梅雨時によく出る言葉であるゆえか、同名のカフェの影響なのか、モンスーンはアジアの温暖湿潤な地域特有の現象といった印象を持たれがちですが、実際のところもっと広範囲にわたり発生します。
和訳の季節風と聞けば、あまり熱帯感は出ないのではないでしょうか。
その語源はアラビア語で「季節」を意味するموسم(mawsim)と伝えられています。
かつてアラビア海を行き来した船乗りたちは、一年が大まかに二種類の時期、すなわち海上に南西からの風が吹く季節と北西からの季節が吹く季節に分けられると理解し、航海に役立てていました。
この現象は、比熱が小さい(暖まりやすく冷めやすい)大陸と、比熱が大きい(暖まりにくく冷えにくい)海洋、この特性の違いに起因します。
夏季には比熱の小さい大陸側の空気の方が暖かくなって上昇気流を生じるため、その空気を補うために海洋から大陸へ風が吹きますが、逆に陸の温度が下がり相対的に海洋の方が暖かくなる冬季には、大陸から海洋へ風が吹きます。
大雑把ながら、これがモンスーンの原理です。
モンスーン気候のグローバル分布を示したKhromovの論文(1957)では、モンスーン域の定義としてふたつの条件が提示されています。
1) 1月と7月の地表面卓越風向の差が120度以上あること
2) 1月と7月の地表面卓越風の出現頻度が40%を越えていること
爾来これが長らく定説とされていましたが、気象衛星の発達とともに研究もより深化し、近年では概ね下記の3通りの解釈がなされているようです。
1) 海陸間の熱的コントラストに起因する、陸域の雨季と乾季をもたらすラージスケールの大気循環系、あるいは夏季と冬季で風向が反転するラージスケールの大気循環系
2)海陸間の熱的コントラストや海面水温の東西非一様性に起因する、雨季と乾季をもたらすラージスケールの大気循環系、あるいは夏季と冬季で風向が反転するラージスケールの大気循環系
3)低緯度域あるいは中高緯度域において、海陸間の熱的コントラスト等に起因する、夏季と冬季で規則的に風向が変化するラージスケールの大気循環系
実は日本に限らずこのモンスーンという言葉自体の定義ははっきりとしておらず、インドでは「モンスーンというと小学生でも知っているが、気象台ではこれについて何も知らない」とまで云われているとか。
さて。
話は一転し、当店で初のお取り扱いとなる気鋭の新星をご紹介致します。
moncao(monção)。
モンサオと読んでください。
ポルトガル語でモンスーンを意味します。
その名の通り、風に吹かれるような軽やかな感覚を季節ごとに愉しませてくれる服を作る、ポルトガル発のブランドです。
お会いしたことはありませんが、デザイナーの二人はかつてミラノの某有名メゾンで研鑽を積んだ方々だとか。
そんなキャリアもあってか、どちらかといえば素朴な温かみのある服の印象が強い同国にしては比較的珍しい、落ち着いた上質な品を提案してくれます。
しかし生地に触れてみると、そのたっぷりとした瑞々しい肉感、潤いのあるなめらかな肌触りに驚かされます。
素材はカシミア混のウール。
シャツというよりむしろジャケットのような、豊かな厚みのある、そしてとても柔らかな生地です。
この直線的な裾もまた、羽織ものとして活用できそうな雰囲気に満ちています。
形状やボタンなどのディテールは完全にシャツながら、なかなか定義の難しい、そんなところもまたモンスーンの如しではありませんか。
ともあれ、身に纏っていただければその圧倒的な実力に、ジャンルだとかカテゴリーだとかの些末な疑念など吹き飛ぶはず。
さあ、生活の中に、新しい風を吹かせましょう。
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参考文献
村上勝人『アジアモンスーン-その気象と人象風景-』日本気象学会『天気』39.7(1992)
川村隆一『モンスーン循環の形成とその変動プロセス-大気海洋相互作用と大気陸面相互作用から謎を解く-』日本気象学会『天気』54.3(2007)