営業日時の臨時変更のおしらせ

明日から1週間、下記の通り一部の営業日時が変更となります。

11/22(水) 定休日 → 12:00-18:00
11/23(木祝) 平常通り(12:00-20:00)
11/24(金) 平常通り(12:00-20:00)
11/25(土) 12:0-20:00 → 12:00-18:30
11/26(日) 平常通り(12:00-20:00)
11/27(月) 平常通り(12:00-20:00)
11/28(火) 12:0-20:00 → 14:00-20:00
11/29(水) 定休日 → 12:00-18:00
11/30(木) 平常通り(12:00-20:00)

以降平常通り

やや不規則的で恐縮ですが、どうぞ宜しくお願い致します。


風の中の火のように ~ Post Producion/ Dress-Gloves & Mil-Gloves

美しいスリップオンシューズで当店でもすっかりお馴染みのPost Productionですが、この秋は革靴に留まらず、革手袋が新たに登場しました。

まずはオーソドックスなスタイルのDress-Gloves。

ドレッシーなデザインではありますが、甲の手縫いステッチや明るいブラウンのパイピングが全体を適度にカジュアルダウンさせているため、気兼ねなく普段使いできます。

使っていくとほどなく手に馴染むしなやかなイタリアのラムレザーは、ダークブラウンの色目も実に上品です。

ちなみに黒はありません。
仕入れていないのでなく、そもそもラインナップに存在しないんですね。

Post Productionの甲斐さん曰く、「いや黒も絶対かっこいいけど、みんなどうせ”スパイみたい”って言うだろうから」とのこと。

この絶妙に肩の力の抜けたスタンスもまた同ブランドらしいところです。

ライニングにはカシミアニットが採用されていますので、軽い見た目以上に保温性は高く、安心して真冬にもお使いいただけます。

お次はもう少しカジュアルなMil-Gloves。

こちらはコニャックとブラックの2色展開です。

ミリタリーの軽作業用レザーグローブを基にリデザインされてはいますが、革の厚みをドレス用の厚さに漉き、ドレスグローブのようなタイトめのフィッティングに仕上げているため、カジュアルではあってもワークグローブ的な粗野な雰囲気はみごとに削ぎ落されています。

ディアレザーとラムスウェードのコンビ使いで、この革のチョイスもまたPost Productionならでは。

コニャックはニュージーランド、ブラックはフィンランドと、産地こそ違えど、ともにしっとりと吸い付くようなグリップ感を備え、濡れても硬くなりにくく、放湿性にも優れています。

その繊細な質感ゆえ耐久性に不安を持たれる方もいらっしゃるかも知れませんが、ご心配なく。
ディアレザーは、かつては鎧などにも使われていたほど頑強な革です。

ラムスウェードはスペイン産のエントレフィーノ種のものを採用。

とても柔らかく肌触りに優れ、また美しい毛足が特長の革で、ディアレザーと美しいコントラストを生み出しています。

実はこのスウェード、今年の春夏に登場しご好評いただいたTear Pumpsでも使われていました。

靴と手袋、形も用途もまったく別のものなのに、その性質を理解しているからこそ、こうして同じ革をそれぞれに適した素材として活かすことができるわけです。

こちらのモデルもライニングはカシミアニット。
暖かさだけでなく、その優しい肌触りも乾燥する季節にはうれしいですね。

なお、どちらもフリーサイズ展開です。
一般的な男性用手袋のMに相当する大きさとお考えいただければ、お間違いないかと思われます。

オンラインストアはこちらです→
Dress-Gloves ダークブラウン
Mil-Gloves コニャック/ ブラック


タートル・トーク ~ Jens/ TURTLE SWEATER

秋はどんどん深まって、ついに最低気温が一桁まで下がるようになりました。

今年は残暑が続いたせいか、例年並みの秋らしい気候でもやけに寒く感じますね。
何にしても、いよいよあたたかいセーターの出番でしょう。




基本的にレディスブランドでありながら、たまに登場するメンズ(厳密にはユニセックス)モデルがいつも大好評のJens。

今季の新作であるタートルネックセーターも、臆せずJensらしさを発揮しながら、きちんと現実味のある服にまとまっています。

ほどよく肉厚の生地は、2色のラムウール糸とモヘアの糸を合わせ、補強のナイロンを入れて編み立てられ、美しい色調としっかりとした保温性を両立させました。

長めに設定された袖は、袖口でややフレアに拡がっています。

リブには穴が開けられ、親指を通すことでハンドウォーマー的な使い方も可能です。

これから寒さが増すにつれて、気分も装いも自然と重くなっていきます。
だからこそ、ときにはこうしたちょっとデザインの面白い服を採り入れてみると、気持ちまで明るく軽くなるはずですよ。

オンラインストアはこちらです→
ゴールドミックス(ブラウン)/ オリーブミックス(グリーン)/ ブルーミックス


借りていたDictionary 明日返すわ ~ EEL Products/ セプテンバード

Do you remember
The twenty-first night of September?
Love was changin’ the minds of pretenders
While chasin’ the clouds away

Our hearts were ringin’
In the key that our souls were singin’
As we danced in the night, remember
How the stars stole the night away, oh yeah

Hey, hey, hey
Ba-dee-ya
Say, do you remember?
Ba-dee-ya
Dancin’ in September
Ba-dee-ya
Never was a cloudy day

言わずと知れたEW&Fの『September』の歌詞ですが、これ実は12月の歌です(この後「Now December」と歌っています)。
9月から育んだ愛を12月に悦んでいる、そんな内容ですね。

この歌の恋人たちのように、秋から冬にかけて共に素敵な時間を過ごせるコートが、EEL Productsから届きました。



“Septemberd”なる不可思議な名が何やら気持ちをざわめかせてきますが、服自体はAラインシルエットの、オーソドックスなバルマカーンコートです。

高密度のコットンギャバジンにポリエステルの裏地を合わせており、それほど暖かさを強調した見た目ではないながらも、しっかりとした防風性を備えています。

全体的にゆったりとしたサイズ感で(Sサイズで一般的なMに相当します)、アームホールも太く、中にいろいろと着込めるため、真冬でも対応してくれます。

コートがシンプルなだけでに光る、深く切り込まれたサイドベンツ。
運動性とともに、歩行時の生地の美しいゆらぎを生み出します。

貫通式ポケットの内袋と見せて独立した内ポケット、というのも、機能性のみならずほんの一匙のユーモアを大事にするEELらしさと言えます。

すっかり秋が深まり、いよいよ木枯らしも吹きそうな雰囲気です。
ようやく、この季節らしい装いを愉しめるようになってきましたね。

オンラインストアはこちらです→ ネイビー/ ライトベージュ


強い人弱い人 男の人女の人 目立つ人地味な人 みんな みんな ありがとう ~ aligatos/ ウールソックス

昼夜の寒暖差はそれなりにあれど、季節外れの暖かさがだらだらと続いていたこの秋ですが、ここにきて急に冷え込みはじめました。

11月らしい11月の気候です。

そういえば本日11月11日は「くつしたの日」だとか。

どうしても気温が高いと敬遠されがちなウールソックスも、この肌寒さなら見え方も変わってきますね。

すっかり当店に欠かせない存在となったaligatosの靴下。

その秋冬向けモデルであるウールはすでに弊ブログにも登場していますが、そのときから少し日を跨いで、今季の限定色が届いています。

ラベンダー(薄紫色)、ピンクソルト(岩塩のような薄紅色)、どちらもやや彩度を抑えた、美麗にして落ちつきのある色に仕上がっています。

オーストラリア産の厳選されたメリノウールは、チクチク感のない柔らかな肌触り、適度な保温性が、これから本格的に来訪する冷たく乾いた季節に最適です。

ウールソックスの欠点である毛玉が比較的できにくいというのも、うれしいポイントです。

つまさきのリンキングも極力フラットに仕上げられ、フリーサイズでありながら足にまったくといっていいほど違和感のない穿き心地を実現しています。

足の小さな女性から足の大きな男性まで1サイズで対応してしまうというのが最大の特徴の靴下ですから、もちろんこの色も男女問わずお薦めです。

印象が重くなりがちな秋冬の足元に、自然な明るさをもたらしてくれるはずですよ。

オンラインストアはこちらです
(定番展開色はこちら


サウイフモノニ ワタシハナリタイ ~ beta post/ wool rain coat

昨晩から今朝にかけての嵐はなかなかのもので、強烈な低気圧と11月とは思えぬ湿った生温さに、体調を崩された方も多かったのではないでしょうか。

比較的雨が少ない秋冬ですが、やはりこうした急な天候の変化はないわけではありません。
冬が終わっても、こんどは春の嵐がやってきます。

梅雨や台風の時期に活躍するような薄手のレインウェアは、活躍する季節が季節だけに、防寒性は低めです。

秋や春先、何なら下に着るもの次第で冬にも使える、適度に保温性の高い雨具があれば、いやもっと言えば雨が降っていないときにも気負わず着られるものならば…
そう、雨ニモマケズ、風ニモマケズ、雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ、そんな外套が。


夏ノ暑サニモマケヌは言い過ぎました。
が、それはともかく頼もしく、そしてbeta postならではの愉しさも忘れていないコートです。

まず何といっても驚きなのがこの生地。

レインウェアといえば当然化繊かと思いきや、なんとこれメリノウール100%です。

最先端の繊維ストレッチ技術Optimをもって、メリノウールの繊維を予張してから糸に紡ぎ、織ってから緯糸の延伸を解くことで糸が収縮、その結果織物構造が引き締まり、きわめて高密度の生地となります。

ウレタンコーティングなどは一切施されておらず、ただただその密度の高さによって優れた防水性と防風性を実現しました。

そのうえ、洗濯機での洗濯も可能です。

ウールがもともと備えている吸放湿性は損なわれていませんが、高密度ゆえ通気性は抑えられており、そのため気温が高いときも蒸れにくいよう背中にベンチレーションが設けられました。

この部分はフラップ+メッシュライニングの組み合わせです。

防水性と排湿性の調節は至るところに考慮されており、前立てはスナップ+ファスナーの二重仕立てに、

裾の脇はスナップボタンで開き具合を変えられる仕様となっています。

また、かなり丈の長いコートでありながら、持ち運びもしやすいよう工夫されていまして、右脇のファスナーを開けて内袋を引き出し

その中にコート自体をグイグイと入れると

さながらコンビニで陳列されているレインコートのパッケージのような感じに収まります。

大きさの目安として、B5サイズの本と並べてみました。

ぽっこちゃん、かわいいですね。

高い防風性は冬の冷気のシャットアウトにも効果的ですから、中に着こむもの次第では真冬にも対応してくれます。
レインコートとしてのみならず、もっといろいろと活用してみたくなる一着です。

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俺の屍を越えてゆけ ~ tilt The authentics/ High Density Chambray Cotton Suede French Jacket

かつてパリに、ARNYS(アルニス)というメゾンが存在していました。

「右岸のエルメス、左岸のアルニス」と並び称され、モンパルナスに近いこともあってコクトー、ピカソ、サルトルなどの多くの著名文化人を顧客に抱えるほどでしたが、どうも商売には長けていなかったようで、結局2012年にはLVMHグループの傘下に入り、商標権をベルルッティに売却、現在は事実上消滅しています。

その代表作として世の洒落者たちを虜にしていたのが、Forestier(フォレスティエール)。
もとはル・コルビジェがソルボンヌ大学で講義を行う際に黒板に字を書く腕の動きを妨げぬものをとオーダーしたジャケットと伝えられています。

その名の由来の通り、森の猟区管理人の作業着に着想しアルニス流のアレンジを利かせたこのデザインは、世に出てから70年以上の時を経たいまもなお古びるどころか輝きを増したようにすら見えます。

先述の通りすでにブランド自体が自立しておらず、既製服としてこのフォレスティエールを手に入れることはできなくなりました。
しかし、ボタンダウンシャツやジーンズのように、この普遍的なデザインは太い幹として、数多くの枝を伸ばし、世界中で花を咲かせています。

tilt The authenticsの新作High Density Chambray Cotton Suede French Jacketもまたそのひとつ。

もちろんtiltのこと、単なるコピー品、亜流品に留まるようなものづくりは致しません。

むしろ、この「お題」に対して、「オリジナルを超える」ことを選び目指した、実に挑戦的な一着です。

さっそくご覧いただきましょう。


表側の生地は、この服のためだけに企画・設計されたオリジナルの超高密度シャンブレーコットンスウェード。

経糸にネイビー、緯糸に明るいオーカー(黄土色)を使い、その緯糸を表側に掻きだしています。
隙間にぽつぽつと覗くネイビーとのコントラストがオーカーを鮮やかに見せ、複雑かつ奥行きのある色調を生み出しました。

この生地は打ち込みの密度と尋常ならざる糸量のため、1時間に1~1.5mしか織り進めることができないそうです。
生産を担当した尾州の老舗テキスタイルメーカー山栄毛織株式会社にとっても、五指に入るほどの時間と手間のかかる生地だとか。
100年以上の歴史をもち、世界の超一流メゾンを顧客に抱える同社にすらそこまでさせてしまう、この時点でtiltの気合いが伝わります。

裏襟と袖口の見返し、ポケットのフラップの裏側には、深いダークネイビーのカシミアウールビーバークロスを使用しています。

実に贅沢な素材使いですね。

裏地には肌触りがよく適度な保温性を備えたコットンビエラを採用し、着心地をさらに高めました。

独特の形状のスタンドカラーや

エルボーパッチなど、フォレスティエールの特徴を継承しながらも

大胆なダーツ使いや

随所にみられるエッジとカーブの緩急具合に、tiltならではの匂いが漂います。

tiltの服の大きな特徴のひとつが、肩にかかる荷重を分散する体感的な「軽さ」ですが、それはこうした立体的なパターンワーク、そして高度な仕立てあってこそ。

仕立てを担当するのは東京は中野の辻洋装店
レディスのプレタポルテを得意とする縫製工場で、皇族が海外の重要な式典で着用する服まで手掛けます。

この辻洋装店が担当するtiltの服は、実は当店では3度目のご紹介となりまして、昨年のCWSW Soft Brushed Shark Jacket、春の3 Fabric Back Satin Gabardine Open Collar Jacketと、このブランドの各シーズンのラインナップのなかでも最上クラスに位置づけられる服揃い。
先述の着心地だけでなく、着用時の優美なシルエットには、思わずため息が洩れます。

もちろんこうした諸々の情報は、服の価値としてはあくまで付加的なものであり、本質ではありません。
ただ、このジャケットに袖を通したときに強い衝撃とともに脳内を埋め尽くす「なぜ、なぜこんなにも素晴らしいのか」という快楽的疑念に対して、納得度の高い種明かしとして提供しているだけです。

フランスで生まれた歴史的名品への、日本からの最高の本歌取。
和歌の国の矜持が、ここにあります。

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力と技の風車が廻る ~ WILLIAM LOCKIE/ Leven Vee 16cm

Vネックセーター不遇の時代だからこそVネックの提案を。

そう考えてWILLIAM LOCKIEにプチ別注をしたVネックセーターLeven Vee 16cmも、3季目となりました。

レギュラーモデルに較べVの深さを浅く設定し、クルーネックに近い雰囲気にまとめたこの型は、有難いことに日頃Vネックに抵抗のある方にもご好評いただいております。

この秋は、以前展開し完売してしまっていたダークコバルトにくわえ、

苦みのある深紫エルダーベリー、

落ち着いたフューシャピンクにしてなぜかスペイン語で「牧草地」「肥沃な土地」を意味するヴェガス、

ターメリックを用いた英国のピクルスの名をとったピッカリッリ、

この新しい3色が登場しました。

どれもよく見ると複数の色が混ざり、滋味豊かな奥行きを醸しています。

やわらかく、ふっくらとして、暖かく、軽い、良質なジーロンラムの毛が、セーターらしいセーターとして理想的ともいえる着心地を生み出しています。

オーストラリア南東部に位置するヴィクトリア州ジーロン(Geelong;現地ではジロンとかジローンと呼んだ方が通じやすいそうですが)は古くから羊毛の産地として知られます。
ジーロンラムは当地でのみ採取される稀少な子羊の毛で、その穏やかな気候によって、ひときわ高品質の毛が産出されるそうです。

この糸を用いて絶妙なバランスの密度、厚みに編みたてられおり、ソフトな着用感と高い耐久性の両立も実現しました。

裾や袖口のリブはそう簡単に伸びたりせず、毛玉はできても過剰にはならず、自然に、穏やかに、美しく齢を重ねてくれるセーターです。

WILLIAM LOCKIEは世間的な認知度がそこまで高くなく、全体としていまひとつ華やかさに欠けるブランドかも知れません。
しかし、ニットメーカーとしての実直な仕事ぶりは、このセーターを着ればすぐに理解できますし、それでじゅうぶんでしょう。

スコットランドのホーウィックは高級ニットの産地として知る人ぞ知る土地ですが、そこで100年以上、小ぢんまりとした規模ながら丁寧にニットを作り続けています。
その歴史は、高い実力と堅実な実績あってこそ。

純粋にセーターそのものの魅力を味わいたい方は、是非一度お試しください。

オンラインストアはこちらです→ ダークコバルト/ エルダーベリー/ ヴェガス/ ピッカリッリ


かくてわれらの芸術は新興文化の基礎である ~ quitan/ COLLARLESS WORKER’S COAT

……われらのなかで芸術家とはどういふことを意味するか……

職業芸術家は一度亡びねばならぬ
誰人もみな芸術家たる感受をなせ
個性の優れる方面に於て各々止むなき表現をなせ
然もめいめいそのときどきの芸術家である
創作自ら湧き起り止むなきときは行為は自づと集中される
そのとき恐らく人々はその生活を保証するだらう
創作止めば彼はふたたび土に起つ
ここには多くの解放された天才がある
個性の異る幾億の天才も併び立つべく斯て地面も天となる

宮沢賢治『農民芸術概論綱要』

先日beta postのflat seam jacketの記事で述べましたように、かつてドイツの芸術家ヨーゼフ・ボイスは「人はだれもが芸術家である」と云いました。

しかしボイスより前に、我が国でも近似した説を唱えた人物がいます。
冒頭で引用した通り、宮沢賢治です。

宮沢が詩人として、ならびに童話作家として日本を代表するに値する人物であるのは今更言うまでもないでしょう。
しかし、本人としてはその肩書きはさして重要ではなかったようです。

宮沢にとって、詩や童話は単なる創作活動でなく、生き方や社会をアレゴリーを通して提示する伝達手段でした。

彼が岩手出身なのも知られた話ですが、当時、自然災害やさまざまな問題によって、かの地の農民の暮らしはひじょうに困窮していました。
質店の生まれだった宮沢は、少年時代、貧しい農民が家族を養うためにあらゆる物を質に入れ、わずかばかりのお金を手に帰っていく姿を何度も目にしたそうです。
そうして培った罪悪感もあったのでしょう、やがて彼は農業に携わる人々の幸せな暮らしを追求すべく、道を歩んでいきます。

而して彼は30歳にして農民として生きることを決意、当事者として本格的な改革に取り組み始めました。

しかし残念ながら彼が思い描いたそのあまりに時代の先をゆく理想への挑戦は、社会的圧力や彼自身の病によってわずか2年余りで中断し、やがて彼は37歳の若さでこの世を去ります。

そんな宮沢が農民となる前、教諭として岩手国民高等学校で行った農民芸術の講義の内容をまとめたものが、『農民芸術概論綱要』(1926年)です。

今季quitanは実験的プロセスの一つとして、”点・線・輪”の表現を、この『農民芸術概論綱要』に則って検討しました。

『農民芸術概論綱要』の序論は「われらは世界のまことの幸福を索ねよう 求道すでに道である」と締めくくられます。

問い続けることに意味があるというこの宣言は、もちろん服に直接的な形で反映されているわけではありません。

しかし、人の営みから生まれたデザインのひとつひとつが繋がり描くそれは、いわゆる「芸術」とは異なって見えるかも知れませんが、その意味での「芸術」とは違った美を生み出しています。



このCOLLARLESS WORKER’S COATは、かつて機械工のために作られていたワーカーズジャケットを再構築したコートです。

“COLLARLESS”といいながら襟がついているように見えますが、実はこれ襟的なパーツを縫い付けているだけ。

これは作業中に襟が機械に巻き込まれる事故を防ぐべく考案された仕様のようで、実用的には単にカラーレスにすればいいだけの話ですが、そこは当時の職人の洒落っ気、あくまで体裁だけでも襟付きのきちんとした装いをという意思に基づいています。

ボタンにもぬくもりある人の意思が感じられます。

この兎(鹿?)は型抜きでなく、昔のハンティングウェアに用いられていたもののようにひとつひとつ木に彫られていて、ボタンごと形状や表情がブレています。
が、それは決してネガティブなことではなく、むしろ量産品では決して表現できない価値でしょう。

本体に使用されている生地はオーガニックコットンを使用し限界まで打ち込まれた肉厚なモールスキン。
一枚仕立てでも冷風から身をしっかり守ってくれます。

そしてこの美しい色調にも物語が。

まずこちらの灼けたような青は、見た目に反して「DORO(泥)」と名付けられています。

これは岡山県美作市の上山の千枚田から採取した泥を用いたハイブリッド染料で染められていまして、この配合によって単に染料を用いただけでは成し得ない奥行きが生まれました。

もう片方、ぱっと見「DORO」っぽい茶色は、「KURINOKI(栗の木)」。

札幌を拠点に活動している木工作家、辻有希氏の作品制作時に出た栗の木屑から抽出した染料で染められており、こちらも天然染料ならではの陰翳ある色ムラに惹かれます。

こうして見てみると、ひとつひとつの要素は隔たっていて、そしてどれもが作業、狩猟、泥、木工、と、人の原初的な「生」を想起させますね。

それでいて、これらの要素を結ぶと素朴な土臭さは影を潜め、思いもよらなかった美が現出します。

quitanとは何か、何を目指しているのか、その一端を我々に示すコートです。

オンラインストアはこちらです→ DORO/ KURINOKI