ここではないどこかの話です。
きょうだいだったのか双子だったのか、あるいはただ両親の職業が同じだけの友だちだったのか、そのあたりは詳らかには伝えられていません。
ただ、どうもほかの家族と暮らしていたわけではなく、ふたりきりで生活を送っていたようです。
いずれにしても性格のタイプは真逆だったらしく、ひとりはしっかり者の世話焼きさん、もうひとりは自由奔放大胆不敵豪放磊落。
そんなふたりとも、一緒に生活する羊たちと会話できるという、ちょっと変わった能力を持っていました。
さて、彼女たちが暮らす村では、「自分たちの村が平和で、穏やかに生活を送れているのは、動物たちが悪霊や魔物が村に入ってこないよう、動物たちが退治してくれているから」と言い伝えられ、森の動物たちを守り神として崇めています。
冬を迎えたある日、自分たちの他に寄る辺もないふたりは、ふとした好奇心からその守り神たる動物たちに会いたいと思い立ち、森に入っていきました。
もともと村でも羊とおしゃべりしていて、動物との対話は慣れていますから、そうして森の多くの動物たちと親睦を深め、いつしか守り神であるキツツキ、ハリネズミ、フクロウ、ヘラジカ、ウサギ、リスとも仲良しに。
そうして動物たちから仲間として認められてからのこと。
ある日、守り神たちが彼女たちに相談を持ち掛けました。
「いつも寒い時期になるとリーダーのクマが舟に乗って旅に出てしまう。彼が早く帰ってくるように、一緒に寒さを追い払ってほしい」
頼みを聞き入れた彼女たちは、動物たちと一緒にさまざまな魔除けなどを駆使したり儀式を行ったりと、大いに苦心することとなります。
そうして悪戦苦闘すること数ヶ月、ついに彼女たちは寒さを追い払うことに成功します。
冬の終わりを動物たちと祝ったのち、大きな役割を果たした彼女たちは自分の村へと帰ることにしました。
それから。
毎年寒い季節を迎えると、彼女たちはまた森に戻って、クマの代わりに動物たちのリーダーを務めています。
いまでは彼女たちは、守り神の声を聞くことのできる預言者として、村の人びとからも称えられる存在となっていました。
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ASEEDONCLOUDの2023AWコレクション”kigansai”(今回はコレクションテーマがローマ字表記のみの発表のため、こちらで想像するしかありませんが「祈願祭」でしょうかね)第一弾となるKigansai shirtは、彼女たちの村での仕事である羊飼いをテーマにしたバンドカラーシャツです。
デザイン上はASEEDONCLOUDで定番的にリリースされているものを踏襲しており、一般的なボタンの代わりにギボシが採用されています。
縦長のシルエットが美しく現代的なバランスではありながら、デザイナーの玉井さんが英国在住時に蒐集していたアンティークシャツの匂いのようなものが自然に引き継がれているのが、細部から見て取れますね。
さてシャツ自体はもちろんですが、どうしたって目を惹くのがこの柄。
Shepherd diary clothと名付けられたこの生地には、羊飼いの一年がさながら絵日記のように描かれています。
牧草を獲って、晴天が続くのを祈りつつ干し草にしたり(冬への大切な備えです)、羊毛から毛糸をつくるのも、この時期です。
秋になれば、放牧していた群れを集め、雌羊と子羊を分けます。
羊は賢い動物で、母親や羊飼いから境界を教わり、それを雌の子羊に伝えることで、放牧されたときどこまでが自分たちのテリトリーなのかを、代々把握しています。
しかし、ときには迷子になった羊を探しに行かねばならぬこともあるでしょう。
日照時間が短く、寒い冬。
妊娠した雌羊への餌やりは、春に向けて欠かせない仕事です。
夏のあいだに蓄えた干し草を与えたり、何かとケアをしながら、春の訪れを待ちます。
と、名作ゲーム『牧場物語』さながらに、一年を追ってみました。
シャツ用の細畝コーデュロイにこの素敵な図柄が載せられているわけですが、
一般的な考え方として、コーデュロイにプリントをすると、生地特有の畝のため柄がしっかりと出せません。
そのため、絵を綺麗に出すため、通常より速度を下げてじっくりとインクジェットプリントを行いました。
物語やデザイン、柄のセンスは言うまでもなく、こうした地味なひと手間もまた、ASEEDONCLOUDの服に大きな魅力を付与しています。
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