ORDER BORDER、始まってます

昨日から始まった、当店では7回目となる春の風物詩ORDER BORDER。

たいへん有難いことに、初日は多くのお客様に(しかもうまい具合にあまり混みあうことなく順々に)お越しいただけ、ブログ等の更新などいっさいできませんでした。

一方本日は打って変わって春の嵐の直撃を被り、荒れる店外/静かな店内となることがなんとなく予測されます。

ですので、昨日撮った店内の写真から、今回のORDER BORDERの断片をお伝えすることにしましょう。

今回の期間限定色は3色。

灰色がかり落ち着いた青、カデットブルー(画像は×オフホワイト)、

深みのある灰色、ダークチャコール(画像は×ネイビー)、

そしてあたたかな赤茶色、ラセットブラウン(画像は×ブラック)です。

これらを含めた通常の色展開に、食品廃棄物を再利用したFOOD TEXTULEシリーズも、エシカルとかサステイナブルとかとは関係なしにその美しい色調ゆえ人気となっています。

また、今季限定モデルであるBIGシリーズは、男性向けのビッグサイズです。
女性はSサイズか、リラックスタイプが合いそうですね。

イベントは28日まで開催(ただし、23日は13時からの営業となり、24日は定休日です)していますので、ご都合の良いタイミングで是非遊びにいらしてください。

お待ちしております!


ひとところには とどまれないと ~ ASEEDONCLOUD/ Sakurashi jacket & trousers

急かされるように咲きはじめた緑道の桜が、あっという間に満開を迎えようとしています。

となると、今年はそのぶん早く散ってしまうわけで、それはそれで寂しいものですね。

ところで、桜の話ではないのですが、世阿弥『風姿花伝』別紙口伝にこのような記述があります。

そもそも、花といふに、万木千草において、四季折節に咲くものなれば、その時を得てめづらしきゆゑに、もてあそぶなり。
申楽も、人の心にめづらしきと知る所、すなはち面白き心なり。
花と、面白きと、めづらしきと、これ三つは同じ心なり。いづれの花か散らで残るべき。
散るゆゑによりて、咲く頃あればめづらしきなり。

端折りながら意訳しますと、
「花というものは四季折々に咲くものであり、その時々を得る珍しさゆえに愛でられる。(中略)花、面白さ、珍しさ。これら三つは同じ心である。散らずに残る花などあろうか。花は散るからこそ、咲いたときに珍しさをおぼえるのだ」
ということです。

散ることも花の価値。
桜なんてまさにそのものと言えます。

以前のブログでも軽く触れましたが、ソメイヨシノは花のみならず木の寿命もまた短く、わずか60年しか生きられません。

60回の春の勤めを果たしたのちは、静かに朽ちていくのみです。

花咲か爺さんの末裔たる”心師”は、そうした桜の死を新たな生へと引き継ぐお手伝いに携わっています。

このイラストで着ているのが、桜に向き合うための彼なりの正装です。

まずはジャケットについて。


極度の人見知りである”心師”は、目立たぬように目立たぬようにと、先代のお下がりである上着を初代が花を咲かせるのに用いた犬の灰で黒く染めていました。

このリネン生地ではその色を再現し、墨汁を原料とした染料で両面をコーティングし、その後洗いをかけて、ムラのある、着古したような風合いを引き出しています。

「正装」とはいえ、実際の作業は伐採です。
ワークウェアとしての動きやすさはとても重要となります。

ですのでこのジャケットの肩には可動域を拡げるアクションプリーツが設けられています。

デザイン上一番目立つ腰の共生地ベルトも、ただお洒落なだけのディテールではありません。

木を切り倒す前には、樹上に上り周囲を確認する必要があります。
ときには枝の上で不安定な状況に置かれることもあるでしょう。

そこで安全のため、このベルトを体ごと枝に巻き付けて、姿勢を固定したりするわけです。

また、両脇のポケットのフラップの内側がベルトループになっている構造につき、ベルトをきゅっと絞るとそれに伴ってフラップがしっかり閉じます。

こうすることで、ポケットの中に入れたものが落ちにくくなるんですね。
実に合理的!

前立てはシングルブレストにしてはやや深く、中心からずれた位置で一つのボタンを留めます。

ベルトと併用したりしてしっかりと体を包む着方に限らず、ボタンとベルトを留めない状態でもだらしなくなりにくくなっています。

なお、このジャケットには色違いも存在します。

こちらは経糸に風合いのよいリネン、緯糸に安定性に優れた綿を用いて織りあげた、厚手のオックスフォードです。
厚手とはいえ、打ち込みを意図的に少なくし、柔らかさや通気性を備えています。

若木を思わせるこの色目に合わせ、ボタンは木製のものが採用されました。

この”HOLD FIRST”には素敵な逸話が隠されています。

ASSEDONCLOUDデザイナーの玉井さんがロンドンに住んでいた時の話です。
当時古いワークウェアなどに使われていたジャンク品のようなボタンを蒐集していたようで、そのなかでとくに気に入っていたのが”HOLD FAST”と刻印されていたボタンでした。

これは単に「(ボタンを)しっかり留めましょう」という意味(”fast”はもともと「固定」を表す単語で、「速度を固定する」から「速い」の意味をもつようになりました)の刻印なのですが、とあるマーケットで玉井さんが出会ったおばあさん曰く
「本当は”HOLD FAST”ではなく”HOLD FIRST”というボタン。子供のユニフォームの一番上に付けられていて、一番最初にこのボタンから留めましょうと言う意味だったのよ」。

結局その後も”HOLD FIRST”ボタンを見つけることはできなかったようで、おばあさんの話が本当なのか作り話なのかは今もわからないままです。
と言っても、その真偽はさして重要ではないでしょう。

のちにASEEDONCLOUDを発足した玉井さんは間もなく”HOLD FIRST”ボタンを作成、とても大切なものとして、現在に至るまで断続的に使い続けています。

さて、このジャケットと対となるパンツもございます。


木のボタンはこちらでも使われています。

伐採作業のためのワークパンツですから、立体的で動きやすく、

バックポケット内側下部には補強の布が張られています。
ステッチはただの意匠のみならず、それを固定するためのものです。

ところで”心師”の生業は大道芸人でして、伐採した桜の木の切り株を舞台に、マリオネットを操ります。

そのため、彼は作業の合間には人形使いの練習をしています。
実に忙しい人です。

ですから桜の園へは自作のマリオネットを持参していかねばなりません。
バックポケットが大きいのはそうした理由もあります。

背面中央のベルトループがX状となっているのは、ポケットに入れたマリオネットの十字の持ち手がぶらつかないよう挟み込むためです。

どれも物語性に満ち溢れているだけでなく、純粋に服として実に魅力的です。

今年の、いえこれからも桜の季節を彩るお伴として、是非お手元へ。

オンラインストアはこちらです→
Sakurashi jacket ブラック/ ベージュ
Sakurashi trousers ブラック/ ベージュ


私は貝になりたい ~ Olde H&Daughter/ SUVIN PLAIN STITCH CREW NECK LONG SLEEVE

ほかほかした陽気に促されていつもより駆け足気味にソメイヨシノが咲きはじめ、仲町台の景色はぐっと春めいてきました。

軽い羽織ものやシャツと合わせたいと、長袖の上質なTシャツをお探しの方が増えているのも、また春らしさです。

もちろん、店頭には自信をもってお薦めできる極上の逸品を用意しております。

OLDE THINGSの各ブランドのなかでも、そのクリーンな色や素材使いで異彩を放つOlde H & Daughter(以下OH&D)。

昨年のブランド初登場時にご紹介したスヴィンコットンのTシャツの長袖バージョンです。

スヴィンはカリブ代表の海島綿とインド代表のスジャータ種を掛け合わせた綿で、油分が多く、しっとりとした肌触りと潤いのある艶を備えています。

その魅力ゆえに最近はいろいろなブランドが使用していますが、やはり何にでもスヴィンを使えばよいというわけではなく、適材適所の考え方は大切です。
もちろん、こうしたさらりとしたカットソーには抜群の相性を誇ります。

このスヴィンを糸にするにあたり、毛羽が内側に向くよう撚ることで、着込んだ際の全体的な毛羽立ちが抑えられ、艶ややわらかな肌触りといった風合いが持続します。
ただ単に高級な綿ですよとアピールに終始するのではなく、ぱっと見た感じや触った感じではわからない、そうした部分こそ大切にされているわけです。

もちろん、シャツ自体のつくりにも一切の手抜きはありません。

襟ぐりには伸縮性に優れた特殊な糸を、その他の部分は肌触りを考慮し綿糸と、部位によってもっとも適切な糸を選び縫製しています。

肌にストレスをかけないよう肩に接ぎ目のない設計となっているのも見逃せません。

この構造ゆえ肩と胴がほぼ同じ幅となりますが、だからこそ生まれる自然な肩の落ちの、この麗しさ。

また、往時の下着から引用した仕様で、背面が長く、ヒップラインに沿って裾が円くカットされています。
これは単純なビジュアルの意匠ではなく、お尻や腰をを冷やさないための工夫です。

なお、ブランドのネームラベルに縫い留められている大きな長方形のタグは、サイズ表記や値札も兼ねています。
着用時は糸を切って外してください。

ちなみに、サイズ感の目安として、4が女性~小柄な男性向け、8が男性のM相当、10が男性のL相当となっております。

過度な主張はなく、それでいて単体できちんと成立する美しい造形をもった、素晴らしいTシャツです。
どの色も実に魅力的でそう簡単に決めきれないかも知れませんが、お好みや用途にあわせて、最高の一枚をお選びください。

オンラインストアはこちらです→ オフホワイト/ シェル/ ブラウン/ セージグリーン

Olde H & Daughterについてのデザイナーへのインタビュー記事はこちら


オンラインストアの送料改定のおしらせ

現在、当店オンラインストアでは、税込13200円未満のお買い物につきましては送料一律1000円、13200以上のお買い物につきましては送料無料とさせていただいております。

ところが近年、増税に加え配送料や梱包材の価格が高騰し、これ以上この設定で続けることが現実的に困難となってしまいました。

そこで苦渋の決断ではありますが、2021年4月1日より、送料を下記の通り改定致します。

13200以上のお買い物につきましては送料無料(13200円未満の場合は一律1000円)

全国一律800円

ご不便をおかけしますが、ご理解のほどどうぞ宜しくお願い致します。


あらしのよるに ~ HAVERSACK/ サイドシームレステーパードパンツ

いやはや凄い雨です。まさに春の嵐。
これでも明日からしばらくは晴れてどんどん暖かくなるようですから、今はただじっと過ぎるのを待つしかありませんね。

気がつけば3月も中旬、すっかり春となりました。
オーダーした春物の大半は立て続けに入荷してきており、ご紹介がまったく追いつかない状態。

上着と違いぱっと見新作がどうか判りづらいパンツなどは、油断すると気づかれないままとなってしまいかねません。
それは実に勿体ない話です。

HAVERSACKの新型は、落ち着いたシンプルなデザインゆえ、オンライン上はもとより店頭でもあまり目立ちませんが、一度試せばグムムと唸らされます。

大胆なものが多い同ブランドでは珍しいほどの、抑制の利いたテーパード。
ふんわりしたヒップラインから裾に向かって美麗な輪郭を描きます。

ナイロンの入った乾いた肌触りの薄手ギャバジンで仕立てられ、春から夏にかけ気持ちよく穿くことができます。

ちょっと変わった特徴として、両脇の縫い目がない、つまり筒状に生地の繋がった構造です。

生地の繋ぎ目による分断がなく、脚を包む曲線の流れが阻害されず、円みのあるシルエットを形成します。
穿き心地もまろやか。

このパンツはすでにHAVERSACKファンの方はもちろん(なにせリピーター率の高いブランドです!)、同ブランドに初めてトライするための一本としてもお薦めできます。
単体ではわかりにくい服の本質的な魅力を、是非一度実際にお召しいただき、ご堪能ください。

オンラインストアはこちらです


今年もやります、ORDER BORDER!

春の風物詩ORDER BORDER。

昨年開催時は、最後の二日に県の外出自粛要請と雪が重なるというアクシデントに見舞われましたが、お陰様で無事やり通すことができました。

そして今年。
状況は悪くなる一方で、もはや年内の終息どころか収束も見込めませんが…
変わらず実施します

2度目の緊急事態宣言なんぞは飲食店の閉店時間が早くなっただけですし、すでに大きな街には人が戻ってきています。
片田舎の当店でORDER BORDERを開催しようがしまいが一緒です。

第7回目となる今年の会期は

3/20(土)~3/23(火)
3/25(木)~3/28(日)

となります。

会期中の営業時間はいつも通り12:00~20:00。
ただし、3/23(火)のみ、店主の家庭の事情につき営業時間が13:00からとなりますので、どうぞ宜しくお願い致します。

展開モデルは、いつもの定番素材PLAYに(写真は去年の様子です)

昨年から引き続き、業や農家で発生する食品廃棄物から染料を抽出し、無駄をなくしていくプロジェクト”FOOD TEXTILE“との共同企画シリーズ。

そして2021SSシーズン限定モデル、ビッグシルエットタイプも登場します。

店内にあるこれらのサンプルを参考に、生地、色、型、サイズ、袖丈、ボーダー幅などを会場にて組み合わせ、自分だけの特別なボーダーシャツを作ることができるという、ボーダー愛好家にはたまらないひと時となります。

G.F.G.S.公式サイトの”ORDER”でシミュレーションもできますので、こちらで事前に計画を練るのも楽しいですよ。

なお、G.F.G.S.さんの人気はこの疫禍下でも落ち込むどころか増すばかりのようで、そのため生産スケジュールが立てこみ、いつもより若干お届けにお時間をいただくこととなりそうです(目安として、1ヶ月半~2ヶ月くらい)。
こちら予めご了承ください。

あの震災からもう10年、いまだ被災地は完全に復興したとは言えず原発も壊れっぱなし、くわえて昨年からのコロナはグダグダな状態と、この国は混迷そのものの状況ですが、まず市井の一服屋がすべきことは、服で少しでも気持ちを明るくすることです。

心の健康も、病への武器となります。
もちろん現実的な感染対策には気をつけたうえで、みんなで春の訪れを祝いましょう。


カシミヤのほほえみ ~ YOAK/ “CASHMERE Limited”Collection

今回の疫禍による生活様式や働き方の変化は、当然ビジネスウェアにも影響を与えました。

「背広はサラリーマンの戦闘服」と呼ばれたのも今は昔、ビジネスシーンに於けるスーツ離れは加速の度を増すばかりです。

だからといって、Tシャツに短パン、ビーチサンダルでとはいかないもので、仕事の場で人と接するにあたって服装で礼節を示す必要性自体は変わりません。

ゆえに、YOAKの黒いレザースニーカーを仕事用にとお求めになる方が増えています。
いわゆる革靴に代わる新たな選択肢として、一般的な目でも認められつつあるのでしょう。

そんななか、同ブランドから新たな提案が。
黒に見えるくらい深いチャコールグレーの新シリーズ”カシミアコレクション”です。

型はお馴染みULYSEと

STANLEY。

このカシミアコレクション最大の特徴は素材にあります。

カシミアを冠してはいますが、もっと靴に適した素材で、カシミアを思わせるこまやかな質感…
コシの強いしっかりした牛革をメインで使用していたYOAKでは初となる、鹿革です。

定番のモデルではスウェードをあしらっていた部分も含めて、すべてこのディアレザーに置き換えられています。

牝鹿の皮から作られたこの素材は、見た目通りのやわらかさ、しなやかさ、通気性を備え、なおかつ耐久性に優れています。

その柔軟性や耐久性、入手の容易さから、鹿の皮は人類最古の衣服だったという説があります。
我が国でも、弥生時代後期から古墳時代のころには大陸から伝わった皮鞣しの技術を用いて鹿革の生産が始まっていたようです。

一方、ライニングには爪先に至るまで耐摩耗性と排湿性に秀でた豚革を採用。

中敷きは革と低反発フォームの二重構造です。

このライニングと中敷きが生み出す「ちくわぶ」と称される履き心地に、鹿革の特性が加わるのですから、それはもう素晴らしい着地点しか見えてきませんね。

なお、アッパーと縫合されたラバーの靴底は、張替えが可能となっています。

せっかくのアッパーの耐久性を存分にお楽しみいただくべく、履き込んでソールがすり減ったら、捨てるのではなく修理に出してください。
YOAKの公式サイトまたは当店店頭にて受け付けています。

オンラインストアはこちらです→ ULYSE CA/ STANLEY CA


FACYにて私的プレイリストを公開致しました

当店のお客様にはだいぶお馴染みとなったFACYの人気企画、お店のプレイリスト。
(過去公開リスト一覧はこちら)

このたび春にふさわしい新プレイリストを公開致しました。

<あのお店のプレイリスト|仲町台Euphonica vol.1「素晴らしきインドネシアンポップスの世界2」>

初回にご好評いただきましたインドネシアのポップス選、第2弾です。

思い起こせば前回、かの国にあまりに佳い曲が多すぎて、ひとつのプレイリストにまとめるなんてことができませんでした。
そこで曲の流れから選考洩れした曲も含め、あらたに構築したのが、今回のリストです。

SpotifyのFACYさんのアカウントを覗くと、有難いことにこのインドネシアンポップスリストのフォロワー様が一番多く(2021/3/8時点)、予想以上に喜んでいただけているようで、とてもうれしく思います。

今回のプレイリストも、素晴らしい曲揃いです。
どうぞお楽しみください!


ねぇ どうして 涙が出ちゃうんだろう ~ EEL Products/ LOVE ME SHIRT

昔の映画やテレビドラマなどを見ると、俳優さんの衣装にその時代性が如実に表れていて、面白いものです。
当時どんなにトレンディとされていても、いや、トレンディだったがゆえに一層「古いなー」と感じてしまいますよね。

たとえば流行が一巡し、そのころのファッションがリバイバルしていても、やっぱり何か違う。
可愛いな、新鮮だな、とは思っても、そこに漂う時代感は拭えません。

しかし、放送当時のみならずそこから四半世紀経ってもなお、「あれはカッコよかった…」「最高だった」と語り継がれるケースもあります。

某ドラマの主演俳優さんのシャツ姿なんてまさにそれで、当時のトレンディな着方ではないのにも拘わらず、その溢れ出る色気は世の多くの女性を悶絶させました。
昨年特別企画で再放送されましたので、長く綺麗な指で紡がれる美しい手話とあわせて、その佇まいの魅力を再認識した方もいらっしゃるのではないでしょうか。

EEL Produtsの新作LOVE ME SHIRTは、それを再現したデザインではありませんが、けれどなぜか想起させる、そんな心ざわめくプルオーバーシャツです。

台襟を省いたデザイン、たっぷりとした形状やリネンのやわらかさ、自然な凹凸感などが相まって、肩の力の抜けた佇まいを生み出しています。

製品染めによる、どこかしら哀愁の漂う色調も魅力的です。

生地自体の特性とサイズ感のため風通しがよく、春はもちろん真夏でも快適にお召しいただけます。

まずは一度お試しください。
どう合わせるとかを考えず、ただばさっと被る、それだけの所作が最もこのシャツの魅力を引き出せるはずです。

オンラインストアはこちらです→ グレー/ ネイビー/ キャメル


「シルエット」考

Twitterをご覧の方はご存知かと思いますが、当店ではPeingの質問箱のサービスも行っておりまして、毎日のようにいろいろなご質問を頂戴しております。

そのなかでも昨日いただいたこのご質問にはハッとさせられました。
曰く、

「シルエットが良いとはどういったものでしょうか
〇〇はシルエットが良い!と言われても初心者の私にはピンときません涙」

実にシンプルで、しかし鋭く盲点を突く問いです。

「(この服は)シルエットが良い」、
たしかに何となく使いがちな言い回しではあります。

当店の接客やブログなどでも、無意識的に用いていたかも知れません。

でもたしかに、その「シルエットが良い」とは如何なる状態を指すのか、これを説明するのは甚だ困難です。
すなわち、説明できないような言葉で説明していたということになりますよね。
そこに気づいてしまった以上、もはや放置はなりませぬ。

そう容易く明解な答えがでるものでもありませんが、せっかく素晴らしい思索の機会をいただきましたので、足りない頭と乏しい語彙を使って考えてみることにします。

まず、「シルエットが良い」から定義づけていきましょう。
これは、輪郭の造形美に優れている状態と言えそうです。

次に、服によるその輪郭や造形に対する好印象とはどのようなものを指すのか、これは2通り考えられます。
A. 着用者を主体とした造形美
B. 服を主体とした造形美

Aは、いわゆる「スタイルをよく見せる服」の結果です。
たとえば脚が長く見えるパンツなどがここに含まれます。
バブルのころによく見た、肩幅の大きなジャケットが描く逆三角形のファッションもこれですね。
頭を小さく、脚をすっきり見せ、そして着用者を大きく感じさせる視覚効果があります。

一方Bに関しては、着用者の肉体は服の芯に過ぎません。
その芯が纏う服の形状が生む視覚効果を重視します。
たとえば着物なんかはここに含まれるのではないでしょうか。

どちらも着地点としては「シルエットの良さ」を実現していますが、「シルエットの良い服」というのは、Bを齎す服なのではないかと思います。

Aに対する評価は、あくまで着用者の肉体の輪郭を主体とします。
そして、たとえば「脚が長い」とか「顔が小さい」とかは、(その時代の価値観に則った)肉体の造形美であり、衣服そのものを評価するものでもありません。
何なら、そうした「スタイルが良い」とされる要素を備えた人物の裸体も並べて同じように評価が可能です。

一方でBに関しては、たしかに肉体を伴うものの、しかし依存度は低い(後述しますが、ゼロではありません)。
あくまで、着用した際にその衣服を主軸としてどのような視覚効果を発揮するのか、そこに着眼が置かれます。

「シルエットの良い服」を言い換えると、「(この)服はシルエットが良い/(この)服のシルエットが良い」となります。
この想定に着用者の肉体は存在せず、あくまで主語は名詞「服」ないし名詞句「服のシルエット」となりますから、この表現をみても、それはAよりもBのための服の意味が強いと判断してもよさそうです。

では、このBを見据えて考察を進めていきましょう。

まず注意すべきは、前述BはときにAでもあり得るということです。
例えば、これもパンツを例に出しますと、「脚が綺麗に見える」。
肉体の上に纏わる衣服がもたらす輪郭の造形美とともに、それを着用する肉体の造形美も実現した状態を表しています。
ですから、服を主体とし、その比重をいくら高めたとしても、衣服の芯たる肉体の存在を完全に無視して考えるわけにはいきません。

先ほど例に挙げた着物は、もちろん単体で見ても美しいのですが、しかしそれはあくまで物体としての美であり、着物を着たときの美しさとは異なるものです。そしてBの造形美とは、着用時の美を指します。
すなわち、服単体を見たのみでは、その造形美を真に判断することはできないと言えます。

次に、芯である肉体の役割を見ていきます。

言うまでもなく人の肉体には個体差が存在しますから、それを芯とする以上、肉体+服が生む造形美にも個体差が生じます。
着物のようにフレキシブルな構造をもたない洋服に関してはとくにその美的な差を縮めるのが服作りの妙技でして、デザインもそうですし、パターンワークや縫製技術の腕の見せ所です。
この技術点の高さもまた、「シルエットの良い服」には欠かさざる条件でしょう。

とは言え、いくら技術を駆使した服であっても、サイズがまったく合ってなかったり、服の構造そのものが肉体とあまり相性がよくなければ、Bの造形美は生まれません。
それはA軸で判断されるような肉体美そのものを問う話ではなく、その肉体がその服に適しているか否か(同時に、その服がその肉体に適しているかも)が重要です。
ですから造形美を判断するにあたり、この相性が適切であるという前提は必要となります(もちろん、これに加えて綺麗に着るための技術なども大切ですが、ここまで踏み込むと話が複雑になりますから、今回はいったん置いておきます)。

この肉体との相性を最低限以上クリアした状態であらためて服に戻りますと、ある程度の個体差を技術でカバーしたその服が、いよいよ「シルエットの良い服」として見え始めてきました。

一度まとめてみましょう。
・「シルエットの良い服」というのは、いわば「服を主体とした造形美」に優れた服のことである
・服を主体とした造形美を生み出すには、芯である肉体の存在は前提となる
・その服がある肉体に重なった総合的な状態に生まれる輪郭が、造形美の評価の対象となる
・肉体の個体差による造形美のブレを縮めるには、服と肉体との相性と、服そのものの対応力、両方が求められる
・この対応力に優れ、そして着用時に望ましい造形美を生み出せるものが、一般的に「シルエットの良い服」と称される

さて、この「造形美」の価値基準がときに永遠不変なものではなく、時代とともに移ろい得るものであり得ることも忘れてはなりません。
この無常の流れによってある時代に収まり旬を迎えた価値観が「トレンド」と呼ばるものと繋がっていきます。

ゆえに、「シルエットの良い服」もまた、「こういうもの」だとはなかなか具体的に絶対性をもった定義づけができないものです。
「”シルエットの良い服”と言われてもピンとこない」のには、こうした移ろいやすさも起因していると思われます。

また、造形美を造形美として判断すること自体、実はある程度の修練を要します。
いわゆる「目が肥える」とされる状態ですね。
しかし、そうして磨き続けた審美眼は、そのときそのときのトレンドを知識として知っておくこと以上に有用で、服を着る行為をより豊かに愉しくしてくれるはずです。