近年のジェンダーにまつわる価値観、感覚は、個人の枠を超えて、社会の土台から変わりつつあるように感じます。
少し前までは、たとえば服に於けるジェンダーレス、ユニセックスといった概念は、男女ともにメンズの様式に統一したり、あるいは男性服を極端にレディスに寄せたりと、「男性的な」力強さを伴いがち(たとえ後者のパターンであったとしても)でした。
それはおそらく一種の変革であり、闘争であり、ゆえに明確な意志とエネルギーを要したからなのかも知れません。
ところがこのところは状況が違うようで、ジェンダーの壁を越える、というよりも、壁自体がなかったかのような軽やかさが感じられます。
女性のファッションが男性的な要素を採り入れるのは以前からですが、たとえば若いヘテロ男性がごく自然に、何らかのメッセージ性を帯びることなく、お化粧をしたりパールのネックレスを身につけ、それが当たり前の装いとして受容されているのは、そうした変化の顕れではないでしょうか。
そこまで先進的にならずとも、自らの男性性(あるいは女性性)を否定せず、もちろん他者のそれも否定せず、自身と相対するジェンダーの属性を軽々と取り入れる、それもまたジェンダーレスの一つの形です。
そんな時代だからこそ、男性用のパンプスの意味が再構築されます。
Post Productionの新作Tear Pumpsは、その名の通り涙(tear drop)型にくり抜かれた(tear)意匠が印象的なスリップオンです。
当店では3種の素材をご用意しましたが、それぞれ甲乙つけ難い魅力を放ちます。
コニャック色が夏の太陽と好相性のラムスウェード。
衣類や手袋に採用されることの多いエントレフィーノ種の仔羊の革で、とても柔らかく肌触りに優れ、また毛足の美しさも特筆に値します。
シックなブラックはイタリア産のシープレザー。
カーフを思わせるしっとりとした肌理の細かい質感で、敢えてタンニン鞣しにすることで剛性も高められました。
そして、素仕上げのゴートレザー。
Post Productionオリジナルの植物柄がレーザーで彫られ、より中性的かつエキゾティックな匂いが醸し出されています。
どうもこの最後のゴートレザーは当店だけでしか展開していないようですね。
さて、つくりを見ていきますと、頑強さや歩きやすさ、といった部分より、足なじみのよさや軽さ、柔らかさを重視しています。
各色とも、ライニングにはコニャックのアッパーにも使われているエントレフィーノラムを採用し、上質な革手袋のような肌当たりに。
アッパーの縁に中敷きを袋状に縫い合わせることで、アッパーとライニングがぴったりと密着し、円く足を包み込むようなフィット感が得られます。
ソールの屈曲性にも優れているため、まるで靴下に底のついたような履き心地を愉しめます。
ご覧の通りソールが薄いためやや心もとない印象も受けますが、ヒールのトップリフトにはしっかりと溝の入ったVibram社製発泡ラバーが装着され、衝撃吸収性や歩行性を補っています。
店主も一足自分用に仕入れ、店頭で使っていますが(ゴートレザー)、革靴ですからもちろん推奨はできないものの、素足で履くと靴の持ち味をダイレクトに味わえて、その感覚が病みつきになりそうです。
意外なほど合わせられる服の幅も広く、これから気温の高くなっていく季節に、サンダルの対抗馬として活躍することは間違いないでしょう。
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Lamb Suede, Summer Cognac/
Italian Sheep, Black/
Goat, Botanical Engraving, Sand Beige