けんかはよせ 腹がへるぞ ~ beta post/ meal spec sweater

モーセすなはち各々の支派より千人宛を戰爭に遣しまた祭司エレアザルの子ピネハスに聖器と吹鳴す喇叭を執しめて之とともに戰爭に遣せり

彼らヱホバのモーセに命じたまへるごとくミデアン人を攻撃ち遂にその中の男子をことごとく殺せり

その殺しし者の外にまたミデアンの王五人を殺せり
そのミデアンの王等はエビ、レケム、ツル、ホル、レバといふ
またベオルの子バラムをも劍にかけて殺せり

イスラエルの子孫すなはちミデアンの婦女等とその子女を生擒りその家畜と羊の群とその貨財をことごとく奪ひ取り

その住居の邑々とその村々とを盡く火にて燒り

かくて彼等はその奪ひし物と掠めし物を人と畜ともに取り

ヱリコに對するヨルダンの邊なるモアブの平野の營にその生擒し者と掠めし物と奪ひし物とを携へきたりてモーセと祭司エレアザルとイスラエルの子孫の會衆に詣れり

時にモーセと祭司エレアザルおよび會衆の牧伯等みな營の外に出て之を迎へたりしが

モーセはその軍勢の領袖等すなはち戰爭より歸りきたれる千人の長等と百人の長等のなせる所を怒れり

モーセすなはち彼等に言けるは汝らは婦女等をことごとく生し存しや

視よ是等の者はバラムの謀計によりイスラエルの子孫をしてペオルの事においてヱホバに罪を犯さしめ遂にヱホバの會衆の中に疫病おこるにいたらしめたり

然ばこの子等の中の男の子を盡く殺しまた男と寝て男しれる婦人を盡く殺せ

但し未だ男と寝て男しれる事あらざる女の子はこれを汝らのために生し存べし

(民數紀略 31:6-18)

正義や善は人類普遍の概念かも知れませんが、ただしその言葉の意味するところは人類共通ではありません。
文化や宗教、あるいは政治上ビジネス上の都合などによって異なります。

そうして正義と正義が衝突し、力の強い正義が力の弱い正義を塗りつぶす、この繰り返しが人類の歴史です。

そしていまも、だれかの高笑いをBGMに、世界は火薬と混迷の時代に突入せんとしています。

この情勢を知ってか知らずか、依然として多くの人々が、ロマンや機能美、ときに稀少価値をミリタリーウェアに認め、大いにファッションとして愉しんでいるようです。

だれが何をどう着ようがもちろん個々の勝手ですし、ほとんどの方は単に使いやすくて丈夫でルックスも魅力的な服として評価しているだけだと思いますが、一服屋としても個人としても、やはりこの情勢下で無邪気にミリタリーウェアをファッションとして扱うことには抵抗を感じざるを得ません。

そんななか、beta postの今季コレクションのテーマは「軍事的な背景のあるデザインを日常生活においてユーモラスで役立つものに置き換える」。

かつてミリタリーウェアが反戦的メッセージを込めて「戦争で使わない」服としてファッションになっていったように、いまこの時代、ファッションブランドだからこそできる、ミリタリーウェアの戦争のための道具という役割の解体が行われています。

それがこのクルーネックセーター。

ミリタリーマニアに限らず、服が好きな方であれば、ミルスペック(MIL-SPEC; Military Specification)なるものをご存知でしょう。

これは、軍(一般的には米軍)の物資に設定された規格で、それをクリアした製品には、サイズや管理番号、正式名称、発注番号、製造会社などが記載されたタグが縫い付けられます。
そのため、たとえば古いミリタリーウェアでも、ここからさまざまな情報を得ることができるわけです。

このミルスペックのタグを換骨奪胎し、beta postらしい切り口で、決して軍の規格に適合しないものを生み出しました。

それぞれの左裾には、ホットサンド、

ベーコンエッグ、

お味噌汁(具材はわかめと絹ごし豆腐と青ネギ)の

レシピが、MIL-SPECならぬMEAL-SPECとして記載され、実際に調理するときの助けになってくれます。

なお、ミルスペックと異なりそこまで要求の厳しい内容ではなく、たとえばお味噌汁の出汁は、ほんだしのような粉末状のものでもよいと書かれていたりします。

胸にはそれぞれの料理を再現したワッペンが。

どうにも戦意の奮い立たない意匠です。

なお、セーターとしてはかなりの本格派で、カシミア混の良質なウールを使用し、ホールガーメントにて接ぎ目のない構造で編み立てられており、高い保温性、ふっくらとした質感、のびやかな着心地を備えています。

反戦、非戦のメッセージの伝え方には「こうすべき」などありません。
このような形で茶化し、軍備システムの形骸化を試みるアプローチだって、ひとつの手段です。

方法論はどうあれ、ミリタリーウェアを心置きなくファッションとして愉しめる世のために、血腥い戦争屋には中指を突き立てていきましょう。

オンラインストアはこちらです→
オートミール(ホットサンド)/ カーキ(ベーコンエッグ)/ ブラック(味噌汁)


マルチ・ブラックモンブラン ~ blanc/ west-point(wide) & dress work trousers

「暑さ寒さも彼岸まで」
これだけ気候の移ろいのリズムが変わってきているというのに、かの慣用句は今年も正しさを証明しました。

きょうなど昼の気温こそ高いものの、朝晩は先週の猛暑が嘘のようにだいぶ涼しくなり、風の匂いも秋のそれになってきています。

この秋の訪れに合わせるかのように、各ブランドの新作が立て続けに届いています。

当店でパンツといえば…のblancからも、名作が見事な新色を纏って入荷してきました。

まずは”ブランパンツ”の愛称でもおなじみwest-point(wide)。


コールドマーセライズ加工による艶が魅力的な高密度のウェストポイント生地で仕立てられた、blancおよび当店を代表する名品中の名品です。

いままで、ベージュ、ネイビー、ブラックと続いてきましたが、このブラウンをもって生地の色バリエーションが一巡したそうで、ひとまずこれが最後の新色となります。

この生地の質感、独特のワイドシルエットと、外から見たときの魅力は言うまでもなく、裏の仕立てこそblancの真骨頂。

アトリエでデザイナーたちによって一本ずつ仕立てられているだけあって、とても丁寧な仕事が窺えます。

このパンツ最大の特徴とも言えるのが、袋縫いのサイドシーム裏。

ロールアップ時にロックステッチが見えず、ダブル裾の如くスマートな印象を与えます。
このパンツを名品たらしめた仕様と言えましょう。

お次はdress work trousers。


今年の初夏に初登場、ご好評のうちに完売した、言うなれば”ブランパンツ3″です。

初代はデニム調のちょっと変わった生地でしたが、漆黒となると、がらりと雰囲気が変わりますね。
なお、色以外はまったく同じウールの綾織生地です。

からりと乾いた肌触りととろみのあるドレープ感を併せ持った生地で、程よい厚みゆえ、真夏の盛り以外はほぼ一年を通して活躍します。
ウールならではの消臭効果にくわえ、ウォッシャブルなので常に清潔を保てるのもうれしいところ。

往時のヨーロッパのドレスパンツとワークパンツを融合させたようなデザインは、west-point同様にさまざまな服に難なく合わせることができます。
当店で販売されている服であれば、(色合わせは別にすると)ほとんどと合うのではないでしょうか。

こちらもアトリエ生産で、細部まで手抜かりはありません。

サイドシームは袋縫いではないものの、しっかりとパイピングで処理されています。

こちらはまだ1サイズ展開につき、皆様にお薦め…というわけにいかないのですが、およそ10年にわたりblancを扱ってきた経験から申し上げれば、皆様の反応が今後サイズを増やす可能性は大いにあります。
是非どんどんお試しいただいて、忌憚のないご要望を当店にぶつけてください。
その声は必ずメーカーに届けます。

なお、blancデザイナーのひとり吉田さんは名古屋と縁の深い方でして(中京大学出身)、それもあって来週の名古屋遠征にはこの2モデルとも最低1本ずつは必ず持っていくつもりです(オンラインストアもひとまずその分の在庫は抜いてあります)。

west-pointはサイズ展開もありますから、ご希望のサイズを9/30までに仰っていただければ、さらにその分を名古屋用にキープしますよ。
在庫には限りがありますので、その際はお早めに!

オンラインストアはこちらです→
west-point(wide) ブラウン
dress work trousers ブラック


ORDER BORDER、これにて閉幕!

記念すべき10回目であり、初の9月開催となった今年のORDER BORDER。

早いもので本日を以て閉幕致しました。

会期の殆どを通して尋常ならざる猛暑に見舞われ、気候に恵まれたとは言い難かったものの、それでも日々いろいろな方にご来場いただき、ボーダーを提案することができました。

今回は、初体験の方の割合がいつもより多かったように思います。
これをきっかけに「オーダーボーダーって愉しいな!」と思っていただければ幸い至極です。

承ったオーダーをもとにこれから編みますので、お渡しはおそらく11月に入るか入らないかといったところでしょう。
納品次第すぐに弊ブログや各SNSで告知します(インスタグラムは新しいアカウントをフォローしてくださいね)ので、引き続きチェックしてください。

改めまして、小柳さんはじめG.F.G.S.の皆さん、そしてご来場いただいた皆様、有難うございました!


『はじめての すみれファンファーレ展』開催のおしらせ

完結から7年経ちながらも熱烈なファンたちに愛され続けている名作『すみれファンファーレ』。

2011年に『月刊IKKI』(小学館)で連載開始し、掲載誌廃刊のため連載終了を余儀なくされながらも書き下ろしによる最終巻が発表され、美しく幕を閉じたこの作品は、店主の個人的な友人知人のみならず、当店のお客様やSNSのフォロワー様にも愛読者が多く、いまもなお「いちばん好きなまんが」として名を挙げる人も少なくありません。

そんな素敵な作品の原画展が、当店にて開催されることとなりました。

会期は10/12(土)~20(日)

当店内で、秋冬の服の新作とともに、表紙や本編の原画や当時の販促ポップなど、ファン垂涎の貴重な展示物が並びます。

実は作者の松島直子さんは、店主の大学時代のサークルの友人でもあります。
そのお互い気心知れた距離感ゆえに、今回は単なる原画展ではなく、より学園祭に近い温度で企画が進行中です。

先述の展示のみならず、この日のためにいくつものオリジナルグッズの開発が進行していまして、また松島さんの意向により、ファンの皆様へ感謝の意を込めてドリンク類も提供される予定となっています。

どれも現在詳細を詰めている最中につきはっきりと発表できないのですが、諸々具体的に固まり次第、続報として改めてお知らせ致します。

すでにコミックスをお持ちの方はこの機会に改めて読み返していただき、未読の方も電子版にて『すみれ』の世界に触れてからご来場くださると、より楽しめると思いますよ。

電子版はこちらです→
小学館eコミックストア
Kindle
pixivコミック
コミックシーモア

イベントの公式特設ウェブサイトはこちら→
https://matsushimanaoko.com/sumire/


ORDER BORDER、開幕しました!

本日12:00より、記念すべき10回目となるORDER BORDERが始まりました。

基本色と限定色、

そしてMOKUのボーダーサンプルがずらりと並んでいます。

いつものスワッチだけでなく大きい生地見本も用意していただきましたので、より色のイメージもつかみやすくなりました。

23日までの開催(18日のみ定休日)で、16日は12:00-1800のあいだのみG.F.G.S.代表の小柳さんも在店します。

秋の新作も続々と入荷し、ボーダー以外にも見どころは多い時期です。

皆様のお越しを、心よりお待ちしております!


そこにあり ~ written by/ flower print shirt jacket

4年の時を経て、writtenafterwardsが仲町台に帰ってきました。

その間はこちらから距離を置いたとか何かトラブルがあったとかではなく、通常の卸が休止していただけでして、ブランドの活動のみならず衣類そのものについて幾度にもわたって思索を繰り返していた時期だったようです。

ときには、蚕の糞や桑の葉などが混ざった堆肥に染色で使用した藍のカスを混ぜてオリジナルの土壌を作り、和紙で作った衣服をその土の上に置いて、どのように還り、どのような土壌と植物が生成されていくのかを実験、商品は販売せず、なんて衝撃的なシーズン(?)も。

その後、一般販売される(とはいっても販路はかなり限られていましたが)服がwritten byネームに統一され、ようやく卸販売が再開されたのは今年の春夏シーズン。

急な話だったためこちらも仕入れるタイミングを逸してしまったのですが、一呼吸を置いて、ようやく再開の運びとなった次第です。

コロナ禍やら戦争やら虐殺やら悪政やら、国内外問わず辟易とした日々が続く昨今。
それでも日常の生活は続きます。

ただ、「日常」もまた平和なようで、せわしなく、細やかな喜びがあって、ときにホロ苦い切なさも訪れたりするもの。
そんな情景を”bittersweet sympathy”と題し、今季のコレクションテーマとしました。

而して本日ご紹介させていただくのはこちら。


厚手のシャツ生地で仕立てられた上着です。

まず目を惹く花柄は、紙を編むという独自のスタイルでさまざまな作品を展開する2人組のユニットRivotorto Piecesが手掛けています。

一枚ずつ手で染めた和紙を素材に、花弁の形にカットして張り合わせることで、自然な立体感が生まれます。
押し花でつくった栞のようにも見えますね。

この和紙の花束を、陰影も再現してスーピマコットンの超高密度タイプライターにプリントしました。

日常のなかのうれしいギフトから着想し、「いま、ここ」の刹那と永遠を色彩の祝福に込めた表現です。

服自体を見ていきますと、やや着丈を長めにとったサファリジャケット調のデザインで、

左右の胸と脇にフラップつきパッチポケットが、

そして両脇ポケットの隣にハンドポケットが設けられている、実用的なつくりとなっています。

袖はピボットスリーブ。

狩猟用の服に見られる、可動域の広い形状です。

腰と裾には共生地のドローストリングが通されており、これを引くことでシルエットに変化をつけたり、冷気の侵入を防ぐことができます。

こうして抒情的なテキスタイルにギア寄りの構造が合わさり、他に類を見ない一着が生まれました。

余談ですが、実はこのシャツジャケット、当初はコレクションとして用意されておらず、展示会でひっそりと白い生地のサンプルがかかっていたのを店主が見つけたのが誕生のきっかけです。

販売用に用意されていたというより、デザイナーの山縣さんがご自分で着ようかなと思いながら組み立てていたもののようでしたが、ダメ元で「この型をこの(別の服に使われていた)花の生地で作ってみてもらえます?」と打診してみたところ、まさかのOK。

そんな経緯もあって、個人的にもとても思い入れの深い一枚となりました。

決して万人向けの服ではないかも知れませんが、そういう服だからこそ持ち得る強さというものがあります。

オンラインストアはこちらです


ザ・ワイルドバンチ ~ mando/ フロントジップコード刺繍ブルゾン

近年の気候の変化は被服業界の慣例にも影響を及ぼしており、ブランドにもよりますが「春夏」「秋冬」の境は以前ほどはっきりと隔てられなくなってきました。

そうはいっても陽の高さが低くなって光が弱まり、木々の葉も枯れ始めれば、気温はともあれ気分は確実に秋めいてくるものです。

そこで今後ますます重宝するであろうと思われるのが、厚みを抑えた秋服。
気分と体感を両立し、秋ならではの服の愉しさを更新してくれます。



mandoの新作ブルゾンは、まさにそんな一枚。

しなやかで軽快、それでいてしっとりとした落ち着きのあるレーヨンコットンの生地で仕立てられ、秋の装いを無理なく底上げします(もちろん、合わせ次第で春にも大活躍しそうですが)。

胸元のコード刺繍や

袖口のつくりやスナップボタン使いなど、

随所に仄かに土の香りのするウェスタン調の意匠が施されているのも特徴で、そのうえでまったく武骨さ、野暮ったさを感じさせないのはさすがmando、ベテランの妙技です。

表裏ともに両脇にポケットが設けられ、実用面でも抜かりありません。

軽い着心地、着用時の美しいシルエットは、言葉を尽くしても伝わるものではなく、是非一度店頭にてお試しいただきたいところ。

天気予報によると今年は10月までそこそこ気温が高いままのようで、着用機会は多そうです。

その準備を、夏の名残りの色濃いいまのうちに始めてみては如何でしょうか。

オンラインストアはこちらです→ ネイビー/ カーキ


ORDER BORDER・続報

いよいよ今週末(9/14~)に迫った今年のORDER BORDER

その続報です。

9/16(月・祝)は、新潟からG.F.G.S.代表の小柳さんが来浜され、皆様にその魅力を直接お伝えいただけることになりました。

たいへん多忙な中スケジュールを調整していただいたため、在店時間は終日ではなく12:00~18:00となりますが、なおのこと貴重な機会です。

もうすっかりおなじみの方も、はじめましての方も、もしご都合が合うようでしたら、是非このタイミングでお越しください。


空は広く 限りなく 僕等の夢なんだ ~ Jeanik/ 102 Denim Pants

昨シーズン、満を持して登場したJeanikのデニムパンツ#101

太くもなく細くもなく、素っ気ないほど中庸でありながら「普通」を感じさせないその卓越したデザインバランスは、多くのお客様からご好評賜りました。

ただ、この完成度が高いがゆえに、「もっと太いシルエットのものも欲しい」といったお声をいただいていたのも事実。
それについては、店主自身もまったくの同感でした。

そんな折、Jeanikの秋冬コレクションでワイドシルエットのモデルが提案され、当然はりきってオーダーしたのですが、ここに懸念事項が。

Google検索していただくとおわかりになるのですが、このJeanik、当店のような品揃えの店が取り扱うことは比較的珍しく、クラシコイタリアをベースにしたアダルトな洒落者向けのお店に置かれることの多いブランドです。

そのため、ほとんどのバイヤーさんからすると、ワイドシルエットのパンツなどもっての外、ほっそりとした色気のある美脚シルエットでないと仕入れませんよ、と判断されてしまうことになります。

そんな事情があって、このワイドデニムは生産できない可能性がかなり高いと云われていました…。

しかし!
このたびその壁を乗り越えて、皆様の眼前に披露できることとなったのです。


シルエットだけでなく生地も異なり、101でよりもやや青みが抑えられた、右綾のセルヴィッジデニムが採用されています。


無刻印のアノニマスなボタンや

リベットは、101と同じものを。

この禁欲的なデザインのメタルパーツもまた、Jeanikが目の肥えた当店のお客様方に高く評価される大きなポイントです。

リベットといえば、101との相違点として、この102ではヒップポケットに隠しリベットが打ち込まれています。

外からは見えないところですが、こうした仕様の選択から、101より若干ヴィンテージに近いイメージでデザインされているのが窺えますね。

ヴィンテージに近いと言ってもそこはJeanik、控えめな白い腰のラベル、タブも飾りステッチもないヒップポケットは、ジーンズ特有の泥臭さ、野暮ったさを削り込んでいます。

どこを見ても、唸るばかりの完成度です。

ブランドの公式サイトもSNSも存在せず、代理店も広告を打たず、謎ブランドのまま、ただ現場のリアルな反応だけで成長し続けているJeanik。
ここにきてまたさらなる高みへ進んだと言ってよいでしょう。

オンラインストアはこちらです


言葉よりも やさしいお花を ~ quitan/ WIDE R.C. SHIRT/ BUNDLE DYE

Stella splendens in monte ut solis radium
miraculis serrato exaudi populum.

Concurrunt universi gaudentes populi
divites et egeni grandes et parvuli
ipsum ingrediuntur ut cernunt oculi
et inde revertuntur gracijis repleti.

Principes et magnates extirpe regia
saeculi potestates obtenta venia
peccaminum proclamant tundentes pectora
poplite flexo clamant hic: Ave Maria.

Llibre Vermell de Montserrat “Stella splendens” (fol. 22r)

バルセロナ郊外のモンセラート修道院に伝承されている、14世紀の宗教文書の写本『モンセラートの朱い本』。

同書にはモンセラート修道院へ参ずる巡礼者たちが「誠実かつ敬虔」に歌い踊られるための10曲の歌謡が含まれていることで知られていますが、冒頭はその2曲目、ヴィルレー《輝ける星よ》の歌い出しです。

今季のquitanがテーマとした文化行動は、「巡礼」。
そこから聯想して、この一節が引用されたそうです。

ラテン語はひじょうに難しく、店主の乏しい学力ではとても翻訳ができないため、quitanによる意訳を載せますと

険き山から 輝く星よ
陽の光のように 人々のことばを聴き給う
どんな人も満たされ 集まるだろう
富める者も 乏しき者も
老いた者も 幼き者も
わたしたちの目で 彼らの到着を見届けて
もう一度 声をあげましょう
アヴェ・マリアと

このような内容となります。

カトリックに於ける信徒には、教皇から司教、一般信徒に至るまで何層もの明確なヒエラルキーが存在してはいますが、そこには実際の社会階層が(少なくとも建前上は)反映されません。
先の歌にもあるように、一般信徒という点では貧富も年齢も関係く、ひとつの信仰を軸に、行動や習俗が共有されます。

今回のコレクションテーマである「巡礼」に立ち戻りますと、キリスト教圏に限らず、巡礼は古今東西を問わず行われてきました。
表面的には文化的な差異に見えるようなことでも、本質的には通底していたりするもの。

階層を超えた交流や異文化間の交流は、その根の部分での共有があるからこそ可能なのでしょう。

このシャツにもまた、「共有」の物語が込められています。


年齢も男女も、体型もほぼ問わず包み込む、たっぷりとしたワイドなサイズバランスのシャツで、身に纏うと生地のゆとりが体のラインに沿って流れるよう設計されています。

前身頃は身頃と袖が一体化したワンパネル構造、

一方背面は着物のような袖付けとなっており、この仕立てもまた老若男女の垣根を超えるものです。

この穏やかで美しい生地にも当然言及せねばなりませんね。

しっかりとしたコシと厚みのあるコットンシルクの生地に、プリントやジャカードではなくもっとプリミティブな方法で染色がされています。

植物を無地の生地に散らし、そのまま巻き込んで縛ったまま蒸しあげることで、色素が布に転写される、バンドルダイと呼ばれる技法です。

どんな柄が生まれるかは、やってみないと読めません。

この染色工程は、東京の福祉施設で働く人たちとquitanチームの共同で行われました。
作業のみならず、その偶発性も「共有」しながらつくられた生地というわけです。

正直なところ、単にシャツとして考えるとかなり高額な品となりますが、これはもう作品と呼べるものであり、その類稀なる魅力を心から「共有」できるだれかのもとに届くであろうことを、心から信じています。

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