ヴァン・モリソンの『Crazy Love』をご存知でしょうか。
ジェシ・デイヴィスや
リタ・クーリッジ、
マキシ・プリーストなど
多くのミュージシャンにカバーされているのですが、同じ曲でありながら不思議なほどそれぞれまるで異なる印象を残します。
K.ITOの井藤さんは、こうしたいろいろなバージョンを聴きながら今シーズンのデザインを組み立てていったそうです。
この解釈によってがらりと変わる一曲が、ひょっとすると服にも無意識的に反映されたのかも知れません。
そう思わせたのは、昨年晩夏に登場したラグランスリーブジャケットの基本的な構造を新たに解釈し再構築した、まさに名カバーのようなジャケットです。
ショールカラーがぱっと見はタキシードを彷彿させながら、その実そこまでの畏まった緊張感はなく、気軽に羽織れる一着となっています。
これによって肩のエッジが消え、和やかななで肩となります。
単なるラグランではなく、さり気なくダーツがとられた立体的な形状になっているところは、さすがK.ITOですね。
ショールカラーにして、ボタンを全部留めてスタンドカラーのように着ることも可能です。
バーバリーのコートを例に挙げるまでもなく、比較的頑強なイメージの強いギャバジンですが、しっとりとした艶に深い陰翳が引き立つ上品な佇まいに、認識を改めさせられます。
この生地を贅沢にも裏面にも、つまり2着分使用しました。
一枚仕立てではなく、表と同じ生地を裏に用いる、いわゆる無双仕立てです。
袖裏に至るまで、裏地ではなく表地が用いられており、表から袖口で折り返して裏に戻るようになっていますので、表と裏の境目が構造上ありません。
ですから折り返しても、「裏」に該当する部分が見えないというわけです。
生地の始末も表同然ですから、まるごと裏返しても綺麗で、見とれてしまいます。
リバーシブルではないのに、そのように錯覚してしまいそうになりそうです。
また、袖自体のつくりもユニーク。
立体的なジャケットにはほぼ必須条件と言っていいほど採用される前振り袖を、デザイナーの井藤さんは好みません。
機能的な理由でなく、外観上の理由らしいのですが、そうは言っても袖は立体的なつくりであってほしいもの。
そこで肘の内側に「ト」状のダーツを設けることで、その問題を解決しました。
こうしたテクニカルな工夫とジャンルレスなデザイン、上等な素材が、このジャケットを大人も唸る一着へと昇華しています。
このショールカラージャケットだけでもおなかいっぱいになりそうなところ恐縮です、実はもう一型用意しました。
先のジャケットよりほんの少し着丈を伸ばした、ショート丈のスプリングコートです。
色が違えば印象も変わるものとはいえ、それでもまったくの別物に感じられますね。
大胆なアレンジのセルフカバー曲、といったところでしょうか。
襟を立ててみると、よりコートらしさが引き立つ、力強い印象に。
これ見よがしでないジグザグステッチから、デザインワークの背景にきちんと男服の歴史と文脈が踏まえられているのが見て取れます。
流通モデルの種類があまりに限られていることから、どうしてもニットやカットソーに特化した印象を持たれがちなK.ITO。
しかしそんな枠に収まるべきブランドではないというのは、もっと知られるべきでしょう。
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強撚ギャバジンラグランスリーブショールカラージャケット ブラック/ ネイビー
強撚ギャバジンラグランスリーブショートコート ライトベージュ