内に記されている地名の数が北部が一番多いのは、このあたりの担当者であるボレアース(北風)のキャリアが一番長いためだそう。

二番目に古株なのがエウロス(東風)という名の女性。
彼女はなんと動物と会話することができるようです。

お次がノトス(南風)。
彼女は作物を豊かに実らせることができるとのことで、その能力がこの仕事にどう活きるのか、それは謎です。

職人としてもっとも日が浅く齢も若いのがゼピュロス(西風)。
この説明文によると男性のはずですが、作業用のスカートを自作(当店ではオーダーしていませんが)するなど、ジェンダーの枠に囚われない人物のようです。

彼らは自分のいる場所を星座の配置によって確認しているため、地名にはすべて星の名をつけています。

夏に到達した土地の名は逆さ文字で記されていたり、お気に入りの場所には自分の名前をつけたりと、ところどころに見られる遊びから、彼らがこの仕事を愉しんでいるのが伝わりますね。

残念ながら完全に判読するのは店主の老眼では不可能でしたが、秘密の抜け道などルートの種類によって線が描き分けられていて、なかなかの親切設計と言えます。

ハンカチ自体も、素敵な図版に引けを取らずとても良質です。
上等な綿の経糸と、綿と少しシルクを混ぜた緯糸を用いてふんわりと織りあげた生地は、なめらかな肌触りだけでなく、高い耐久性、すぐれた吸水性を備えています。

ハンカチひとつにしてこの豊かな物語性。

今季もアシードンクラウドから目が離せませんよ。

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