いちご白書の流行った頃に 愛しながらも別れた二人 ~ Jens/ SLIT SHIRT

横浜はいつもより遅い梅雨を迎えたようですが、体感としては梅雨というよりも夏を想起させますね。

やや滞り気味だった今季新作のご紹介を、いよいよ駆け足で行わねばならないようです。

一般的にはレディースブランドとして知られるJens、男性にも対応するユニセックスラインの完成度が高いというのは、古くから当店をご利用いただいているお客様方ならご存知でしょう。

この夏も、とびきりのシャツが届いています。



Jensの今季のテーマは「スミレ」。

上村一夫『すみれ白書(1976)』、そしてその主人公である林すみれに着想しています。

すみれはデパートのバッグ売り場で働く女性です。

妻子ある男との不倫や、母親の死などを経て、娼婦として生きることを選択し、やがて…

という物語ですが(なお、現在電子書籍化に向けて作業中だそうです)、この作品内だけに留まらず、聯想はさらに過去に繋がり、古き銀座の街並み、社会進出を始めた女性達、そしてかつての淫靡なカフェー文化へと向けられました。

今回ご紹介するSLIT SHIRTは、そんな往時の時代の香りを色濃く漂わせながらも、現代の、そしてしっかりとJensの服として成立しています。

まずもってこの直感的な懐かしさを繙いてみると、秘密は形状でなく生地にあります。

モノと名付けられた白黒の不規則的な波柄は、ドレープの美しいレーヨンの特性と相まって、見る者を不思議な感覚に誘い、

パープルのチェック柄は、さらりとした綿の肌触りと独特の配色が、遠い記憶の「夏のお出かけ着」を想起します。

これらの生地、実は日本国内の機屋や工場などに眠る1970年代~のデッドストックから掘り出してきたそうです。
どうりで、異様なリアリティがあるわけですね。
遠い祖父母との思い出やあの頃の景色、記憶がフラッシュバックします。

ここに、Jensならではの切れ味鋭いデザインが合わさり、ただの懐古主義的なステージから脱却しました。

肩~袖~胴まわりにかけてのボキシーなシルエットから、前後差の大きい裾。

この変則的なリズムで、我々の世界をたちまち現代に引き戻します。

なお、先ほどからチラホラ見える紐の使い方はとくに定まってはおらず、着る人のセンスに従って自由に結んだりして、変化をつけてもらう想定なのだとか。

品名の由来にもなっている裾両脇の深いスリットから漂う、凛としたエロティシズム。

肉感的、官能的なのに、下品でも卑猥でもない。
まさに、上村一夫作品に通じるところです。

オンラインストアはこちらです→ モノ/ パープル


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