たとえば当店では品揃えを考えるときに、「良品」であることはとくに重視していません。
なぜなら、置くからには良品なのが当たり前だからです。
そこに加えて、なぜそのブランドが、なぜその品がここにあるべきなのか、その必然性こそが問われます。
その必然性を構成する要素はかなり言語化が難しく、またそれをすべて公開するのも業務上問題がある気がしますので、ここではつまびらかにしません。
ただ、ひとつ挙げるならば「面白さ」というのは無視できない点でしょう。
もちろん面白い、といってもfunnyでなくinteresting的なニュアンスですが、interestingも突き詰めればfunnyになるのかも。そんなことをこのベルトを見ながら考えていました。
当店では初登場となるbeta postは、すでに他のレザープロダクトブランドで実績のあるデザイナー江崎賢氏が手掛ける実験的なレーベルです。
ブランド名の由来について公式の説明を引用しますと、
beta: 試用 実験的な
post(1): 投稿する 掲示する
post(2): 次の 後の(未来を表す言葉)
とのこと。
何やら、ただのファッションブランドではなさそうな気配がこの時点でプンプンと漂います。
構造のみならず、その素材の選定にもデザイナーのメッセージが提起されたベルト、さっそく見ていきましょう。
suspention beltの名が示す通り、まさかのサスペンション機能が搭載されています。
通常、自動車やバイク、自転車などで衝撃を緩和するために組み込まれるものですが、そのロジックをベルトに取り入れることで、体の動きにベルトが対応し、運動時や荷物を持った時などに圧迫感を軽減してくれます。
言われてみれば、たしかになぜいままでベルトに採用されてこなかったのか不思議なくらいです。
その他にはベルトの構造にそれほど変わったところはありませんが、素材がまたユニーク。
言うまでもなく抜群の耐久性を誇る素材です。なにせ象さんですから。
もちろんワシントン条約に抵触する禁制品ではございませんのでご安心ください。
この質感を活かし石を模すことで、プラスチック製品をはじめとする大量生産大量消費の傍らで犠牲となる”自然”を表しています。
革は白く染めることのできない素材ですので、通常顔料を乗せることになるのですが、この革はそうした加工を施していません。
兵庫県姫路市で生産される白鞣し革と呼ばれる革で、1000年以上の歴史をもちながら現在たった一社でのみ作られる、たいへん稀少な革です。
牛の皮を河水に漬けたり、塩と菜種油で揉んだりと、素朴にして手間のかかるプロセスを経て生まれます。
なおこちらは大量生産大量消費の犠牲となる”伝統”を表しています。
と、こちらの社会への意識を促すだけでなく、純粋にプロダクトとして見ても興味深い構造を備えたベルトです。
どこに重きを置くかはもちろん個々違うところで、唯一の正解があるような話もでありません。
もし何かを感じていただけたなら、その「何か」を大切にして、どうか長く使い込んであげてください。