フランス南西部ボルドーとトゥールーズのちょうど間くらいの場所、ロット=エ=ガロンヌ県に、その修道院 Abbaye Sante-Marie de la Gardeが在ります。
「ラ・ガルド; La Garde(監視/見張り)」というちょっと物々しい名は、中世にカステルキュリエの前哨基地としてこの地に築かれた砦に由来するとか。
修道院としての歴史は比較的新しく、2002年にサン・マドレーヌ・デュ・バルー修道院(Abbaye Sainte-Madeleine du Barroux)の分院として建立されました。
16世紀に建てられた建物を中心に、革製のサンダルを作るための工房、養蜂場、クルミの果樹園など、さまざまな施設が追加され、いまに至ります。
カトリック最古の会派であるベネディクト会に属しており、修道士たちは聖ベネディクト(Saint Benoît, 480-547)の教えである「清貧」と「勤労」に則って、”Ora et labora(祈れ、そして働け)”の言葉を日々実践しているそうです。
12世紀の神学者である聖ベルナール(Bernard de Clairvaux, 1090-1153)は、修道士とは「囲いの中に住み、そこで神だけのために生きようと努力し、神に密着し、すべてのことにおいて神の善き喜びを満たすことを不断に求める者」であると述べています。
祈りによって、修道士はすべての人に手を差し伸べ、すべての人と結ばれます。
修道士は、祈る時間がないと言う人、祈れない人、祈り方を知らない人、神を知らない人、苦悩や絶望、死の扉の前にいる人…といった人たちのために祈るという代理機能を担ってもいるわけです。
また、聖ベネディクトは、修道院に、修道士が行うさまざまな作業に必要なものを可能な限り揃えることを望んでいました。
そうして環境を整えることで、世俗から離れているべき修道士にとってデメリットとなり得る外出を避けることができます。
先述の”Ora et labora”にもあらわれているように、聖ベネディクトは「怠惰は魂の敵である」と警告しています。
ゆえに、仕事やワークショップは、修道士たちにとってとても重要な行為です。
而して、このガルド修道院の修道士たちは、院内にある工房(実は先ほどさらりと言及していました)にて日々修道士のためのサンダルを作っているのでした。
素人の手作りと侮るべからず。
フランスの大手靴メーカーの技術指導のもと磨かれた彼らの腕前は、完全に職人のそれです。
もちろん祈りの合間の限られた時間に作業しますから、ひと月に生産できるのは、100足から150足程度。
そんな貴重なサンダルが、このたび海を越えて仲町台に届きました。
男性用モデルと女性用モデル、あわせて2型です。
聖ベネディクトのフランスでの呼び名を冠した(余談ですが、ベネディクトはフランス人ではなく古代ローマ貴族の血統にあり、イタリアで生まれています)、代表的な型です。
フランス南西部ポー(Pau)のタンナーから仕入れた肉厚の牛革は、始めこそ硬くとも、履きこんでいくうちに足に馴染み、上品な艶を湛えてきます。
アウトソールには軽量かつ耐摩耗性、衝撃吸収性に優れたVibramの発泡ラバーを採用。
重くて硬くて滑る、といったレザーサンダルの印象をポジティブに覆してくれます。
推測するに、ヒルデガルデの名はビンゲンのヒルデガルト(Hildegard von Bingen, 1098-1179)に由来しているのでしょうか。
ヒルデガルトは、中世ドイツで活躍した人物で、ベネディクト会系女子修道院長にして、神秘家であり、科学的視野に基づき博物学や医学について多くの著作を残し、ならびに賛美歌などまでものしたという、驚異的な才媛です。
サンダルに戻って見てみますと、Benoîtより華奢な、女性の足をより綺麗に見せてくれるデザインで、世俗から離れて暮らす修道士が作っていると思えぬほど洗練されています。
バックルもBenoîtのそれとはまったく異なる、柔和で品の佳いものが選ばれました。
ソールは同じくVibramの発泡ラバーですので、きちんと歩きやすさは保たれています。
これがまたなかなか魅力的なデザインで、とくにこの修道士の絵は可愛いですね。
修道士たちはこうしたサンダルを、夏場以外も厚手の靴下と合わせ、一年を通して履くそうです。
そのためか、この修道院で作られるサンダルはサイズ表記に比して若干ですが大きめのつくりとなっています。
ですので、可能であればお試しのうえでご購入されることをお薦めします。
祈りを込めて作られたサンダルです、きっと履く人ひとりひとりに幸せをもたらしてくれることでしょう。
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