ここではないどこかの島のお話です。
そこは、陽の沈まぬ白夜の時期と、陽の昇らぬ極夜の時期が訪れる場所でした。
不思議なことに、白夜になると海は満潮になり、猟師や海に生きる人々は舟を出します。
そして極夜になれば海は引き、干潮が続くそうです。
干潮時になると二人は浜辺に出て、どこからか流れてきた漂流物を拾い集めます。
そして海が満ちる季節がやってくると、妻は渡し守として舟を出し、しばらくそこを留守にします。
一方灯台守の夫は妻を見送ったのち、二人で集めた漂流物でさまざまなものを作りながら、妻の帰りを待つわけです。
どれくらいの時が経ったのか、妻が戻ってきました。
久しぶりの二人での食事の場で、夫は留守中の創作によってあらたな命を吹き込まれたものたちについて話します。
妻はそれを次の出航の際に客人たちに語りきかせ、物語はそこからさらに海を越えて唄い継がれていきます。
これが今季のASEEDONCLOUDのテーマ、”Hyouryushi”です。
そして、この度ご紹介するのが、二人が漂流物を収集するときに着る上着となります。
空想と雖もそのなかでの実用性を徹底して考えるASEEDONCLOUDです、「漂流物を収集する」というきわめて限定的な用途に対して真摯に向きあいます。
ここで偶然知り合ったのが、沖縄を拠点とし海の漂流物を使って作品を創り出すアートユニット”O’Tru no Trus“。
こちらのご夫婦に漂流物を拾い集めるにあたって如何なる機能が求められるのかをヒアリングし、それが今回のデザインに活かされました。
まず求められたのが、漂流物の収納のポジショニング。
拾っている中で一番のお気に入りは手に持つものの、新たな一番が見つかったらどこかに仕舞わないといけません。
しかし、その元一番はほかの(二番以下の)ものとは分けておきたい。
壊れやすいものを入れても大丈夫なように、立体的な構造となっています。
干潮時と言っても水辺ですから、なかには濡れたものも拾います。
流木など、長いものだってあります。
ポケットの口の開き具合をファスナーで調節可能なうえ、裏地として撥水性の高いナイロン生地が張られています。
それにしたって、長時間ずっと拾い集めていたら、疲れますよね。
そうでなくても、座って何かしらの作業をする必要が出てくるかも知れません。
でも先ほど述べたようにそこは水辺です。
迂闊に腰掛けたりなんてしたら、お尻が濡れてしまいます。イヤダイヤダ。
しかしご安心を。
先ほどの調整用ファスナーを全開にし、上端のスナップを外せば…
ここでも先述の撥水生地が活躍するわけです。
まだまだ語りどころは尽きません。
手袋を嵌めたままでも前立ての開閉ができるよう、ボタンではなく海軍由来の金具が採用されました。
使用感が気持ちいいので、是非実際に触ってみていただきたいところです。
そしてちょっと画像ではわかりにくいのですが、かがんで拾うポジションに適応した腕周り。
この肩から腕にかけての前傾姿勢をとりやすいパターンは、以前Handwerkerで登場したHW wood worker’s blousonのそれを踏襲しています。
ちなみに、色によって生地が異なり、ネイビーにはかつてブルガリア軍のパンツに用いられていた生地を再現した”Hyouryushi tricotine”(トリコチンはトリコットのような綾目の織物です)を、
ブラックとベージュには、英国HALLEY STEVENSONS社製のワックスドコットンを裁断前にお湯通しし、落としきらない程度に油分を抜いたものを用いています。
どちらも寒空の下で漂流物を拾うのに適した素材と言えます。
もちろん漂流物は関係なく、水辺でなく街でも着られるようデザインのバランスがとられていますから、「いや、自分拾わないんで…」と仰らずお気軽にお召しください。
着ていたら拾いたくなるかも知れませんけどね。
オンラインストアはこちらです→ ネイビー/ ブラック/ ベージュ