でも馴れた指より そこがどこかわかるから ~ Handwerker ASEEDONCLOUD/ HW blind hunter shirt

2018AWから、”Handwerker laboratory”と称して特定の個人のための特定職業を主題にしたコンセプチュアルなワークウェアを発表しているHandwerker。

当店では初回より継続的に紹介してきましたが、このシリーズ、いままで同じ人を連続して取り上げることはありませんでした。

しかし今季は昨年の秋冬に引き続き、ダイアログ・イン・ザ・ダークのアテンドを務めていた”盲点ハンター”檜山晃氏と再びタッグを組むことに。

それでいて前回とは異なるアプローチで、ユニークなシャツを生み出しています。

ダイアログ・イン・ザ・ダークおよび檜山さん、そしてそのとき発表したパンツについては、あらためて説明すると長くなりすぎるので昨年のブログをお読みいただくとして、「目の見えない人にとって使いやすい服」だった前回のある種ユニバーサルデザイン的な手法とは真逆に、「目の見えない人が服に感じる不便さ」をテーマにしたのがこのシャツです。

ブログでは説明しませんでしたが、昨年のHW blind hunter trousersには、フロントの開きが設けられていません。
視覚的に気づけないため、用を足したときなどに閉め忘れてしまった際、そのままになってしまうことが多いというのがその理由だそうですが、その開きっぱなしになった事実以上に、それに対する晴眼者からの「かわいそう」という憐憫の情が寧ろ堪えるとのことです。

シャツにしても、きっとボタンの掛け違いや何かしらのエラーは着用時に発生しますし、となればそうした余計な「善意」が発生しかねません。

そこで。

シャツそのものの構造を前後逆にしてしまいました。

この開きのあるほうが、背面です。

いくら何でも、目が見えないからと言ってシャツを前後逆に着るなんてことはありませんよね。
ゆえにこのシャツを着ていても「ナニ!?」と驚かれることはあっても、「(目が見えないから間違えてしまうなんて)かわいそう」とはならないわけです。

もちろんちゃんと人体の骨格を計算して仕立てられていますので、前後逆に見えても実際はちゃんと着られます。
が、それでも前立て(いやこの場合は”後立て”?)の構造は一般的なシャツと同じです。
ですから着用感には問題がありませんが、そう、お察しの通り、とても脱ぎ着しづらい。

しかも比翼仕立てですから、開閉しづらさがさらに増しています。

ですから、頭が入る程度に上のボタンを外して、すぽっと被るように着るのがよいでしょう。

この不便さもまた、目の見えない人が「ふつうの服」を着るときに感じるのとまったく同じでないにしても、類似のストレスと言えます。

胸ポケットにも仕掛けが。

画像だとちょっと判りにくいかも知れませんが、斜めにステッチを入れることで内部が仕切られ、ポケット自体の大きさのわりにものが入れづらく、また融通があまり利きません。
使いようによっては便利な形であっても、やはり独特の不便さがそこにはあります。

なお、ここまで着づらくした形状と対照的に、生地はとてもなめらかで心地好いものを採用しています。数値で表すと、なんと200双。

これは目が見えぬゆえ触感から得る情報が多いからこそ、一層重要なポイントです。

自らのモデルでありながら檜山さんご自身をして「着替えながら『やっぱり不思議だ』と言ってしまいました」「毎日、この形を着るとなったらきっと大変だと思う」と言わしめた不便なデザイン。

しかし一方で、日常的ゆえ「慣れ」きってしまっている服を着る行為そのものをあらためて意識する面白さがここにはあり、それは我々晴眼者がダイアログ・イ・ザ・ダークで感じるであろう感覚と通じるものなのでしょう。

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象牙の塔 ~ tilt The authentics/ 1 Pleat Hard Twist Chino Trousers

記号的な判りやすさがないためか、初見の方からは地味に思われがちなtilt The authentics。

しかし、一度実生活の中でお召しいただければ、その求道者っぷりは説明を要しないほど伝わるはず。
その寡黙な熱さこそがこのブランドの持ち味と言えましょう。

このパンツも、まさしくtiltそのものです。


同ブランド定番のスリムテーパードパンツの系譜に連なるモデルで、すっきりしたシルエットと意外なほど余裕のある穿き心地が両立しています。

強撚糸を用いた中肉の後染めチノクロスは、細かいシボによて奥行きと立体感が生まれました。

ひっそりと仕込まれたコインポケットや

ベルトを固定するループなど、クラシカルなディテールを踏襲しながらも

湾曲したハンドポケット、

変則的な配置のベルトループなど

随所に小技を利かせた意匠が散りばめられており、外連味に偏ることなく品の佳い驚きを服に齎しています。

気温や湿度が上がるとともに、淡色のパンツの活躍するイメージもより膨らむというもの。

例によって、単体で眺めるのではなく穿いていただくのが何より伝わる服です。
まずは一度お試しを。

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Sweet Days ~ HAVERSACK/ タイダイプリントバンドカラーシャツ

10年ぶりの寒波が来るかもと云われていたゴールデンウィークも、蓋を開ければ温暖な日が続いています。

当店は場所柄もあってか、毎年ゴールデンウィークだからといってとくに賑わうこともなく、いつものように、いやむしろいつも以上にのんびり静かな日が続くことの多い時期です。
というわけで、もし暇を持て余しているようであれば、是非遊びにいらしてください。

まだ朝晩は寒さすら感じる時期ゆえ、軽い上着もご用意しておりますし、逆に初夏から夏を見据えた清涼な服も揃ってきました。




このHAVERSACKのバンドカラーシャツの活躍するのは、まさにこれから。

アーシーだったりサイケデリックだったりといった印象を抱かれがちなタイダイですが、この透明感のあるプリントからは、そうした土っぽさは微塵も感じません。

一方で、ムスリムの礼拝服から引用したマネーポケットに、HAVERSACKならではの「匂い」が漂います。

薄手のキュプラコットンに皴加工を施した生地は、涼しいだけでなく肌離れもよく、初夏のみならず真夏まで快適にお召しいただけるはずです。

いつもの無地のシャツと差し替えるだけで、がらりと装いの雰囲気も変わります。
ふだん「タイダイはちょっと…」と思っている方にこそ、強くお薦めしたいシャツですね。

オンラインストアはこちらです→ ピンクベージュ/ ライムグリーン/ サックス


ノーム・コア ~ Olde H & Daughter/ BK006 & BK030

毎回ご好評いただいているOlde H & Daughterのシルクカーディガン。
この春も新色が届きました。

ごく淡くゴールドが混じる艶やかな白色”シャンパーニュ”、

禁欲的なまでに抑制された薄紅色、”オールドローズ”。

どちらも素材の質の高さを存分に活かした、美しい色調です。

この安定感溢れる定番に加え、この春は新たなアプローチの仲間が登場しました。

ちょっと話が脱線します。

浅学ゆえ店主自身は未読ですが、医師にして錬金術師であったパラケルススは、その死後に出版された著書『Liber de Nymphis, Sylphis, Pygmaeis et Salamandris et de caeteris Spiritibus』にて、地・水・風・火の四大元素それぞれを司る四種の霊を、四大精霊として提唱したと云われています。

そのなかで地を司る精霊であるのがノーム(Gnomes, あるいはピグミーPygmaeis)。

のちに民間伝承に登場する妖精と混同されるようになり、いまでは”土の小人”として親しまれるようになりました。
ノームを模した像(ガーデンノーム)が庭に設置されているのをご覧になったことのある方も多いのではないでしょうか。

今回初登場となるプルオーバーニットは、そんなノームが好みそうな色に仕上がっています。

その名もソイル(土)に、

ストーン。

ところどころネップの入ったような、不揃いのざっくりとした風合いは、乾いた肌触りを想起しますね。

ぱっと見たところは、リネンのニットのようです。

が、実はこちら、コットンとシルクのみ使用した糸で編み立てられています。

ですから、実際に触れてみるとしっとりなめらか。

着丈はそこまで長くない一方で身幅を広く取り、肩の力の抜けたリラックスした雰囲気であってもだらしなくならず、上品な佇まいを維持してくれます。

最初にご紹介したカーディガンもこのプルオーバーも1サイズ展開ですが、男女どちらも対応できる絶妙な大きさとなっています。
是非一度お試しください。

オンラインストアはこちらです→
BK006 SILK PLAIN STITCH V NECK CARDIGAN シャンパーニュ/ オールドローズ
BK030 SILK COTTON P.O. ストーン/ ソイル


ちびっこカウボーイがやってきた ~ Mistral – Les Indiennes de Nîmes/ Bandana

もう10年以上の昔、当店がオープンする前の話になります。

仲町台には南仏の雑貨を販売するOlivetteというお店が存在していました。
ちょうど当店がいま入っている物件のお隣りで、現在は派手めな雰囲気の不動産屋さんとなっている場所です。

というわけで残念ながらもうその面影すら残っていない状態ではありますが、だからこそ、あらためて南仏のフレイヴァをこの町に持ち込んでみると新鮮に映るかも知れません。

日本が北と南でがらりと文化を異にするのと同じく、フランスも地域によって特色が変わります。

地中海に面している南東部プロヴァンス地方は、温暖で開放的な気質の土地柄と聞きます。
且つ、フランス最大の港湾都市マルセイユを擁しているのもあって、民族や文化などさまざまな要素が入り混じりやすい環境です。

17世紀にインド更紗が伝わり、それまでフランスに無かったエキゾティックなプリント柄に多くの人々が魅了されました。
而して、東洋的な文様・色彩にプロヴァンスの自然、民族的な色彩感覚を加えた独自のスタイルが形成されていくことになります。

プロヴァンスといえばゴッホの絵でも知られるアルルも有名ですね。
そのなかの三角洲地帯であるカマルグでは、ガーディアン(les gardians;現地のカウボーイはこう称されています)たちが、半野生のカマルグ馬に跨って農家兼牧場マナード(Manade)で闘牛用の雄牛を育てています。

映画好きの方ならラモリスの『白い馬』を思い出す方もなかにはいらっしゃるのでは。
まさにこれがカマルグ馬です。
https://youtu.be/OFvMTbx24dI

さて、そんなカマルグにて1938年に創業したMistral(ミストラル)は、18~19世紀のアーカイブの古い柄を引き継ぎながら、ガーディアン向けの様々な商品を作り続けているブランドです。

正式名称としてはこのMistralの前(あるいは後)に”Les Indiennes de Nîmes”がつくようなのですが、長すぎるのと、本国のサイトを見ても正しい順序・・・もっといえばこの”Les Indiennes de Nîmes”が社名なのかブランド名なのか何なのか自体ちょっと曖昧で、どう併記すべきなのかわかりかねるため、本稿では以後Mistralと呼びます。

なお、ミストラルは南仏のプロヴァンサル語で「見事な」を意味します。
またフランス南東部に吹く地方風もこう称しまして、アルプス山脈からローヌ河谷やデュランス川流域を通って加速し、カマルグ周辺の地中海に強く吹き降ろす、冷たく乾燥した北風のようです。

話をブランド名のMistralに戻しますと、本来はトータルブランドにつき、シャツやパンツといった服だけでなく、帽子にベルト、さらにはナイフなどまで展開しているのですが、当店ではバンダナのみを取り扱います。

初めは少々硬さがあるものの、使いこみ何度も洗っていくうちに、ふんわりした肉感とコシを残した程よい柔らかさが出てきて、使い心地が向上する生地です。

POIS GIPSYと名付けられた柄は、ロマ(ジプシー)から伝わったもの。

よく見ると、少し不規則な水玉で構成されています。

カマルグの主都であるサント・マリー・ド・ラ・メールでは、5月と10月、2人のマリア(小ヤコブとヨセとの母マリア、マリア・サロメ)に因む祝日に盛大な祭りが行われるそうです。
彼女たちの従者であったサラがロマの守護聖人であり、この町の教会から聖女サラの像を海まで運ぶことから、ロマが大勢集まる祭りとしても知られています。

また遙に望み居たる女たちあり、その中にはマグダラのマリヤ、小ヤコブとヨセとの母マリヤ、及びサロメなども居たり。
彼らはイエスのガリラヤに居給ひしとき、從ひ事へし者どもなり。此の他イエスと共にエルサレムに上りし多くの女もありき。(マルコ傳福音書 15:40-41)

モノトーンのペイズリー柄であるCOROMANDELはインド南東部ベンガルに広がる海岸の名前にちなんで名づけられました。

インドから最初に輸入された生地の伝統を受け継いだプロヴァンス柄の一つです。

伝統と言えばこのCASHMEREもクラシックスタイル。

カシミール地方のパシュミナ(カシミア)のショールやストールなどで使われていた柄を基にしています。
ちなみに、「ペイズリー」というのはスコットランドの町の名でして、19世紀にインド製品の模倣品がここで量産されるようになったことから、柄自体がそう呼ばれるようになりました。

QALAMKARIもまた、インド由来。

その名はペルシャ語で「ペン(QALAM)」「職人技(KARI)」を意味し、インド最古の捺染とされています。
文章による整った体裁の書物がなかった時代から口頭伝承されてきた神話や歴史、物語などを、絵によって表したものです。
この柄はどんなストーリーを描いているのか、気になりますね。

AUBEPINEは、その名の通りセイヨウサンザシの花でしょうか。

直接的な記述はないものの、イエスが磔刑のさいに被らされた荊冠は、セイヨウサンザシではないかと云われています。
そこで飛び散った血がこの植物を清めたとされ、後世では厄除けとして扱われたり、傷や腫物、心疾患や消化器系の病などを癒す薬草としても用いられました。
副作用などに問題があり素人判断での使用は難しそうですが、現在でもさまざまな薬効が期待され研究が行われているそうです。

と、そんなくどくどしい蘊蓄は抜きにして、ただ直感でお選びいただいても構いませんし、むしろそのほうが健康的でしょう。

60×60cmのサイズは頭や首にあしらうもよし、大判のハンカチとして使うもよしと、どうにでも活用できます。

気温の浮き沈みはあれど、これから夏に向かい汗ばむことも多くなりますから、時期的にもお薦めですよ。

オンラインストアはこちらです→
POIS GIPSY ノワール/ インディゴ/ ルージュ
COROMANDEL ブラン
CASHMERE ノワール/ ルージュ
QALAMKARI グリ
AUBEPINE ブリュ


トロピカ I・N・G ~ PETTY/ Tropical box shirts

秋冬向け素材のイメージの強いウール、実は使い方次第では春夏にも快適な素材です。

ウールには、「天然のエアコン」とまで称されるほど優れた湿度調整機能が備わっています。
蒸れてくると湿気を吸い、乾燥してくると湿気を放出するというわけですね。
これにより、蒸し暑いときでもべたつくことなく、さらりとした肌触りを維持します。

くわえて、繊維自体水分を含んでいるため熱伝導率が低く、たとえば真夏の猛暑日に外からキンキンに空調の効いた室内に入ったときなど、急激な温度差から体を守ってくれます。

もちろん肉厚のコートやセーターになると保温性が増しますから、春夏でもなんて言えません。
が、薄手の織物、いわゆるサマーウールは、先の特徴にくわえ、汗の蒸発に伴うゆるやかな気化冷却で涼しい状態を保ってくれますし、これからじわじわと蒸し暑さを増す中で頼もしい存在となります。

PETTYから届いたこのシャツも、そんなサマーウールで仕立てられました。

より詳細に説明をしますと、トロピカルと呼ばれる織物です。

織り目の密度を抑えることで通気性を確保し、軽く、肌離れがよいため、主に夏用のスーツに用いられます。

もちろん、この素材の機能ばかりが特長ではありません。
PETTYならではの独特な癖のあるデザインもまた大きな魅力です。

小振りのイタリアンカラーは、シャツにしてジャケットのような雰囲気を醸し出しています。

胸のポケットに、直線的でボキシーなシルエット。

こうしたデザインの組み合わせで、ともすれば整いすぎてしまいかねない上品な素材を程よく崩し、日常使いしやすくしています。

さらに、そこに艶のある貝ボタンや背面のヨーク下の深いプリーツで、官能的な肉体性がスパイスのように一味加えられました。

スクエアにカットされた裾もあって、シャツとしてはもちろん、羽織ものとしても重宝します。
春から初夏、真夏・・・いやもっといえば秋口にかけて、さまざまな場面、さまざまな装いに適応してくれるのは間違いないでしょう。

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バタフライ・エフェクト ~ ASEEDONCLOUD/ Recreation vest

時計技師のおじいさんと遠くからやってきた少年のお話を、弊ブログの読者の皆様は覚えていらっしゃるでしょうか。

長年連れ添った愛妻を亡くし、ただ思い出を胸にからくり人形を作るだけの余生を過ごしてしまいかねなかったおじいさん。

そのあまりの元気のなさを心配した少年は、野山で遊ぼうとおじいさんを時計台の外から町の外まで連れ出しました。

最初は戸惑っていたおじいさんでしたが、少年に教わりながら遊んでいるうちに、だんだんと心境に変化が生まれ、人生に対して前向きになっていきます。

蝶採集も、そうしてのめり込むようになった遊びのひとつ。

やや特殊な道具が必要なこともあって、蝶を捕りに出るとき、おじいさんはこのベストを着用しています。

このベストは、Tehu Tehuとのコラボレーションによって生まれました。

Tehu Tehuは、その名の通り蝶をコンセプトにしたブランドです。

公式サイトよりブランドコンセプトを引用しますと、

全国各地で採集した蝶から標本箱を製作。
蝶採集時に最高のパフォーマンスを発揮する
世界初の蝶採集専用のハンティングウエア・ギアを2015年に発表。
​以降、採集地や種により新たなモデルを開発し
年間を通して各地でテストを行い発表し続けています。
機能が作用し作用が機能する。
最先端の技術は使っていませんが​知恵と経験で生まれています。

まさに、このベストの開発にあたって理想的なパートナーと言えましょう。

蝶採取に特化したブランドの監修だからといってただ単にハイスペックな服にするのではなく、あくまで初心者であるおじいさんにとっての使いやすさを重視してデザインされているそうです。
その匙加減にも、素人には及びもつかぬプロの経験と知識が光りますね。

虫捕りなど幼少期に蝉やカブトムシなどをつかまえた経験程度しかない店主ゆえ、遺憾ながらその機能すべてを完璧に理解することはできませんが、ブランドから提出された情報をもとに可能な限り説明していきます。

とにもかくにもポケットの多い服ですが、すべてが汎用的なポケットというわけではなく、なかにはやや特殊な用途のものもありますので、まずは左胸を見てみましょう。

肩のヨークに重なるように設けられたこの謎パーツは、サングラスと地図を入れるためのポケットです。

スナップを外して展開するともう少しわかりやすいかと思われます。

ヨークに重なっているのは、雨に濡れるのを防ぐためだとか。

右胸ポケットからはピンセット用ポケットが覗きます。

このピンセットを使って、捕獲した蝶を三角紙に収めます。
三角紙は薄く蝋による処理が施されており(つまりはパラフィン紙)、鱗粉の剥離などを防ぎます。

この紙を収納するポケットが、左脇に設けられています。

・・・見つかりませんでしたよね。
濡れないよう、このように隠されているのでした。

背面には大きなゲームポケット。

上のスナップと

下部両脇のファスナーを外すことで、簡易的な敷物にもなります。

野外に座るとどうしてもお尻が汚れてしまいますから、これはうれしい。

また、ポケットではありませんが、肩のD環をどう使うか考えるのも愉しいものですね。

その他、ホイッスル用のポケットや、休憩時に捕虫網を掛けておけるギミックも搭載されているようなのですが、それがどこなのか、店主の乏しい知識ではわかりませんでした。
どなたか蝶採集に詳しい方に教えていただけますと幸いです。

(2023/4/20追記:ASEEDONCLOUDデザイナー玉井さんに直接確認しました。以下に続きます!)

右脇のポケットのフラップの下にはホイッスル用ポケットが内蔵。

また、疲れて一休みするときなどには、捕虫網を畳み、裾の小さなポケットと先述した胸のループ(地図とサングラス用ポケットを留めています)で挟むことで

このように固定しておくことができます。

捕虫網が店内になかったのでマリノスのポスターで代用していますが、まあそこはお赦しくださいませ。

さて、ここまでくどくどと書いてきたのを辛抱強くお読みいただいた皆様、少なくない割合の方がある部分が気になっているのはないでしょうか。

そう、まだこの素敵な生地について何も触れていませんでした。

アンティークのソファやカーテンに使われていそうな古びた雰囲気がたまらないこの生地には、リンドウ、マム、カーネション、キンセンカ、スターチス、リシアンサス、モカラの花がプリントされています。

おじいさんたちの暮らす土地にも、我々にとってのお盆のような風習があるらしく、一年に一度、夏にあの世からこの世へ魂が帰ってくるそうです。

生前庭にいろいろな花を植えていたおばあさんを迎えるべく、おじいさんが準備したのがこの7種でした。

余談ですが、このお盆のような時期に殺生を行うのはよろしくないとのことで、そのあいだはおじいさんも虫捕りや魚釣りを我慢せざるを得ません。

実はこの花柄のなかには、こっそりと虫や魚を見立てたような遊びが仕込まれており、お盆の期間中はこの生地の服を着ることで、密かに遊びたい欲求を補っているというわけです。
虫や魚がどこにどう隠されているかは、是非ご自身の目でお確かめください。

おじいさんたちが暮らす町だけでなく、横浜もすっかり春めいてきました。

いよいよ蝶々が舞い始めるころです。

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ダイヤのA ~ HAVERSACK/ ナイロンシルクバックギャザーバルカラーコート

昼の暖かさと朝晩の涼しさのギャップに、何を着ればいいのかお困りの方が多い様子。

男性のみならず女性にも人気のハバーサックから届いたレディースのスプリングコートは、そこに対するひとつの回答となり得ます。



朝晩の寒さは、気温以上に風が冷たく感じることが多く、とくに昼を想定して薄着でいると、なかなか堪えますよね。

そこで、適度な保温性と防風性を備えた外套を羽織っていると、昼夜を通して心も安らぎます。

このコートは薄手のシルク混ナイロンタフタを用いて一枚仕立てにしていますので、まさにいまの季節に最適です。

薄手ということはもちろん軽いわけで、たっぷりした分量を用いてもモッサリと重たくなりません。

背面のうなじの部分にギャザーを寄せており、その生地のボリュームが美しいドレープとともに裾に向かってAラインのシルエットを描きます。

ラグランスリーブもアームホールを広くとると、却って腕を上げる動きを阻害してしまうものですが、そこはさすがハバーサック。
クライミングパンツの股部分よろしく脇にマチを設けることで、その問題をしなやかに解決してしまいました。

着る時期が短いと揶揄されがちなスプリングコートも、あればたいへん重宝するものです。
薄さにくわえ、肌に密着しないサイズ感や暑くなりすぎないシルクの特性も相まって、梅雨冷えどきにもちょうどよく、春に限らずしっかりと活躍してくれることでしょう。

オンラインストアはこちらです→ ブラック/ マスタード


拡張された芸術概念 ~ EEL Products/ COTEN SHIRTS

当店ではただいま在庫を切らしていますが、EEL Produstsの初期からの定番アトリエシャツからは、芸術家がアトリエで着ているさまが自然と聯想されます。

それはごくシンプルなバンドカラーシャツで、余計なデザインや意図がはいっていないぶん、制作に支障を発生させず、たしかにとても都合のよいものであろうと思わせるものです。

このアトリエシャツの派生形として2019年に登場したのが画廊シャツでした。

気難しい絵描きが画廊に立つときに着るシャツなのか、あるいは彼を理解する画廊のオーナーのためなのか、いろいろと想像を喚起する服でしたが、より明瞭な状況を想定して新たにデザインされたのが、今回ご紹介するCOTEN SHIRTSです。



アトリエシャツを着て作業する作家が、自らの個展で立つ・・・緊張するシチュエーションです。

自分のアトリエで作業に没頭しているときとは違い、人前に出て、しかもときには鑑賞者と話をすることもあります。
そうでなくとも、鑑賞者から作品を生み出した人物として、興味や関心を持った眼差しを向けられることは避けられないでしょう(ギャラリーストーカーのような極端なケースでなくとも)。

ですから多少はきちんとした印象を与えるに越したことはないものの、そこまで生真面目な身なりというところまで求められているわけではなく、その匙加減はなかなか難しいところ。

となれば、シャツの生地にはシャンブレーがちょうどいいかも知れません。

コットンをベースに、ほんの少しリネンとレーヨンを混合することで、ざっくりした素朴な質感となめらかな肌触りが加えられています。

このややくだけた生地をそのままワークシャツとして仕立てるのではなく、ドレスシャツの工場にて縫い上げました。

運針の細かさをご覧ください。

ややゆったりとしたシルエットで、腕周りもたっぷりととられています。

くだけた印象の生地、綺麗に整った縫製、リラックスしたサイジング、と、方向性を意図的に揃えないことで不思議な均衡が生まれました。

もちろん個展に立つアーティストに限らず、日常生活のなかで気持ちよく着られるシャツです。

たとえ絵を描かずとも、彫刻を作らずとも、我々は皆芸術家として生きることができるはずなのですから。

誰人もみな芸術家たる感受をなせ
個性の優れる方面に於て各々止むなき表現をなせ
然もめいめいそのときどきの芸術家である

-宮沢賢治

Even the act of peeling a potato can be an artistic act if it is consciously done.

– Joseph Beuys

オンラインストアはこちらです→ インディゴ/ ホワイト